上 下
57 / 80
この世界は皆噂好き

しおりを挟む
 
 大浴場は既に掛け流し状態になっていて、事前にエルメーアが準備していてくれたことを知った。
 パンツへの情熱が凄いせいで忘れがちになるが、やはり有能な女性だ。
 まぁ水を向けなければ熱く語ることもないし、こちらが気をつければ良い話だけれど――……チビが同じように下着への情熱を持ち始めているのは正直怖い。


「うん、やっぱりそのパンツは良いね。お尻が綺麗に持ち上がってる」
「……じっと見るんじゃない。オッサンの尻だぞ?」
「尚志はオッサンじゃないよ。若い若い。――……うーん。でもやっぱり革製も欲しいかな」

 四十歳は自他ともに認めるオッサンだと思うのだが、チビは魔族だからか感覚がおかしいようだ。
 確かに、必要性を感じられないダンスやウォーキングのお陰で下半身は変わったように思う。自分ではちゃんと見れないけれど、鏡越しに見た時に「おぉっ」と思うことがあった。
 女性だったらこの変化は更に嬉しいだろうな。

「ほら、尚志。早く早く!」
「わかったから、風呂場で走るな。掛け湯をしてから……」
「先に体を洗うんでしょ。わかってるから大丈夫!」


 普段から結構子供っぽい言動をしているチビは、小さい姿になると全く違和感がない。
 ザッパザッパとお湯を体に掛けていたチビから桶を受け取り自分にも掛けていると、もう洗い場の椅子に座ってモコモコな泡作りに没頭していた。

 村ではマイユプの葉を使用していたが、こちらには液体のボディソープがある。
 と言っても原材料はマイユプなので、違うのは加工して香りを付けて、ついでにしっとりタイプとすっきりタイプが選べる点だ。
 考えてみればマイユプにはこれといった香りがなかった。強いて言うなら弱い〝石鹸の香り〟だろうか。あれはあれで好きだったけれど、気分や季節によってニオイを選べるのは楽しい。

「でもアカスリタオルは欲しい」
「スポンジ嫌い?」
「もっとゴシゴシ擦りたいな」

 スポンジは向こうの〝へちま〟に似た植物を乾燥させた物。長さも十分にあるので背中を洗うのは楽になった。
 ただ少々柔らかい。
 女性や子供にはちょうど良いかもしれないが、俺としては固いタオルで擦るのが好きなのだ。

「駄目だよ。それをすると肌が荒れる」
「別にオッサンの肌荒れを気にする人間もいないだろう」
「俺が気にするの! 折角ここに来てツルツルでモチモチになったのに!」
「いや……うん、ちょっと待て。お前そんな違いに気付いてたのか?」
「うん」

 真顔で「うん」はないだろう。そういうのはやっぱり女の子に……いやでも下手をしたらセクハラだ……――と悩んでいる内に、チビはさっさと自分の体を洗って俺の後ろに膝をついた。
 一応、俺の言った〝ゴシゴシ〟に見合う力で背中を洗ってくれる。十歳程度だと重労働だと思うが、鼻歌交じりに首や腕まで洗ってくれて、かなり気持ちが良い。

「うぁっ!? お前、なんでそこまで洗うんだよ!」
「えー? 割れ目だし、別に穴まで洗ってないから良いでしょ?」
「穴って言うな。そこ、なんか擽ったいんだよ……こら、脇腹も止めろ。って何でスポンジ使ってないんだ!」
「気持ち良くない?」
「擽ったい!!」

 首や腕、背中はスポンジを使ってくれたのに、他の部分は素手で洗ってきた。
 さっきまでのリラックス気分は吹っ飛んで、擽ったさとゾワゾワした悪寒が背筋を走る。
 前のほうまで手で洗おうとするチビをなんとか引っ剥がして「早く湯船に浸かれ」と追い立てた。
 どこの風俗サービスだ、と言い掛けて我慢した俺は偉いと思う。チビは子供なんだから知る訳はないのだが――……教育に悪い。

「お風呂、ちょうど良いよ。尚志も早く入ろうよー」
「ちょっと待ってろ」

 こいつが小さな姿でも、結局疲れる。
 溜息を吐いた俺が浴槽のチビを見れば、「あ、小さい姿だと余裕で泳げる!」とバタ足を始めていた。――せめてプカプカと浮くだけにしなさい。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...