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この世界は皆噂好き

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 ――ヴェルクトリ魔王国に来て早三年。

 俺こと大村おおむら尚志ひさしは四十歳になり、チビは二十歳になった。

 いやもう、四十路ともなると二十代の若さが眩しい。
 俺もこんなだったかなぁと思ってしまう自分の老いが悲しい。
 なのに顔は変わっていない。
 俺としては、四十歳ともなればそれなりに渋みのある男になっている筈だった。全く、全然、これっぽっちも、ダンディなんて言葉には程遠い自分の童顔が憎い。

 そんな外見と中身の乖離が激しい俺とは違い、チビは年相応の美形に成長した。
 ガッツリと身長が伸びて今はもうバイラムの背丈と変わらないし、全身に程よくしなやかな筋肉を纏い、脚も腕も長くて、鼻も高ければ彫りも深い。俺の子供とは思えない。いや、俺の分身らしいから、厳密に言えば息子ではないけれど。
 それでも俺は息子として接しているし、チビも俺を親として慕ってくれている……と思う。
 少々甘えただが。


「とは言え、これはもういい加減不味いんじゃあないか?」

 毎日毎日、同じベッドで寝起きしている父親と息子――……これは幾つまでなら許されるのか。
 生まれてからの年月で言えば八年、そのまま数えて八歳の子供であれば小学二~三年生だ。親と一緒に寝ていても良いだろう。
 だが本人は二十歳の若き国王として生活している。
 そんな青年が毎晩「一人は嫌」と言ってベッドに潜り込んで来るのだ。
 俺の腕を枕にして、ギュウギュウとぬいぐるみ相手のように抱きついて眠って、朝は逆に俺がチビに抱きしめられたまま起きる。

 今もそう。

 だだっ広い、大人が五人は寝られそうなベッドに二人。いつものように隙間なくくっつきながら寝ていた。

「はぁ……チビ、起きろ」
「ぅ……ん――……」

 生返事は返してくるが目を開ける気配はない。まだまだ寝ると言うかのように抱きついている腕の力が強くなった。
 毎朝がこれの繰り返しである。
 二人きりの生活なら別に良い。いや、良くはないが「家庭によって様々だよな」と目を逸らすことは出来る。
 問題は、ここがヴェルクトリ魔王国の離宮の中ってことだ。
 俺にもチビにも側仕えの使用人がいる。もう慣れたもんで、国王が自分の寝室で寝ていなくても気にしていない。
 むしろ――……

「陛下はまたこちらへお渡りになられたのですね。仲がよろしいのは結構ですが、そろそろ起床のお時間ですよ」

 そう言いながらカーテンを開けてくれたのは、俺の側仕えでバイラムの娘でもあるエルメーア。
 見た目はチビとそう変わらないが、年齢は余裕で百歳を超えているらしい。

「エルメーア。……知ってるんだから、そういうことを言わないでくれ」
「ふふ。いい加減慣れても良いのではなくて?」
「なんで俺がめかけ扱いなんだよ。――ほら、クロムディオ陛下。起きてください」

「――……尚志は朝しかそう呼んでくれない」

「クロムディオって言いにくいんだよ。覚えただけマシだろうが」

 この国にやってきて一番最初に決めたチビの名前、〈クロムディオ・クニヒ・ヴェルクトリ〉は〈ヴェルクトリ魔王国の王様=クロムディオ〉と言う意味だ。
 最近は国名や地名なんかを勉強した甲斐あって呼べるようになったが、最初は長い横文字に慣れずに「クロ……クロ……?」と呼んでいた。
 犬や猫を呼ぶんじゃないんだからと言われて、俺だけは前のように〝チビ〟呼びが許された。

 それが〝陛下を「可愛い子チビ」と呼んでいる〟と邪推され――……一部からは〈国王陛下の年上の愛人〉と噂されている。なんでだよ。

「おはよう、チビ。――いい加減あの噂を訂正してくれよ」
「おはよう、尚志。――訂正しても聞いてくれないんだから無理」
「お二人とも、じゃれるのは夜だけにしてくださいませ」


 ちゃんと〈陛下の母親〉として引っ越してきたのに……――この世界の人間は、どうしてこうも勘違いが好きなんだろうか。


――――――――――
本日から毎日夜1回(20時)更新となります。(昨日の更新時にお伝えし忘れました💦)
そして、チビのお名前公表です。
元ネタはクロムダイオプサイトという綺麗な緑色の石です。
(私は最初、飴チャンぽいと思ってしまいましたがwww)
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