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チビの正体と自分の役割

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「この村で生活してたら、今教えて貰ったことを活用することはなさそうなんだよなぁ……」

 地名なんて〈この村〉と〈隣村〉〈王都〉くらいしか使わない。
 種族については多少聞いていても、実物はこの五年間で一度も見たことはない。村にいる限り今後も見ることはなさそうだ。
 チビが居なくなるなら王都にまで出て行っても良いけれど……多少は貯金があるとは言え、一から生活基盤を整えることを考えると色々と厳しいかもしれない。


「尚志? なに言ってんの??」
「だってチビは王様になるんだよな? あ、魔王様か? ……――そう言えば魔王ってどういう職業なんだ? 勇者と戦う仕事なら、その進路は考え直した方が良いな」

 あまりゲームはしてこなかったが、勇者と魔王は戦う決まりと言うのは知っている。そうなるとチビは魔王として他の国々を侵略するのだろうか。
 それも嫌だな。本人の希望を尊重する懐の深い親になりたいが、血で血を洗うような仕事は止めて欲しい。

「魔族って言っても単に魔力が馬鹿みたいに多いだけの平和主義者だよ。〈魔族の王様〉を略して〈魔王〉って言われるけど、本当にそれだけ」
「えぇ。ここ千年ほどは四種族で大きな戦いもなく平和なものです。最低限の外交はありますが、竜族も森族も多種族とはほぼ没交渉ですし……」

 国家としてどうかと思うが、それで千年近く廻っているらしい。
 たまに人族の阿呆が戦争を仕掛けてきても、物理や魔法なんかはこちらの方が上なのでプチッと潰して終わり。それだって特に四種族で連携することもないから、集まると言えば何かの記念日に「おめでとう」と言う――ただそれだけの付き合いと言われた。

「この世界の決定事項だから俺が王様にならないって選択肢はない。だから村からは出て行くけど、尚志も連れて行くよ?」
「なんでだよ。俺が行ったところで何も出来ないだろ。俺が魔王でも出来ることはなかっただろうけどな。――成長の為の魔力だって、もう必要ないんだろ?」

 チビが居なくなるのは寂しいが、親族経営でもない職場に親が居るのはおかしな話だ。
 五年しか一緒に居られなかったけど、ここまで大きくなったのなら心配ない。本人曰く十七歳と言うことだし、俺が死ぬ前に大きくなってくれただけで良い。

「嫌だよ。俺は尚志と一緒にいたい。親とか子供とか魔力とかそういうことじゃなくて、俺には尚志が必要。――……それにさ、言いたくないけど〈王様の親〉だよ? ここがいくら田舎でも、もしバレて人質に取られたりしたらどうするつもり?」
「誰がそんなことするんだよ」
「わかんないけど。でも、有り得ない話じゃない。――国に来てよ。お城で生活してみて、本当に無理だと思ったらそこでまた考えようよ」

 昨日までは泣き顔さえ見せなかったようなチビが、俺に抱きついて嫌だ嫌だと駄々をこねる。
 そうされてしまうと、今ここで「無理」と言い切るのは可哀想だと思ってしまう。

「前例はありませんが、陛下の母君として迎えることは出来ます。生活に不自由がないよう取り計らいますし、仕事をしたいと仰るなら融通も……――あぁそれと、あそこにあるのは味噌ですよね? 我が国の特産品ですよ」
「バイラム、それだ! ――尚志、味噌の食べ放題だよ!!」

 今はザハーヌ商会を経由しなければ手に入らない味噌。確かに魅力的ではあるが、味噌ばかり出されても困る。
 それならやはり――……。

「白米、もち米、味噌に醤油……先々代が執念で作り上げた数々ですが、他種族の口には合わないらしく輸出が芳しくないのが問題でして」
「え。……和食があるのか?」
「ワショク……あぁそんな名前でしたね。それを作るのに必要だからと、海の近くまで領土を広げたんでした」

 味噌を知った時に思い描いた食べ物が、全部ある。

「ほら! これを聞いたらどう? 思い出したら食べたくなってくるよね!?」
「……チビは食べたことがないだろう」


 でも、かなりグラっと来る。
 更にバイラムが「米の酒もありますが、お好きですか?」と追い打ちをかけてきて、あぁ行くだけ行ってみるのも良いかな、と――……そう思ったら無意識に「行く」と答えてしまっていた。
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