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第十四話

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 そこまで考えて佐藤は自分がどうなりたいのか思考の迷路に入りかけた時、唐突に〝ピンポーン〟とインターホンが鳴った。
 壁に備え付けられているモニタを見てみれば、昨夜別れた松本がいる。

「え? なにか忘れ物か??」
「違うけど……ちょっと気になったから来てみた。お前、今の時間わかってる?」

 以前の入院騒ぎ以降、松本には合鍵を渡している。それなのに毎回律儀にインターホンを鳴らす意味を聞いた時、「とりあえず礼儀だろう」と返された。スマートフォンやインターホンでの反応がなかった場合は利用するつもりらしいが、今のところそんな事態にはなっていない。

「何時……松本が帰宅する、時間?」

 つまりは夜。しかし松本は勤務時間がまちまちなので、一般的なサラリーマンの退社時間とは違っている。

「うん。もう二十二時近い」
「え?!」
「だからカーテンを閉めっぱなしにすんなって言ってるだろ? あと、なんとなく食べてないような気がしたから飯も持ってきた。食おうぜ?」

 礼儀が云々と言うわりには勝手知ったるとばかりにダイニングを抜けて、松本が寝室のカーテンを一気に開けた。

「空気も籠もってる! カビが生えるぞ、部屋にもお前にも」

 網戸のある側の窓が開いてレースカーテンが夜風に揺れる。確かに、ちょっと空気が籠もっていたかもしれない。佐藤がそんなことを考えていると、松本が点けっぱなしになっていたパソコンに気付いた。

「お? お、おぉ……そうか……えっと、うん、勉強熱心だな?」
「……変な想像をするな!」

 開いていたウィンドウにはボーイズラブな漫画が全画面で表示されている。しかもちょうどラストのキスシーン……勉強熱心と言われるような内容ではないはずだが、改めて言われると如何わしいものを見ていたような後ろめたさが湧き上がってしまう。

「むしろ良い傾向、かな?」
「え?」
「なんでもない。まぁとりあえず食おう。野菜多めのやつ買ってきたからさ」

 ダイニングテーブルに広げられたものはおひたしや煮物が多い幕の内弁当だ。相対的に量も増えてしまうため、佐藤が箸をつけることを躊躇すると「食べきれなかったら俺が食べる」と向かいに座った松本が言う。その当人が食べているのは焼き肉弁当で、むしろ佐藤の残りで野菜を補充するつもりなのが丸わかりだった。

「……じゃあ、その時は頼む。あと、買ってきてくれてありがとう」
「どういたしまして。……んで、どうよ? ボーイズラブを読んだ感想は」
「んぐっふ……!」

 合わせて用意されていた味噌汁を飲み込む時に聞かないで欲しい。
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