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変人シェフと美大生①

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 進藤と美大生四人組による店再生プロジェクトが始まった。
 進藤の駆るNEW MINIでホームセンターへ行った四人はまず必要な道具を全て買い揃え、進藤のカード払いで支払いを済ませた後、店に戻って作業に取り掛かる。

「一花と桃子は店の中の掃除な」

 手に軍手をはめ、頭にタオルを巻いた流歌がそんな事を言うので一花は反論する。

「えーっ、私も塗装やりたいんだけど!」
「外暑すぎるから駄目だ。熱中症で倒れたらシャレになんねえだろ」
「こんくらい平気だし」
「バーカ、夏の暑さをナメんなよ」
「桃子も、日焼けしたら大変だから中にいてくれ」
「うーん、圭人君がそう言うなら……」
「一花。桃子をあのシェフと二人きりにしないためにもお前も中の作業しろ。なっ」
「……わかったよ」
「君達、くれぐれも外壁をレインボーカラーに塗ったりしないでくれよ⁉︎」
「大丈夫です、そんな事しませんって」
「じゃあその足元に置いてある、カラフルな塗料は何なんだい⁉︎」

 進藤が悲痛な声で叫びながら流歌の足元に置いてある塗料を指差す。そこには赤や紫、黄色、緑といった非常に多様な色の塗料が積まれていた。
 流歌はその塗料を一瞥してから、進藤を見上げてにこりと微笑む。

「これはまあ、気にしないで下さい」
「すごい気になるんだが!」
「気にしないで下さい。どうぞ中に入ってて下さい」

 言いながら流歌は、進藤の長身をグイグイと押して店の中へと引っ込ませた。ばたりと閉じられた扉を見て、進藤は不安に顔を歪ませる。

「一花君、あの二人に任せて本当に大丈夫なのか⁉︎」
「大丈夫ですって。髪型はあんなんですけど、流歌は割と真面目なんで」
「そうか……だが……」
「それより進藤さん、店の中のテーブルと椅子、床掃除の邪魔なので一旦外に運び出すの手伝って下さい」
「あ、ああ」

 一花と桃子は椅子を持ち上げ、進藤はテーブルをひょいと担いで外に出る。次々に運び出すと、道の脇、流歌と圭人の作業の邪魔にならない場所に積み上げる。
 二人はホースで水をかけながら、脚立に上って豪快にタワシでガッシュガッシュと壁を擦っていた。本日流歌は暑さ対策のためにアルパカの描かれたつなぎの上を脱ぎ、腰で縛っている。圭人の方も同じくつなぎの上部分を脱いで腰に巻いていた。

 ちなみに圭人のつなぎには背中にハートマークが描かれ、真ん中には「桃子」と書かれているのだが、それを嫌じゃないのかと桃子に尋ねたところ「愛を感じる」と喜んでいた。別れたらどうするつもりなのだろう、と一花は思ったが、二人は今の所ラブラブなので余計なお世話というものだ。別れたらきっと、買い直すのだろう。いや、圭人の事だから別れても未練たらしくそのまま着続けているかもしれない。愛が重い。
 全て運び終え、店内がすっきりしたところでバケツに水を汲んで二人掛かりで店を磨き上げていく事にした。さて作業に取り掛かろうかというところで、非常にバツが悪そうに進藤が話しかけてきた。

「あのう……僕は一体何をすれば」
「とりあえず照明の電気変えてもらえますか」
「ああ」

 言って進藤はつい今しがた購入して来た電球を袋から取り出した。長身を生かしてホーローのランプシェードの真ん中にある電球を回して外すと、危うい手つきで変えていく。

「一花ちゃん、床と壁、どっち磨きたい?」
「そうだねえ。壁かな」
「じゃあ私は床を磨くねっ」
「よろしく」

 一花は店内の壁をぐるりと見回した。店の壁には絵がかけられていたり、作り付けの棚に皿や飾りが置かれていたりしている。まずはこれをどかさねばならないだろう。

「一花君、照明全部変えたよ」
「ありがとうございます」

 言われて照明をつけると、店の中は一気に明るくなる。

「わぁ、明るいね」
「こうして明るくなると、店の汚れ具合がより一層悲惨に見えますね」
「うぅ……」

 かすかに見える奥の厨房だけが別次元のように綺麗に磨かれているのも、なんとも言えない。

「次は何をすれば……」
「壁の絵とインテリアを下ろして下さい」

 背の高い進藤は一花が背伸びをしても届かない場所に楽々手が届くので、とても有難い。ハンディモップを用意していると、またもや進藤が話しかけてくる。

「一花君、終わったが、次は……」
「……まさかいちいち私に聞いてくるつもりですか?」

 ハンディモップにホコリ取り部分を装着しながら一花が尋ねると、進藤は肩身が狭そうに縮こまる。

「すまない、何をすればいいか本当にわからないんだ……」

 店のオーナーは、なぜかこの場において最も弱々しい態度で一花の顔色を伺ってくる。
 これでは一花の作業が捗らない。店はそこまで広く無いので壁の掃除など、一花一人がいれば十分だ。
 何か進藤を追い払ういい案はないだろうかと考える。

「うーん……あっ、あれです。私たちの賄いを用意して下さいよ」
「賄いを?」
「はい。もう十七時ですし、夕食がわりの賄いがあると嬉しいです。どうでしょう」

 すると進藤はパアッと表情を輝かせて勢いよく頷いた。

「任せてくれっ。ひとまず買い出しに行ってくる!」

 それまでの指示待ち人間から一転して生き生きとした笑顔でそう言うと、厨房奥にかけてあったバッグをひっつかんで進藤は店から飛び出した。

「一花ちゃん、進藤さんに頼られてるね~」

 桃子は雑巾をバケツの上で絞りながらのほほんと言う。一花はハンディモップをめいいっぱい伸ばしながら飾り棚の埃を落としつつ、返事をする。

「オーナー兼シェフなんだから、もっとしっかりして欲しいんだけど……」

 無理そうかな、と一花は思った。
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