17 / 43
バイトしますよ、賄い付きなら③
しおりを挟む
「ひゃっ」
「よー、一花。夏休み中なのに学校に来るなんて真面目だな」
「流歌」
「これやるよ」
「ありがとう」
「そんで、何描くか決まったのか?」
「まだ……」
「珍しいな。スランプか」
「そんなところ」
雑談しながら流歌が持って来たペットボトルの蓋を回した。プシュと音がして透明な泡が立ち上る。
グッと飲み込むと、爽やかで甘いサイダーの味がした。
流歌は一花の隣に座ると、自分の絵のセッティングを始めた。本日は前髪を上でまとめて大きいリボンのヘアゴムでくくっている。相変わらずどうかしている髪型だ。初めの頃はいちいちツッコミを入れていたが、もう慣れてしまっていちいち言及しなくなっている。
「流歌はどう?」
「下塗り終わったから、これから塗ってくとこ」
「早いね」
「まあ、早けりゃいいってもんじゃないと思うけどな」
「遅すぎるよりいいよ。私なんてこのままだと何も描けない。ヤバい」
「大丈夫だって、そういうアイデアは、ある日突然ポーンと振って来るもんだから」
「そうかなぁ」
流歌はあっけらかんと言うが一花にはそうは思えない。どんどんと準備する流歌を眺めながら、一花は焦りを感じた。置いていかれる。
「ねえ流歌。私ってさぁ……才能ないと思うんだよね」
「んなことねえよ」
「なんでそう思うのよ」
あっさりと否定して来る流歌に一花は問いかけた。
「だって俺、一花の絵好きだから」
「事あるごとにそれ言って来るわね……じゃあ聞くけど、私の絵のどんなとこが好きなの」
「え、決まってんじゃん。優しいところ」
一花の質問に流歌は即答した。道具を並べる手を止めてこちらを見て来る。
「一花の絵のタッチはさ、柔らかいよな。そんで出来上がった絵は優しい。俺には出せない味があっていいなと思うよ」
「私はオリジナリティ溢れる絵が描ける流歌が羨ましいんだけど」
「そこは人それぞれの持ち味があるだろ。今描けないんなら、それはお前の心が絵に集中できてないんじゃないか? 他に気になることがあるとかさぁ。それならそっちをなんとかすんのが先なんじゃないかなと、俺は思うわけだ」
的を射た発言にどきりとする。なぜ流歌は、一言も話していないはずの事情を知っているのだろうか。エスパーか?
一花は立ち上がった。画材一式をカバンに詰めなおし、まだ来て一時間も経ってないが帰る準備を始める。
「帰るのか?」
「どっかでネタ探して来る」
「そっか。なあ一花。あんまり思い詰めるなよ」
流歌は言って一花を見つめた。
「お前の絵、俺は好きだからさ。そのうちいいもの描けるって」
「…………」
「何かあったら言ってくれよ、俺、なんでも手伝うから。どうせ夏休み暇だし」
「ありがとう」
「とりあえずアレだ。カラオケでも行く?」
「行かないわ」
一花はそれだけ言うと絵画組成室を後にする。外に出ると、ひりついた熱波が押し寄せる。持っていた日傘を差して、駅を目指した。
「よー、一花。夏休み中なのに学校に来るなんて真面目だな」
「流歌」
「これやるよ」
「ありがとう」
「そんで、何描くか決まったのか?」
「まだ……」
「珍しいな。スランプか」
「そんなところ」
雑談しながら流歌が持って来たペットボトルの蓋を回した。プシュと音がして透明な泡が立ち上る。
グッと飲み込むと、爽やかで甘いサイダーの味がした。
流歌は一花の隣に座ると、自分の絵のセッティングを始めた。本日は前髪を上でまとめて大きいリボンのヘアゴムでくくっている。相変わらずどうかしている髪型だ。初めの頃はいちいちツッコミを入れていたが、もう慣れてしまっていちいち言及しなくなっている。
「流歌はどう?」
「下塗り終わったから、これから塗ってくとこ」
「早いね」
「まあ、早けりゃいいってもんじゃないと思うけどな」
「遅すぎるよりいいよ。私なんてこのままだと何も描けない。ヤバい」
「大丈夫だって、そういうアイデアは、ある日突然ポーンと振って来るもんだから」
「そうかなぁ」
流歌はあっけらかんと言うが一花にはそうは思えない。どんどんと準備する流歌を眺めながら、一花は焦りを感じた。置いていかれる。
「ねえ流歌。私ってさぁ……才能ないと思うんだよね」
「んなことねえよ」
「なんでそう思うのよ」
あっさりと否定して来る流歌に一花は問いかけた。
「だって俺、一花の絵好きだから」
「事あるごとにそれ言って来るわね……じゃあ聞くけど、私の絵のどんなとこが好きなの」
「え、決まってんじゃん。優しいところ」
一花の質問に流歌は即答した。道具を並べる手を止めてこちらを見て来る。
「一花の絵のタッチはさ、柔らかいよな。そんで出来上がった絵は優しい。俺には出せない味があっていいなと思うよ」
「私はオリジナリティ溢れる絵が描ける流歌が羨ましいんだけど」
「そこは人それぞれの持ち味があるだろ。今描けないんなら、それはお前の心が絵に集中できてないんじゃないか? 他に気になることがあるとかさぁ。それならそっちをなんとかすんのが先なんじゃないかなと、俺は思うわけだ」
的を射た発言にどきりとする。なぜ流歌は、一言も話していないはずの事情を知っているのだろうか。エスパーか?
一花は立ち上がった。画材一式をカバンに詰めなおし、まだ来て一時間も経ってないが帰る準備を始める。
「帰るのか?」
「どっかでネタ探して来る」
「そっか。なあ一花。あんまり思い詰めるなよ」
流歌は言って一花を見つめた。
「お前の絵、俺は好きだからさ。そのうちいいもの描けるって」
「…………」
「何かあったら言ってくれよ、俺、なんでも手伝うから。どうせ夏休み暇だし」
「ありがとう」
「とりあえずアレだ。カラオケでも行く?」
「行かないわ」
一花はそれだけ言うと絵画組成室を後にする。外に出ると、ひりついた熱波が押し寄せる。持っていた日傘を差して、駅を目指した。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
本編は完結。番外編を不定期で更新。番外編は時系列順ではありません。
番外編次回更新予定日 12/30
12/25
*『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11~11/19
*『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
くろぼし少年スポーツ団
紅葉
ライト文芸
甲子園で選抜高校野球を観戦した幸太は、自分も野球を始めることを決意する。勉強もスポーツも平凡な幸太は、甲子園を夢に見、かつて全国制覇を成したことで有名な地域の少年野球クラブに入る、幸太のチームメイトは親も子も個性的で……。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
つれづれなるおやつ
蒼真まこ
ライト文芸
食べると少しだけ元気になる、日常のおやつはありますか?
おやつに癒やされたり、励まされたりする人々の時に切なく、時にほっこりする。そんなおやつの短編集です。
おやつをお供に気楽に楽しんでいただければ嬉しいです。
短編集としてゆるく更新していきたいと思っています。
ヒューマンドラマ系が多くなります。ファンタジー要素は出さない予定です。
各短編の紹介
「だましあいコンビニスイーツ」
甘いものが大好きな春香は日々の疲れをコンビニのスイーツで癒していた。ところがお気に入りのコンビニで会社の上司にそっくりなおじさんと出会って……。スイーツがもたらす不思議な縁の物語。
「兄とソフトクリーム」
泣きじゃくる幼い私をなぐさめるため、お兄ちゃんは私にソフトクリームを食べさせてくれた。ところがその兄と別れることになってしまい……。兄と妹を繋ぐ、甘くて切ない物語。
「甘辛みたらしだんご」
俺が好きなみたらしだんご、彼女の大好物のみたらしだんごとなんか違うぞ?
ご当地グルメを絡めた恋人たちの物語。
※この物語に登場する店名や商品名等は架空のものであり、実在のものとは関係ございません。
※表紙はフリー画像を使わせていただきました。
※エブリスタにも掲載しております。
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
俺の好きな幼馴染みは別な人が好きなようです。だが俺のことも好きかもしれない
希望
ライト文芸
俺は忘れ物を取りに学校に戻ると幼い頃から親しかった幼馴染みが教室内に友達と話していた。
何を話しているか気になった俺は聞き耳をたてて会話を聞いた。
「ねえ、可憐好きな人いるの?」
お、好きな人の話しか。可憐の好きな人は気になるなあー。
だってたった一人の幼馴染みだし
「何でそう思うの?」
「いやだって可憐告白断ってばかりだから好きな人がいるのかなーって思って」
可憐は回りを誰かいないかキョロキョロしだしたので俺は屈んでばれないようにして、耳をすまて会話を聞いた。
「いるよ、好きな人はねN君なんだ」
Nってもしかして俺のことじゃないか。
俺望で頭文字Nだし。
なぜだかわからないが俺は不思議なこうとう感に包まれて叫びだしそうになったので俺は急いでその場をあとにして下駄箱に向かった。
はぁ~可憐の好きな人がまさか俺だなんて気付かなかったな。
だって最近はよく額田と、よくしゃべっていたし。
なんだか額田と話している可憐を見ていると心がモヤモヤしてた。
だけどこのときの俺は予想だにしなかった。まさか可憐の好きな人が額田でくっつくことに協力することになるなんてー
累計ポイント13万pt突破
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる