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第十一章 噴き火
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火の神の山が地を揺らし、火を噴いたそのときのことである。その轟音は、天地が割れたかと思うほどで、その体験のないヤマトの吏などは多いに動揺した。セイは、 時々、噴石が屋根を叩き、館が壊れるのではないかというほどの音を立てる中見苦しいほどに狼狽する吏を宥め、
「案じなさるな。まずは、この火噴きがどれだけ続くのか、見定めるのです」
と助言してやった。外を見ると、遥かに見えるはずの神の山すら見えぬほど、空が白い。
「灰が、出ているようです」
と、吏に教えてやった。ふつうなら、灰は薄く積もるだけであるが、今回のこの大きさはどうであろう。これは、いかぬかもしれぬ、とセイは思った。昔話で、かつて同じように神の山が火を噴いたとき、今よりも北にあったクナの旧地にも大いに灰が積もり、田が皆死んだことがあるというのを聞いたことがある。そのときの噴火がどのような規模であったのか分からぬが、間違いなく、今回のものは大きい。
「どうするのだ。どうするのだ」
吏は繰り返し、そればかりを言っている。
「この分だと、今日は、外には出られませぬ。外に出れば、たちまち石の餌食となりましょう」
と脅した上で、
「石が、屋根を突き破り、飛び込んでくることもあります。頭を、守られませ」
と助言しながら、更に脅した。吏は、格好ばかりで身につけることのない鎧兜を、慌てて身につけた。セイはそれを手伝ってやりながら、
「他の吏にも、兵にも、同じようにするようにお命じ下さい」
と言った。屋根を叩く音がもたらす恐怖に震えながら、吏はそれを承諾した。
「私が、呼ばわって参りましょう。くれぐれも、身を、低く」
吏が、それを聞き、頭を抱え尻を突き出した格好で震えてるのを一瞥し、セイは部屋を後にした。そのまま、自室に戻り、セイもまた武装した。今までの戦いでは簡単な武装のみで、甲冑を用いないことが殆どであったが、一応持ってはいた。それを身につけ、クシムの部屋を訪れた。クシムは、ただ座って、目を閉じていた。
「ヒコミコ」
とセイは呼んだ。クシムは、うっすら目を開け、ゆっくりと頷いた。セイの姿を見て、自らも武装すべく、ヤマトの傘下に入ってから箱の中にしまったままであった甲冑を取り出した。吏のときよりもしっかりと、セイはその着用を手伝った。
二人、鎧の上から、飛刀を差した革の帯を、斜めにかけた。
「これよりは、父上、とは呼びませぬ」
クシムが、兜を被りながら言った。
「セイ、で結構です。これよりセイは、ヒコミコのセイに戻ります」
セイはそう答え、二人、頷いた。
屋根を叩く轟音の中を、駆けた。もう、外は真っ白である。早くも灰に覆われはじめているらしい。普通、灰が噴出されてから積もるまでにはいくらかの間があるので、まだ積もりはしていないが、運悪く、風向きはこちらである。天地の全てが白い霞に包まれているようで、屋内にもその霞は侵入しつつある。その屋内を駆け回り、武装をすることを触れ回った。甲冑と盾で石から身を守りながら、兵が多く詰めている建物へも走った。屋外に出ると、いよいよ白い。呼吸も掠れてしまうほどに、埃っぽくなっている。この分では、降灰は相当なものになるとセイは確信した。一通りの伝達を終え、館に戻ると、二人で、吏の部屋を再び訪れた。吏は、セイが立ち去ったときと同じ姿勢でまだ震え続けている。ヤマトの権力の代行者として威張り散らしている割に、余りに情けない姿である。
「何をしておられる」
クシムは、吏に言った。セイは、クシムがこれほどまでに太く、よく透る声を発したのを聞いたことがない。
「ヤマトの吏たるあなたが、この神の怒りに立ち向かわずして、どうするのです」
これは、この時代では当然の理論である。この噴火が神の怒りである以上、権力の代行者たる吏は、その怒りを鎮める手立てを講じねばならない。それを怠ったり、神の怒りを鎮められなかった権力者がどのような末路を辿るのかは、以前に触れた通りである。
「神の、怒りを」
「鎮めるのです」
「どうすればよい」
吏の声が、震えている。クシムの腰から、光が走った。その光は、吏の喉元でぴたりと止まった。
「何を」
「ヤマトの吏たる者が、神の怒りを恐れ、その手立ても分からぬという。これは由々しきこと」
「やめろ」
「では、お歩きなさい」
言われるまま、吏は歩いた。剣を突きつけられたまま部屋を出て、外へと向かう。建物の中にいる者は、もともとのクナの者、ヤマトの者問わず、この変事に次ぐ変事を、ただ呆気に取られて見ている。
建物の入り口まで来た。剣を突きつけたままのクシムの背後からセイが躍り出て、吏の身体を強く押す。吏は、つまづきながら屋外に出た。
噴石が、先程までよりも一層激しく降り注いでいる。吏は噴石に頭を打たれ、兜を飛ばされ、血を流した。慌てて室内に駆け戻ろうとするが、セイとクシムの剣がそれを阻んだ。
「お鎮めなさい。神の怒りを」
「助けてくれ」
「あなたが、ほんとうにヤマトの力をこのクナにもたらす者ならば、火の神の怒りはたちどころに鎮まるはず」
「助けてくれ」
セイが、吏を蹴飛ばした。
大地に転がった吏の肥った身体に、噴石が雨のように降り注ぐ。鎧に当たる音が、地を石が打つ音の中で異質なもののように響く。
館の者も、皆、その様を見ている。助けてくれ、助けてくれと血まみれになって叫び続ける吏の頭を、拳ほどの噴石が通りすぎるようにして砕き、吏は静かになった。
「皆、見たか。ヤマトの力をこのクナにもたらすはずの吏が、自らの命のみを重んじ、その結果神の怒りはおさまらず、吏は死んだ。クナの者よ、聞こえるか。ヤマトの力では、クナを救えぬ。クナを救えるのは、クナの者だけだ」
クシムの呼び掛けに応じて、クナの者が、一斉に声をあげた。一見、無茶な仕打ちと理屈のように思えるが、この時代においては、これは至極全うな理屈であることを重ねて付け加える。
「戦え。我らは、火の神と共に生きてきたことを、思い出せ」
クシムの眼前に、先のヒコミコの背があった。その駆ける方に駆け、視界に映るヤマトの吏どもをことごとく殺した。セイも、他のクナの者も、戦いをせぬ文官のような者も、一斉にヤマトの役人を襲った。瞬く間に、百人のヤマトの役人は死骸になった。
外を見ると、噴石は止み始めている。
──ヒコミコ。これで、よいのですね。
セイは、白く霞んで見えなくなっている火の神の山の方に向かって、心の中で言った。火の神の山は、それに答えるかのように、一度だけ大地を揺らした。
火の神の山は、その後も三日、火を噴き続けた。季節は春になったところであるため、入り口の前に放り捨てたヤマトの者の死骸が腐臭を放ち始めていてもおかしくはないが、死骸の上に灰が積もりに積もり、腐乱が抑えられているのか臭いを閉じ込めているのか、それはなかった。クシムは、自らの従者となったセイに命じ、さもヤマトの吏からの使いであるかのように、報を出し続けた。
灰は、止むことを知らないように、降っている。
「ヒコミコ」
クシムが、またうっすらと目を開けた。
「これは、駄目なのではないでしょうか」
クシムが再び目を閉じた。考えている。セイは、この新たなヒコミコの決断を待った。その目が開いたとき、
「クナの地を捨てる。目指すは、北」
と言い、立ち上がった。館の中にいる者を引き連れ、敷地内の全ての館から兵や奴婢を連れ出すと、降り積もる灰を掻き分けながら都邑を回り、民をも引き出した。その集団は、灰にまみれながら、北へゆく。途中、ムラがあれば立ち寄り、更に大きな集団となり、長大な列が軍の先導により北を目指す。途中途中で、報をヤマトに向け放つことも忘れずに行った。
「クナを捨てることを、勝手に決めたことになりますが」
とセイがヒコミコに問うと、この若いヒコミコは、
「民が、勝手に移動を始めたと言っておけ」
と言った。これほどの灰が降れば、どのみちクナはもう、駄目であろう。本領の田は全て死に、それはすなわち国の死を意味する。どのみち、生きるためにはこれしかない。
「我らは、進むしかないのだ」
北へ進めば進むほど、降灰は緩やかになる。海に面した、大陸への海上交通の中継点として栄えたマツラまで来れば、クナでもよくある程度の降灰しかなくなっていた。しかし、集団は歩みを止めない。つい最近までクナの一部であった地であるから、クナの軍が民を率いて避難してきても、誰も咎める者はなかった。
一旦、候がいる館に入った。候は、もともとマツラの王であった者で、セイもクシムも、名と顔を互いに知り合う仲であった。候に、いや、王にことのいきさつを説明し、
「民の一部を、この地で引き受けてもらいたい」
と言い、候が受け入れると、そのまま二人で館の中を回り、ヤマトの吏や役人を皆殺しにした。万に近い数の民がその地に留まり、一部は軍に連れられ、そこから更に東に向かう。
マツラの東の端から、短い海峡を渡る。今連れているのは、そのための船に収容できるぎりぎりの人数である。これがノアの方舟ならば、様々な動物が乗り込むところであろうが、この船に乗り組むのはクナの人のみである。その船が対岸に着くころ、最後尾はまだ船にも乗れていない。
灰は、海を渡ったここでも薄く降っている。今ごろ、クナはどうなっているのであろうか。
あの美しい大地も、緑の山も、ヒコミコと二人で作った国は、全て灰の下に埋もれてしまった。振り返ると、海の向こう、南西の空がぼやけている。
セイの知るクナは、もうない。そのことに関する感傷もない。セイは、新たなヒコミコのもとで、新たな行き先があればよかった。
行き先は、セイには分からない。ヒコミコが、知っている。
「案じなさるな。まずは、この火噴きがどれだけ続くのか、見定めるのです」
と助言してやった。外を見ると、遥かに見えるはずの神の山すら見えぬほど、空が白い。
「灰が、出ているようです」
と、吏に教えてやった。ふつうなら、灰は薄く積もるだけであるが、今回のこの大きさはどうであろう。これは、いかぬかもしれぬ、とセイは思った。昔話で、かつて同じように神の山が火を噴いたとき、今よりも北にあったクナの旧地にも大いに灰が積もり、田が皆死んだことがあるというのを聞いたことがある。そのときの噴火がどのような規模であったのか分からぬが、間違いなく、今回のものは大きい。
「どうするのだ。どうするのだ」
吏は繰り返し、そればかりを言っている。
「この分だと、今日は、外には出られませぬ。外に出れば、たちまち石の餌食となりましょう」
と脅した上で、
「石が、屋根を突き破り、飛び込んでくることもあります。頭を、守られませ」
と助言しながら、更に脅した。吏は、格好ばかりで身につけることのない鎧兜を、慌てて身につけた。セイはそれを手伝ってやりながら、
「他の吏にも、兵にも、同じようにするようにお命じ下さい」
と言った。屋根を叩く音がもたらす恐怖に震えながら、吏はそれを承諾した。
「私が、呼ばわって参りましょう。くれぐれも、身を、低く」
吏が、それを聞き、頭を抱え尻を突き出した格好で震えてるのを一瞥し、セイは部屋を後にした。そのまま、自室に戻り、セイもまた武装した。今までの戦いでは簡単な武装のみで、甲冑を用いないことが殆どであったが、一応持ってはいた。それを身につけ、クシムの部屋を訪れた。クシムは、ただ座って、目を閉じていた。
「ヒコミコ」
とセイは呼んだ。クシムは、うっすら目を開け、ゆっくりと頷いた。セイの姿を見て、自らも武装すべく、ヤマトの傘下に入ってから箱の中にしまったままであった甲冑を取り出した。吏のときよりもしっかりと、セイはその着用を手伝った。
二人、鎧の上から、飛刀を差した革の帯を、斜めにかけた。
「これよりは、父上、とは呼びませぬ」
クシムが、兜を被りながら言った。
「セイ、で結構です。これよりセイは、ヒコミコのセイに戻ります」
セイはそう答え、二人、頷いた。
屋根を叩く轟音の中を、駆けた。もう、外は真っ白である。早くも灰に覆われはじめているらしい。普通、灰が噴出されてから積もるまでにはいくらかの間があるので、まだ積もりはしていないが、運悪く、風向きはこちらである。天地の全てが白い霞に包まれているようで、屋内にもその霞は侵入しつつある。その屋内を駆け回り、武装をすることを触れ回った。甲冑と盾で石から身を守りながら、兵が多く詰めている建物へも走った。屋外に出ると、いよいよ白い。呼吸も掠れてしまうほどに、埃っぽくなっている。この分では、降灰は相当なものになるとセイは確信した。一通りの伝達を終え、館に戻ると、二人で、吏の部屋を再び訪れた。吏は、セイが立ち去ったときと同じ姿勢でまだ震え続けている。ヤマトの権力の代行者として威張り散らしている割に、余りに情けない姿である。
「何をしておられる」
クシムは、吏に言った。セイは、クシムがこれほどまでに太く、よく透る声を発したのを聞いたことがない。
「ヤマトの吏たるあなたが、この神の怒りに立ち向かわずして、どうするのです」
これは、この時代では当然の理論である。この噴火が神の怒りである以上、権力の代行者たる吏は、その怒りを鎮める手立てを講じねばならない。それを怠ったり、神の怒りを鎮められなかった権力者がどのような末路を辿るのかは、以前に触れた通りである。
「神の、怒りを」
「鎮めるのです」
「どうすればよい」
吏の声が、震えている。クシムの腰から、光が走った。その光は、吏の喉元でぴたりと止まった。
「何を」
「ヤマトの吏たる者が、神の怒りを恐れ、その手立ても分からぬという。これは由々しきこと」
「やめろ」
「では、お歩きなさい」
言われるまま、吏は歩いた。剣を突きつけられたまま部屋を出て、外へと向かう。建物の中にいる者は、もともとのクナの者、ヤマトの者問わず、この変事に次ぐ変事を、ただ呆気に取られて見ている。
建物の入り口まで来た。剣を突きつけたままのクシムの背後からセイが躍り出て、吏の身体を強く押す。吏は、つまづきながら屋外に出た。
噴石が、先程までよりも一層激しく降り注いでいる。吏は噴石に頭を打たれ、兜を飛ばされ、血を流した。慌てて室内に駆け戻ろうとするが、セイとクシムの剣がそれを阻んだ。
「お鎮めなさい。神の怒りを」
「助けてくれ」
「あなたが、ほんとうにヤマトの力をこのクナにもたらす者ならば、火の神の怒りはたちどころに鎮まるはず」
「助けてくれ」
セイが、吏を蹴飛ばした。
大地に転がった吏の肥った身体に、噴石が雨のように降り注ぐ。鎧に当たる音が、地を石が打つ音の中で異質なもののように響く。
館の者も、皆、その様を見ている。助けてくれ、助けてくれと血まみれになって叫び続ける吏の頭を、拳ほどの噴石が通りすぎるようにして砕き、吏は静かになった。
「皆、見たか。ヤマトの力をこのクナにもたらすはずの吏が、自らの命のみを重んじ、その結果神の怒りはおさまらず、吏は死んだ。クナの者よ、聞こえるか。ヤマトの力では、クナを救えぬ。クナを救えるのは、クナの者だけだ」
クシムの呼び掛けに応じて、クナの者が、一斉に声をあげた。一見、無茶な仕打ちと理屈のように思えるが、この時代においては、これは至極全うな理屈であることを重ねて付け加える。
「戦え。我らは、火の神と共に生きてきたことを、思い出せ」
クシムの眼前に、先のヒコミコの背があった。その駆ける方に駆け、視界に映るヤマトの吏どもをことごとく殺した。セイも、他のクナの者も、戦いをせぬ文官のような者も、一斉にヤマトの役人を襲った。瞬く間に、百人のヤマトの役人は死骸になった。
外を見ると、噴石は止み始めている。
──ヒコミコ。これで、よいのですね。
セイは、白く霞んで見えなくなっている火の神の山の方に向かって、心の中で言った。火の神の山は、それに答えるかのように、一度だけ大地を揺らした。
火の神の山は、その後も三日、火を噴き続けた。季節は春になったところであるため、入り口の前に放り捨てたヤマトの者の死骸が腐臭を放ち始めていてもおかしくはないが、死骸の上に灰が積もりに積もり、腐乱が抑えられているのか臭いを閉じ込めているのか、それはなかった。クシムは、自らの従者となったセイに命じ、さもヤマトの吏からの使いであるかのように、報を出し続けた。
灰は、止むことを知らないように、降っている。
「ヒコミコ」
クシムが、またうっすらと目を開けた。
「これは、駄目なのではないでしょうか」
クシムが再び目を閉じた。考えている。セイは、この新たなヒコミコの決断を待った。その目が開いたとき、
「クナの地を捨てる。目指すは、北」
と言い、立ち上がった。館の中にいる者を引き連れ、敷地内の全ての館から兵や奴婢を連れ出すと、降り積もる灰を掻き分けながら都邑を回り、民をも引き出した。その集団は、灰にまみれながら、北へゆく。途中、ムラがあれば立ち寄り、更に大きな集団となり、長大な列が軍の先導により北を目指す。途中途中で、報をヤマトに向け放つことも忘れずに行った。
「クナを捨てることを、勝手に決めたことになりますが」
とセイがヒコミコに問うと、この若いヒコミコは、
「民が、勝手に移動を始めたと言っておけ」
と言った。これほどの灰が降れば、どのみちクナはもう、駄目であろう。本領の田は全て死に、それはすなわち国の死を意味する。どのみち、生きるためにはこれしかない。
「我らは、進むしかないのだ」
北へ進めば進むほど、降灰は緩やかになる。海に面した、大陸への海上交通の中継点として栄えたマツラまで来れば、クナでもよくある程度の降灰しかなくなっていた。しかし、集団は歩みを止めない。つい最近までクナの一部であった地であるから、クナの軍が民を率いて避難してきても、誰も咎める者はなかった。
一旦、候がいる館に入った。候は、もともとマツラの王であった者で、セイもクシムも、名と顔を互いに知り合う仲であった。候に、いや、王にことのいきさつを説明し、
「民の一部を、この地で引き受けてもらいたい」
と言い、候が受け入れると、そのまま二人で館の中を回り、ヤマトの吏や役人を皆殺しにした。万に近い数の民がその地に留まり、一部は軍に連れられ、そこから更に東に向かう。
マツラの東の端から、短い海峡を渡る。今連れているのは、そのための船に収容できるぎりぎりの人数である。これがノアの方舟ならば、様々な動物が乗り込むところであろうが、この船に乗り組むのはクナの人のみである。その船が対岸に着くころ、最後尾はまだ船にも乗れていない。
灰は、海を渡ったここでも薄く降っている。今ごろ、クナはどうなっているのであろうか。
あの美しい大地も、緑の山も、ヒコミコと二人で作った国は、全て灰の下に埋もれてしまった。振り返ると、海の向こう、南西の空がぼやけている。
セイの知るクナは、もうない。そのことに関する感傷もない。セイは、新たなヒコミコのもとで、新たな行き先があればよかった。
行き先は、セイには分からない。ヒコミコが、知っている。
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