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第1章 それはとても突然で。

第1.5話 【続・雪斗】君の手を振り払って

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奈緒「痛い!……もう、やめて………お願い、やめて………」
春「嫌だ、やめない……」
奈緒を押し倒し、ひたすら殴る春を、俺は呆然と見ていた。
奈緒「い……やだ………兄さん、助けっ……助けて!」
助けを求められている、なのに……


うごけない


弟が、弟が襲われているのに……
怖くて、動けない……
足が、震える。

怖い、怖い……怖いというなら、奈緒の方が俺より怖い目にあっているのはわかってる、でも……

次の瞬間、俺は、もうなにも考えたくなくなった。

雪斗「やめろ、やめろ……!!」
なにも考えずに飛び込み、
春「黙れよ……!」
殴られたっけ。


奈緒「兄さん、あの時は止めに入ってくれてありがと……」
雪斗「俺は何も……殴られただけだよ。」
その夜、頬に湿布をはり、腕や頭に包帯を巻いた奈緒が俺の部屋に入ってきた。
奈緒「それでも、助けに来ようとしてくれたの、うれしかった……」
シャツをぎゅっと掴み、今にも消えてしまいそうなか細い声でそう言った。
雪斗「……ごめん。」
俺は布団に閉じこもって、声を殺して涙を流す奈緒の顔を見ないようにしていた。
奈緒「………兄さん……」
雪斗「?」
奈緒は涙をふいたように振り切って言った。
奈緒「助けて、ほしい……」
雪斗「俺、なんにもできないよ。」
奈緒「それでも、お願い、助けて…!」
無理だよ……俺は、弱いから。
雪斗「……」

俺は、駄目な奴だ……弟を止めることが出来ないなんて、弟を守れないなんて。
俺には、ふたりしかいないってのにな……

雪斗「わかった。」
奈緒「えっ」
雪斗「できる範囲なら、助けるよ、期待はしないで。」
俺に期待なんてしても、無駄なだけだ。


奈緒「………うん。ありがと。」

雪斗「………」


君の手を振り払っていたら、君の声に聞こえないふりをしていたら


今頃奈緒は、どうなっていたんだろう。
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