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6章 三学期。
228.幸せ
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数日後。
「その症状だと…………あれだね、過眠症。」
郁人に言われて病院に行ってみた。
「かみん……?」
「ナルコレプシーって聞いたことない?突然寝たりしちゃうんだけど……」
少し聞いたことがある。
「そうなんですね………治せるんですか?」
「うーん……今は何とも、とりあえずお薬出しておくから。」
ーーー
「あ……おかえり、どうだった?」
「郁人の言った通りだった……、過眠症だって」
病院に行く事を電話で伝えたら、優馬が着いてきてくれた。
「というわけで薬を貰います。今度は覚醒維持…?の薬だって」
「澪の体持つかなそれ………」
睡眠薬の次は反対に覚醒維持。
自分の体が本当に心配になる。
まだ少し涼しい2月末。
病院の外はそこそこ冷たい風が吹いていた。
レンガの地面に枯葉が溜まって、足音がこつこつと響いた。
「寒いな……肉まん買ってかない?」
「うん………コンビニすぐそこだよ」
ーーー
コンビニに入って、すぐレジに置いてある中華まんを見ていると、
「あ………期間限定でチョコまんだって」
「チョコ…………」
チョコレート味…チョコまんが売ってた。
「美味しいのかな…………」
「買ってみる?あ、半分にしようよ」
2つ別の味を買って半分にして、片方ずつ交換する。
1個分のお金で2つの味が楽しめる方法。
「分かった。じゃあ僕がこれ買うから」
「了解、俺は…………」
ーーー
優馬はピザまんを買った。
「わぁ……チーズめっちゃ伸びる………」
近くの公園のベンチに2人で座った。
「はい、澪。」
「ありがと……。」
半分ピザまんを渡してくれた時、優馬の顔をちゃんと見てみた。
「…こうやってうざくないとかっこいいのにね」
「え、なになにデレ?デレですか??」
言わなきゃ良かった。
「あ……待って、半分にする」
僕もチョコまんを半分にしようと指をいれたけど、上手くできなかった。
大きいのと小さいのが出来上がってしまった。
「………はい」
「そんな不服そうな顔で大きい方渡さなくていいから……いいよ、そっちで」
しばらく無言で食べていると…………何かに気付いたのか、優馬が隣で嬉しそうに微笑んだ。
「…どうしたの?」
「いや……澪からチョコ、貰えたなって」
…………チョコ?
「ちょっと遅れたけどバレンタイン」
「……ばれ…、…………」
…………あ、
「っ……!そんなつもりで渡したわけじゃないから!!」
「でも貰ったことに変わりはないから…ッ」
…………ッ
「渡すならちゃんとしたもの渡すから………」
「え……」
でも今は何も持ってない。
「何かないかな………」
考えていると、
「…………あっ」
「ん?」
これで優馬が喜んでくれるかは分からないけど、
「あの………物ではないし喜んでくれるかも分からないんだけど、その…………
……手、…繋ぎたいな。」
…………
「お願いだからそういうのやめて心臓に悪い………」
「え、何?なんで?」
優馬がうずくまって心臓のあたりを抑えてた。
でもすぐに、顔を上げてこっちを見る。
「もう少し自覚持ちなよ………自分の事好きな奴にそんな顔しちゃ駄目だって…………」
………どんな顔だったんだろう。
「優馬、顔赤いよ」
「っ……見なくていいよ!」
「えー……」
顔が真っ赤な優馬に、少し意地悪してみたくなった。
「繋ぎたい……良い?」
「へっ……、あの、待ってまだ」
無理矢理手を繋いでみる。
「ッ~~…!!無理!無理無理心臓もたない!!!」
「うわ……早い………」
耳を近づけたら鼓動がすごく早くなっていた。
「………ふふ」
「澪……?」
………なんだか、すごく、
「幸せだなぁ……って」
ふにゃりと、口角が緩んだ。
まだ冷たい風が、この体の暑さには丁度良くて、
「ずっと、こうしてたいね」
ずっとこの心地良さが続いて欲しかった。
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