ゆうみお

あまみや。旧

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4章 二学期(2)。

145話 おまけ

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約10年前。

(海斗side)


「ここがお父さんの家?」
「まあだいたいそんな感じだな」


福島県三坂市。


夏休み、父の「家」に泊まりに来た。



「お祖父さんとお祖母さんが住んでたところで、今は空き家、なんだっけ?」
「ああ、好きに使っていいと言われたからな、たまにはいいだろ」


祖父と祖母が亡くなってから空き家になったこの家。
小学3年生だった俺は、それについてはあまり考えていなかった。


「お兄ちゃん、あっちに公園あった、川も!」
「じゃあ荷物置いたら行こっか、お父さん、いい?」
「分かった。昼食を済ましてからにしなさい」




というわけで、




ーーー


公園には知らない子供が沢山いた。



「澪ー!パス!」
「うん……、っあ"」ズベシャ
「澪が転んだ…!!」  



(可愛い子達……女の子かな)


柔らかそうな黒髪の小さい子、緑っぽい髪の優しそうな目の子、あと、



(あの子……長い髪)



茶色の髪の毛が、肩にかかっている。
可愛い女の子だと思った。



「人多いね……やめる?」
「あ、いや………あっちの砂場で、遊ぶ」




友達もいないので、隅で遊ぶことにした。





「……」
「……」


延々と砂場で山を作っている俺を、兄が隣で眺めてるだけ。


元々東京の方でも友達がいないから、1人で遊ぶのは慣れてた。



そして1人砂遊びで培った技術。


「エベレストできた」 
「おおー!」 




今回はなかなかの傑作だった。



「砂の質がいいな………」
「そうなんだ、……ん?」



その時兄が気付いたのは、3人の子供がエベレストを見ているところ。


「……なんかすごい見てる」
「見てる、なんだろ……」




目は合わせないようにして、2人で小声で話していた。すると……



「それお前が作ったの!?すごいな!!」




声をかけられた。




「え、あっ……うん」


見るとそれは、さっきの髪の長い女の子で。




「すごい……阿蘇山?」
「あれはエベレストだよ、澪」



その女の子の後ろで、さっきの黒髪と緑っぽい髪の子が俺のエベレストを見て話している。


話しかけられて困っている俺をよそに、




「澪、郁人君!ご飯ー!」



遠くから誰かの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。



「あ、お母さん……」
「澪のお母さん、」


あの黒髪の母親らしい。


腰まで下ろした黒髪を1つにまとめた母親は駆け寄ってきて、



「郁人君のお母さんが呼んできてって、澪もご飯だから早くね、あと……」


母親が茶色の髪の子を見た。



「ミクもそろそろお昼よね……?」


「ミク」という名前らしい。
名前まで可愛い………



「んーん!俺は今日は誰もいないからお弁当持ってきた!」


そう言ってミクはベンチの上にあった鞄からお弁当箱を取り出した。


ちなみに俺は11時頃にはご飯を食べていたから、普通だったらそろそろお昼だと思う。
ほかの子供たちもちらほら親に連れられて帰っていく。



「あら……うちで食べてく?ここに1人じゃ………」
「ううん!俺この子と食べる!それに後で兄ちゃん達も来るから!」




そう言ってミクは俺を見た。



「えっえっ?」


「にひひ」と笑って、兄もそれをニコニコしながら見てる。



「新しいお友達……?クラスの子?」
「東京から来たんです。夏休みなので」

兄が説明してくれた。



「まあ……貴方は高校生?」
「はい、俺は高校生で、弟は小学生です」


兄が俺の年齢を教えると、女の人は「ならうちの子と同い年ね!」と言っていた。



「それじゃあお願いしてもいいかしら……」
「はい!」





ーーー



あの人達がいなくなってすぐ、ミクは俺をベンチに座らせた。




「俺ミク!」
(俺っ子なのかな……)
「俺、海斗」



自己紹介をして、それからミクはすぐに包を開いてお弁当箱を開けた。


たまごのふりかけがかかったご飯が半分、あとはたこさんウィンナー2つと卵焼き、ミニトマトとかにかまぼこが入っている。



「食べる前に手を拭いて……海斗も拭く?」
「あ、うん……ありがと」



別に俺は食べないんだけど、とりあえず手拭きは貰った。


ちなみに兄は何故か俺が作ったエベレストをいろんな角度から撮影してる。見ない方がいい。



食べ始めたミクの隣でぼーっとしていると、



「はい!海斗!」
「えっ」


たこさんウィンナーを向けられた。



「口開けて!あがーって」
「え…あ、あがーー……」



口を開けると、その次に感じた肉の味。

口を閉じて噛むと、ウィンナーらしい肉汁が口いっぱいに広がった。



「………おい、し」
「そうだろそうだろ?!母さんが作ったからな!」


多分それ冷凍だろうけど、ミクの純粋な表情を見て何も言わないことにした。



「…ん」
「あ、米!米も食え!!」


そして次に食べさせられたのはたまご味のご飯。



甘くて、濃いウィンナーの味も緩和される。




「美味い?」
「美味い……」




すごく、美味しい。




「ミク、ありがとう」
「おうっ!あとー……」



まだくれるらしい。
自分だってお腹が空いてるはずなのに………



「ミク、もういいよ。俺もうご飯食べたし」
「そうなの?!」



先に言えばよかった。



「じゃあこれで最後!」


最後に食べさせてもらったのはミニトマト。


噛んだ途端いきなりすっぱくて驚いた。




「ミニトマト!美味い?」
「ぅ…ぅん」



すっぱい………






ーーー



ミクがご飯を食べ終わったあと。



「なあ、連絡先交換しよ!」
「え…あ、うん」

ミクがキッズケータイを片手にそう提案してきた。

俺も携帯を取ろうとポケットに手を伸ばした瞬間、





「ミク!」




公園の入口の方から、ミクを呼ぶ声が聞こえた。




「あ………兄ちゃんだ」
「兄ちゃん……?」



青髪にヘアピンをつけた男の子と、茶髪の犬っ毛な赤目の男の子。 



「あれ、従兄弟の兄ちゃん!今から家で遊ぶんだけど海斗も来る?」

「え…いや、いいかな」



知らない人怖い………




「そっか!じゃあまた会おうよ!」
「……でも俺とうき「まったなー!!」え………」



ミクはすたこら行ってしまった。






(なんて自由奔放な………)



連絡先も交換出来なかった。




「楽しかった?海斗」
「……まあ、うん」



少しマイペースな子だったけど、





(また………会えるといいな)









ーーー




「ていう感じでさ、可愛かったんだよその子」
「あ……そ…そうなんだーー……」


数年後。



「また会いたいな……ミク」
「………」



(それ多分俺だって………言っていいのか駄目なのか)




多分あれが、俺の初恋だったと思う。








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