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新年会
弟離れ
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新年会の会場で、修司は、腹違いの弟、聖の様子を見ていた。
聖は、子供の頃から、今にも消えて無くなりそうなくらい、存在自体が不安定だった。
子供の頃、俺の母親に毒を盛られ、声を一時無くし、俺の母親に雇われた者によって、殺されかけ、人かかわり合うのが怖くなって、引きこもってしまった。
一人静かに暮らしたい。と、昔、父親が学生の頃使っていたと言う、町外れの一軒家に行ってしまった。
始は、身の回りの事をする、お手伝いさんが通っていたが、いつしか、全て自分で出きるようになっていた。
さすがに食事だけは心配なので、父親の友人の、旅館を経営している小納谷のおじさんに頼んで、食事は運んでいたそうだ。
俺は、母親のしでかした事を挽回するように、勉学に励み、父親の片指くらいにはなっているだろう、業績を作り上げた。
だが、片隅には、聖の事が心配で、時々土産を持って、訪ねて行った。
婚約者であり、いとこである幼馴染みの紅緒も、そうだった。
何か口実を作っては、聖の元を訪ねていって、外に視線を向けようとしたが、一向に見向きもしなかった。
気が向くと、散歩がてら町にも来ていたが、用事を済ますと、直ぐに帰ってしまう。
時々、一緒に町で買い物をしても、人混みが有ると、近づきもしなかった。
そんな聖が、黒龍と出会って、変わった。
…楽しそうに笑うようになったのだ。
あんな楽しそうな笑顔は、子供の頃、兄妹三人で遊んでいた時以来だ。
だから、ホッとしたのもあるし、少し寂しい気持ちもあって、紅緒には、そろそろ弟離れしなさい。と、まで、言われてしまった。
…そう簡単に、離れられるものか…。
そんなことを思っていた。
そんな弟、聖の元に、黒龍が来て、二年の月日が流れていた。
新年会に「黒龍を出席させないなら、出ない」と、聖が言い、去年は急遽、黒龍にマナーや立ち振舞いなど、教え込ませた。
今年は少し板についてきて、スマートにお客をこなしている。
聖は、黒龍の側にやって来る女性達に、やきもちを妬いていた。
今までには、考えられない事だ。
黒龍は黙って、聖を気遣い側にいた。
彼なら、聖の事を大切にしてくれる。
黒龍になら、聖を任せても良いかと決心したのもこの時だ。
だから、そろそろ自分達の事を考えなくてはいけない。
…紅緒の事だ。
婚約者であり、幼馴染みの彼女の事を、幸せにしてあげたい。
彼女と家庭を持ちたい。
それはずっと昔から、思っていた事…。
互いに仕事が忙しく、聖の事が気がかりで、今までその話は、互いに避けていたのもある。
彼女の純潔を守りながら抱き合い、一緒に眠ることも有る。
なんど、貫きたい衝動に駆られ、一歩手前で抑えていたか…。
今にして思えば、俺なりの意地だったのかもしれない。
新年会が終われば、彼女はいつものように、俺の部屋にきて、俺の腕のなかで眠る。
そんなことを考えていると、ココに居ない筈の、見知った顔を見つけてしまった。
…相変わらずの澄まし顔で、如月家の新年会に潜り込んでいる友人。
学生時代の同級生で、この町の旧市街の顔役の一人…。
「どっから入り込んだ」
「まあ、つては色々有るからな。それより、噂の聖のお相手は…この間の、あの男か?」
「…。」
…そうだった。
一年ほど前、俺を庇って刺されたこの男を、聖のもとに連れていって、聖の不思議な力で傷を治してもらったんだ。
その時に、力を使って弱った聖と、怪我をしたこの男の面倒を見てもらったのが、黒龍だったことを思い出す。
「親父さんも寛大になったもんだな…」
相変わらず、嫌みったらしく言っていたが、突然、硬直する。
「やべっ。紅緒さんに見つかった。…こっちに来る…」
イタズラを見つかった子供のように、男は顔をすくめる。
「相変わらず神出鬼没ね」
「君こそ目敏いな。修司の側に来て、まだ、数分とたってない」
紅緒は呆れた顔をして、男を睨み付ける。
「修司の側に誰かが近付けば、注目を浴びるのよ。次は誰だってね」
「…。」
この二人は犬猿の仲。
顔を合わせれば、なぜか言い合いになってしまう。
…だが、この男は、ソレを楽しんでいるように思えて、嫉妬してしまう。
…どちらにだ…。
…俺は、二人の間で、いつも板挟みになってしまう。
「それより、そろそろ聖達を解放してあげたら。黒龍は明日も仕事だし、聖も眉間にシワがよってきていたわよ」
「そうだな。声をかけてくる」
聖も黒龍も、こういった社交場は慣れていない。
限界が来る前に、退室させてあげた方が良いだろう。
修司は二人を残して、聖と黒龍のもとに向かった。
その後、二人が何か話しているようで、気になったが、聞き取れはしなかった。
聖は、子供の頃から、今にも消えて無くなりそうなくらい、存在自体が不安定だった。
子供の頃、俺の母親に毒を盛られ、声を一時無くし、俺の母親に雇われた者によって、殺されかけ、人かかわり合うのが怖くなって、引きこもってしまった。
一人静かに暮らしたい。と、昔、父親が学生の頃使っていたと言う、町外れの一軒家に行ってしまった。
始は、身の回りの事をする、お手伝いさんが通っていたが、いつしか、全て自分で出きるようになっていた。
さすがに食事だけは心配なので、父親の友人の、旅館を経営している小納谷のおじさんに頼んで、食事は運んでいたそうだ。
俺は、母親のしでかした事を挽回するように、勉学に励み、父親の片指くらいにはなっているだろう、業績を作り上げた。
だが、片隅には、聖の事が心配で、時々土産を持って、訪ねて行った。
婚約者であり、いとこである幼馴染みの紅緒も、そうだった。
何か口実を作っては、聖の元を訪ねていって、外に視線を向けようとしたが、一向に見向きもしなかった。
気が向くと、散歩がてら町にも来ていたが、用事を済ますと、直ぐに帰ってしまう。
時々、一緒に町で買い物をしても、人混みが有ると、近づきもしなかった。
そんな聖が、黒龍と出会って、変わった。
…楽しそうに笑うようになったのだ。
あんな楽しそうな笑顔は、子供の頃、兄妹三人で遊んでいた時以来だ。
だから、ホッとしたのもあるし、少し寂しい気持ちもあって、紅緒には、そろそろ弟離れしなさい。と、まで、言われてしまった。
…そう簡単に、離れられるものか…。
そんなことを思っていた。
そんな弟、聖の元に、黒龍が来て、二年の月日が流れていた。
新年会に「黒龍を出席させないなら、出ない」と、聖が言い、去年は急遽、黒龍にマナーや立ち振舞いなど、教え込ませた。
今年は少し板についてきて、スマートにお客をこなしている。
聖は、黒龍の側にやって来る女性達に、やきもちを妬いていた。
今までには、考えられない事だ。
黒龍は黙って、聖を気遣い側にいた。
彼なら、聖の事を大切にしてくれる。
黒龍になら、聖を任せても良いかと決心したのもこの時だ。
だから、そろそろ自分達の事を考えなくてはいけない。
…紅緒の事だ。
婚約者であり、幼馴染みの彼女の事を、幸せにしてあげたい。
彼女と家庭を持ちたい。
それはずっと昔から、思っていた事…。
互いに仕事が忙しく、聖の事が気がかりで、今までその話は、互いに避けていたのもある。
彼女の純潔を守りながら抱き合い、一緒に眠ることも有る。
なんど、貫きたい衝動に駆られ、一歩手前で抑えていたか…。
今にして思えば、俺なりの意地だったのかもしれない。
新年会が終われば、彼女はいつものように、俺の部屋にきて、俺の腕のなかで眠る。
そんなことを考えていると、ココに居ない筈の、見知った顔を見つけてしまった。
…相変わらずの澄まし顔で、如月家の新年会に潜り込んでいる友人。
学生時代の同級生で、この町の旧市街の顔役の一人…。
「どっから入り込んだ」
「まあ、つては色々有るからな。それより、噂の聖のお相手は…この間の、あの男か?」
「…。」
…そうだった。
一年ほど前、俺を庇って刺されたこの男を、聖のもとに連れていって、聖の不思議な力で傷を治してもらったんだ。
その時に、力を使って弱った聖と、怪我をしたこの男の面倒を見てもらったのが、黒龍だったことを思い出す。
「親父さんも寛大になったもんだな…」
相変わらず、嫌みったらしく言っていたが、突然、硬直する。
「やべっ。紅緒さんに見つかった。…こっちに来る…」
イタズラを見つかった子供のように、男は顔をすくめる。
「相変わらず神出鬼没ね」
「君こそ目敏いな。修司の側に来て、まだ、数分とたってない」
紅緒は呆れた顔をして、男を睨み付ける。
「修司の側に誰かが近付けば、注目を浴びるのよ。次は誰だってね」
「…。」
この二人は犬猿の仲。
顔を合わせれば、なぜか言い合いになってしまう。
…だが、この男は、ソレを楽しんでいるように思えて、嫉妬してしまう。
…どちらにだ…。
…俺は、二人の間で、いつも板挟みになってしまう。
「それより、そろそろ聖達を解放してあげたら。黒龍は明日も仕事だし、聖も眉間にシワがよってきていたわよ」
「そうだな。声をかけてくる」
聖も黒龍も、こういった社交場は慣れていない。
限界が来る前に、退室させてあげた方が良いだろう。
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