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獣人の街グオルク ~~

街の散策 4 ~フェイの短剣の模様~

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 クルヤさんが、持ち手の付いた平たい木の板に魔力紙を乗せて持ってきてくれた。

「触っても良いですか」
「ああ、良いよ」
 オルガはそっと魔力紙を手にすると、ほんのわずかに魔力を感じた。
 クルーラの魔力紙に比べて、魔力が弱い…。
 オルガは魔力紙を元の板の上に戻すと、気になった事をクルヤさんに質問した。
 魔力量の弱さは、グオルク産の魔力紙だからだそうだ。
 グオルク産の魔力紙は、グオルク周辺で魔素溜まりが出来、その周辺の木々が魔素を多く取り込んで、魔力を帯びてしまった木を選んで加工しているそうだ。
 なので数は少ないし、魔力もそれほど強くないそうだ…。

 オルガはお礼を言って、風属性の模様の紙と、さっき描いた中質紙を追加でもう一束、全部で二十枚、中質紙の横綴じしてある紙束を二冊買ってお店を後にした。
 結構な金額と重さになったが、紙束がくしゃくしゃにならないように、それぞれ紙袋に入れてくれてた。
 そして僕が描いた風属性の模様の紙だけ、さらに別の袋に入れてくれ、さらに布の袋にまとめて入れてくれた。
 その布袋はアレイが買ったモノを入れると言うことで、持ってくれると言うので、お願いした。

 クルヤさんには、また近いうちに会えるような気がした。



 その後は予定通り、街を散策しながらテイルさんに教えてもらったチーズケーキ屋さんに入り、注文した。
 外観はレンガ作りの可愛らしい…猫族の町ミルーシャの家みたいな建物で、働いている人達も猫族の人達だった。
 ミルーシャから来ている人達なのかも知れない…。
 フェイはシンプルなチーズケーキと紅茶。
 僕とアレイは、チーズケーキセット。
 ベリーとベリーソースで飾られたチーズケーキと、黄色い柑橘系のソースがかけられたチーズケーキ、イチゴの果肉が中に混ぜられ、イチゴの乗ったレアチーズケーキ。
 それが一皿に乗せられて目も楽しませてくれる。
「「「頂きます!」」」
 三人はニコニコとチーズケーキを食べ始めた。
 

 オルガはチーズケーキを堪能して食べ、紅茶を飲んで一服しているときに、ふと思った。
 さっきみたいな属性模様は、一属性だけだったけれど、複数を描き込むと、どうなるんだろう…。
 互いに邪魔しないように、一つになるように…。
 例えば、三属性持っていた、フェイの短剣、綺麗だったよな…。
 銀色のキラキラの星が煌めいて、暗い闇色と水色が混じり合わずに一つになって…。
 あのイメージをさっきの八等分の『折り魔紙』の大きさに合わせると…。
 中央に星…周囲から闇の黒が渦めいて、水色の風に乗って、中央の星を目指す…。
「…。」
 そんな図柄が…三属性が混じり合った属性模様が、脳裏に出てきてしまった…。
「…どうした?」
 紅茶のカップを持ったまま、動きを止めたオルガにフェイが問いかける。
「…えっと…さっきの続きの模様…。フェイの短剣の模様が…浮かんでしまった」
「「…。」」
 アレイとフェイが顔を見合わせる。
 フェイの短剣は珍しい三属性、闇と風と聖属性。
 ココで紙を広げて描くわけにはいかないし、クルヤさんの店に行って描かせてもらうわけにもいかない…。
 どうしよう…。
 思い付いたときに描かないと、忘れてしまう…。
「確か、近くにも小さい広場が有ったよな…」
「うん。もう少し先に行った所だったと思う」
 フェイが、役所でもらった地図を広げ、確認する。
「ソレ、飲み終わったら広場に行こう。そこなら人目を気にしなくて良い」
「うん!」
 オルガは手に持っていた紅茶を飲み干し、テーブルの上に置いた。
 こういう時、頼りになるよね…。
 突然思い立っても、周りがいつも冷静に判断してくれるから…。
 慣れた…って言うのも有るかも知れないけれど…。
 二人とも、頼りになります!


 チーズケーキ屋さんを出て、少し歩くと、緑の木々に囲まれた小さな広場が見えてきた。
 時間的にも昼をだいぶ過ぎているからか、入り口付近に屋台は一軒だけだった。
 広場の中を歩き、中程のベンチに座ると、アレイから紙の入った鞄を受け取り、中質紙が入った紙袋を取り出して、中から一枚取り出した。
 木のベンチは凸凹しているので、中質紙が入った紙袋の上に一枚乗せて、さっきと同じように紙を折りたたみ、折り目を付けると全部広げた。
 
 フェイの短剣イメージ…。
 中央に星…。
 紙の中心に、同じ大きさではなく、大小順番に輝きを放つように線を描き込んだ。
 そして紙の周囲から闇の黒が渦めいて、中心に向かうに連れて、水色の風に変化するように細い線に変えて…中央の星を目指す…。
 へへっ…。
 なんか良い感じ…。
 オルガは一人で満足して、ニマニマと笑った。
 折った時の、魔法の事を考えていたけれど、このままでも、なんか見映えが良いよね…。
 壁に飾っても、部屋の飾りになるかも…。
 オルガがそう思っていると、作業を見ていたフェイがソレを見て、ポソリと「カッコいいな…」と、呟いた。
 でしょう!
 オルガはニコニコとして、描いた紙をフェイの方に向ける。
「フェイの短剣のイメージ!あの時見た光景を思い出して描いたんだ!」
 


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