上 下
97 / 182
熊族の町ベイエル

果樹園 3

しおりを挟む
 休憩になると、先に来ていた子供達が、話しかけてきた。
「オルガは学校に来ないの?」
「明日から、行くよ」
 予定では、明日、明後日の二日間、学校に通う予定だ。
「「「やった!」」」
「計算を教えて!」
 見知った子が、必死な叫び声を上げた。
 えっと確か、兎族のピノ。
 確か家族が、熊族の町で宿を経営していて、お父さんが兎族で、お母さんが熊族と言う、珍しい組み合わせの両親だと聞いている…。
 この作業を手伝いに来ているのも、宿で使う果物を仕入れているからと、以前に言っていた。
「僕、学校の授業だけでは、何度聞いても覚えられなくて…」
 ピノは長い耳をペタンと伏せて、モジモジっと言う。
「足したり引いたりするのは、なんとか計算出来るようになったけど、かける、割るって言うのが、意味が分からない…」
 最後の方は声が小さくなっていく…。
「…前に、足したり引いたりを、僕たちに分かりやすく教えてくれただろ…。だから…」
 そう言えば、教えた…。 
 教えたと言うよりも、あの時は、おやつの果物の数を数えて、二人分を合わせると足し算、食べたら数が減っていくのが引き算だと説明しただけ…。
「うん。良いよ」
 計算は、出来た方が良いからね。
「僕も『クルーラ』で、教えてもらった考え方だけどね」
 そう言ってオルガは微笑んだ。

 
 オルガは部屋の中を見回して、剥いたオレンジの皮を見る。
 一番身近で、今、目の前に有るモノで説明をした方が分かりやすいはず…。
「このオレンジの皮、四等分にするから、四枚有るよね」
「「「うん。」」」
 ピノだけでなく、一緒に来ていた子供達も、オルガの説明に頷く。
「オレンジが二個分だったら何個?」
「「「八枚!」」」
 これは足し算でも出来るから次は…。
「それじゃ、三個分だったら?」
「えっと、二個で八枚だから、四枚足して…十二枚」
「四個分だったら?」
「えっと、もう四枚増えるから、十六枚」
「…かけ算出来てるよ」
 オルガはそう言って微笑むと、ピノはポカンと僕を見た。
「一個が四枚、二個が八枚、三個が十二枚、四個が十六枚」
 まだ、分かっていないようだ。
「一個カケル四枚は四枚でしょ」
 うんうんと頷く。
「一個が四枚だから、二個カケルと八枚でしょ」
 再び、うんうんと頷く。
「四枚を三個カケルと十二枚」
 再び、うんうんと頷く。
「四枚を四個カケルと十六枚」
「「「…。」」」
 分かっただろうか…。
「四枚づつ…増えているのか?」
 ピノが恐る恐る聞いてくる。
「そうだよ。だから四枚を四個は十六枚って、覚えておくのが、かけ算」
「…かけ算…」
「今度は逆に、十六枚を四人で分けたら?」
「…四枚…」
 オルガは微笑む。
「直ぐに答えが出てきただろ?これが割り算」
「割り算…」
 ピノは目をパチパチとさせてオルガを見る。
「出来てるでしょう?」
「…うん。」
「今のはオレンジの皮が四枚だからだけど、他のモノも考え方は一緒だよ」
 僕は折り魔紙マシを使って覚えた。
 『コップ』二十枚入りの入れ物を、十個作る時の、折る枚数を数える時…。
 二百枚…。
 グオルクの子供達にお願いして良かったと、つくづく思った時だ。
「なんとなく…分かった気がする…」
「数えながら、オレンジの皮を剥く?」
「それ、良いかも!」
 ピノは嬉しそうに返事した。


「一個が四枚、二個が八枚、三個が十二枚、四個が十六枚、五個が二十枚、六個が二十四枚、七個が二十八枚、八個が…二十八タス四枚だから三十二枚、九個が三十六枚、十個が四十枚!」
 ピノはニコニコと笑いながらオレンジの皮を剥く。
 すると一緒にオレンジを剥いていた子供達も声を揃えて言い出した。
「一個が四枚、二個が八枚、三個が十二枚、四個が十六枚、五個が二十枚、六個が二十四枚、七個が二十八枚、八個が三十二枚、九個が三十六枚、十個が四十枚!」
 ケラケラと笑いながら、楽しそうに繰り返す。
 隣でオレンジの皮を剥いていたアレイも口ずさむ。
「一個が四枚、二個が八枚、三個が十二枚、四個が十六枚、五個が二十枚…」
 いつも静かなオレンジの皮剥きが、急に賑やかになる。
 一緒に作業をしている大人達は苦笑いして、「手も動かしてね」と言うと、元気な返事が返ってきた。
「「「は~い!」」」
  
 本当は、四枚が二個で八枚、四枚が三個で十二枚と、基準になる「四枚」が抜けているんだけど…。
 変な風にかけ算を覚えてもらっても困るから、念を押しておく。
 なので…。
「学校でもう一度お話を聞いて、意味を確認してね」
「「「うん!」」」
 楽しそうなピノ達にオルガはそれ以上何も言わなかった。


 オレンジの皮剥きの、今日の作業分が終わり、ピノ達は報酬のオレンジを袋にたっぷりもらって、「また明日!」と帰っていった。


 明日は久しぶりの学校だ。
 僕が受ける授業は、計算や文字の授業ではなく、剣術、体術など身体を動かす授業だ。
 


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

処理中です...