上 下
422 / 462
二人の約束 ~ジーンの初恋~(番外編)

シルシ

しおりを挟む
「ジーン。お前は俺のつがいだ」
 ロキが意を決してジーンに言った。
 ジーンはキョトンとして、何を言われたか分からなかった。
 …えっ?
 つがいって…?
 えっと確か、お父様とリーンが魔力のつがいだと言っていた、つがいの事?
 獣人の…恋人同士と言うか、伴侶と言うか…。
 永遠の恋人と言うか…夫婦と言うか…。
 僕とロキさんが…つがい
 ジーンの身体がカアッと熱くなった。
 本ばかり読んでいて、恋愛経験の全く無いジーンにとっては、始めての経験で、どうしたら良いのか分からず俯いてしまった。
「…突然で驚くのは分かってる。…でも、また離れるとなると、言っておかないと後悔しそうだからな」
 ロキはそう言って苦笑いした。
 …つがいって事は、ロキさんは僕の事が『特別に好き』って事なのか?
 ロキさんが僕を好き…。
 そう思ったら、胸の中が熱くなって、耳が赤くなって熱を持っているのを感じた。
 そんなやり取りをフリクを挟んでしていたものだから、フリクが不思議そうに、ジーンの赤くなった耳に触れてくる。
「…くすぐったいよ」
 ジーンはフリクの手を自分の耳から離すと、フリクと目が合った。
 …なんか子連れの僕に、求婚されているみたい…。
 フリクは僕の子供でもないし、求婚でもないが…。
 少し余裕が出てきたジーンは、黙ったままのロキをチラリと見ると、頭を抱えてウロウロと落ち着き無くうごめいているロキを見て、思わず笑ってしまった。
 …狼狽えて、なんだかかわいい…。
 特に返事が欲しい分けではなく、伝えたかったと、言うことなのだろう…。
 ジーンはドキドキしながらロキに言う。
「……つがいと言うのは分からないけれど、座って話をしようよ…」
 ロキの動きがピタリと止まり、嬉しそうにジーンの後ろに座ると、ヒョイとジーンを持ち上げて、ロキの膝の胡座をかいた足の上に座らされた。
 …これはこれで恥ずかしい…。
 でも、嫌ではないのだ…。
 ロキにとっては普通の事かも知れないが、ジーンは背中にロキの体温を感じながら、頬を染めて、さっき出会ったばかりの『桜』のモモの話をした。

 
 しばらくすると、ジーンの腕の中の重みが増し、フリクが眠っていた。
 お昼寝の時間だ。
 かわいい寝顔にジーンが微笑むと、ロキがジーンの肩越しにフリクを覗いてきて、横にロキの顔が有ると思うとドキドキした。
 僕は、ユーリのようにキリトの側にいたくて、強くなるために騎士になり、卒業と共にキリトを追いかけて行く勇気もなく、それだけの思いを胸に宿したことがない。
 つがいだと言うロキさんに、いつかそんな思いを抱くのだろうか…。
 ジーンがそんな事を思っていると、首筋に何か暖かいものが触れた。
 なに…?
 横を見ると、ロキさんが意地悪そうな顔をしてジーンの首筋をペロリと舐めたのだ。
「…なっ?!」
 驚くジーンを無視して、ロキは再びジーンの首筋に唇をくっ付けて、チュッと吸い付いた。
「んんんっ…?!」
 ロキが吸い付いたところから、ジンジンと熱を持ち始める。
 ガッチリとロキの腕の中にフリクごと捕らえられているジーンは身動きが取れず、心臓がバクバクと鳴り始めた。
 …えっと…つがいって事は、そう言うことも含めて…って事だよね…。
 取りあえず知識だけは有ったジーンは、ロキがそう言う行為を含めてなのだと理解し、真っ赤になった。
 多分、ロキに触れられるのは嫌ではない。
 だけど心や気持ちが、現状に置いてかれてしまっている…。
 それだけは理解した。
「…待って…」
 ジーンが小さく叫ぶと、ロキは唇を放してくれた。
「…いっぱい、いっぱいで…気持ちが…追い付かない…」
 ジーンは正直に言った。
「…わかった…」
 ロキは少し寂しそうな声で、呟くとジーンの肩にアゴをのせた。
「…もう少し…待つ」
 その声に、ジーンの胸がギュッと締め付けられた。
 …嫌ではない…。
 触られると、気持ちが良い…。
 落ち着く、いい匂いがする…。
 この人となら、のんびりと暮らせるのかな…。
 ジーンはそうな風に感じた。
「だから、早く戻って来い」
 ロキにそう言われた。
 …戻って来い…。
 …王都ではなく、僕の居場所はココなのだと…。
 このロキの腕の中なのだと…そう言われた気がした。
 …ココに来るために、僕が出きること…。
 ロキさんと、ちゃんと向き合うためには…。
 もう、それは一つしか、選択肢は残されてなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?

左側
BL
陽の光を浴びて桃色に輝く柔らかな髪。鮮やかな青色の瞳で、ちょっと童顔。 それが僕。 この世界が乙女ゲームやBLゲームだったら、きっと主人公だよね。 だけど、ここは……ざまぁ系のノベルゲーム世界。それも、逆ざまぁ。 僕は断罪される側だ。 まるで物語の主人公のように振る舞って、王子を始めとした大勢の男性をたぶらかして好き放題した挙句に、最後は大逆転される……いわゆる、逆ざまぁをされる側。 途中の役割や展開は違っても、最終的に僕が立つサイドはいつも同じ。 神様、どうやったら、僕は平穏に過ごせますか?   ※  ※  ※  ※  ※  ※ ちょっと不憫系の主人公が、抵抗したり挫けたりを繰り返しながら、いつかは平穏に暮らせることを目指す物語です。 男性妊娠の描写があります。 誤字脱字等があればお知らせください。 必要なタグがあれば付け足して行きます。 総文字数が多くなったので短編→長編に変更しました。

そのラブストーリーはゼロから始まる。-イケメン優等生とのガタイ系スポーツマンが出会ったら-

HAKARU
BL
爽やか青春ストーリーです。テニス部イケメン優等生とバスケ部ガタイ派問題児が主人公。重なるはずのないふたりが出会ったことで、互いに恋心が生まれる。恋愛自覚のないふたりの恋の行方は?

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

トップアイドルのあいつと凡人の俺

にゃーつ
BL
アイドル それは歌・ダンス・演技・お笑いなど幅広いジャンルで芸能活動を展開しファンを笑顔にする存在。 そんなアイドルにとって1番のタブー それは恋愛スクープ たった一つのスクープでアイドル人生を失ってしまうほどの効力がある。 今この国でアイドルといえば100人中100人がこう答えるだろう。 『soleil』 ソレイユ、それはフランス語で太陽を意味する言葉。その意味のように太陽のようにこの国を明るくするほどの影響力があり、テレビで見ない日はない。 メンバー5人それぞれが映画にドラマと引っ張りだこで毎年のツアー動員数も国内トップを誇る。 そんなメンバーの中でも頭いくつも抜けるほど人気なメンバーがいる。 工藤蒼(くどう そう) アイドルでありながらアカデミー賞受賞歴もあり、年に何本ものドラマと映画出演を抱えアイドルとしてだけでなく芸能人としてトップといえるほどの人気を誇る男。 そんな彼には秘密があった。 なんと彼には付き合って約4年が経つ恋人、木村伊織(きむら いおり)がいた!!! 伊織はある事情から外に出ることができず蒼のマンションに引きこもってる引き篭もり!?!? 国内NO.1アイドル×引き篭もり男子 そんな2人の物語

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

子連れ冒険者の受難クエスト

田中 乃那加
BL
 ルイト・カントール、それがこの物語の主人公。  彼は冒険者で、数々のクエスト(依頼)をこなす実力派。  そんでもってイケメンで女にモテにモテる、チートな人生を歩んでいた。  しかしある日、そんな彼の前に現れたのは――。  ノンケで女好き冒険者が、ある日シングルファザーに!?  しかも押し付けられた子供は魔族!?  男手ひとつで娘を育てんと奮起した若きパパが、けんめいにクエスト (金稼ぎ)に走り回る。  そして何故か、男にプロポーズされまくったり。エロい依頼を押し付けられたり。  人外に襲われたり、見初められたり――とにかく受難の育児クエスト! 異世界×育児×BLの、作者が楽しんで書くファンタジー。

落ちこぼれ元錬金術師の禁忌

かかし
BL
小さな町の町役場のしがない役人をしているシングルファザーのミリには、幾つかの秘密があった。 それはかつて錬金術師と呼ばれる存在だったこと、しかし手先が不器用で落ちこぼれ以下の存在だったこと。 たった一つの錬金術だけを成功させていたが、その成功させた錬金術のこと。 そして、連れている息子の正体。 これらはミリにとって重罪そのものであり、それでいて、ミリの人生の総てであった。 腹黒いエリート美形ゴリマッチョ騎士×不器用不憫そばかすガリ平凡 ほんのり脇CP(付き合ってない)の要素ありますので苦手な方はご注意を。 Xで呟いたものが元ネタなのですが、書けば書く程コレジャナイ感。 男性妊娠は無いです。 2024/9/15 完結しました!♡やエール、ブクマにコメント本当にありがとうございました!

俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜

明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。 しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。 それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。 だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。 流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…? エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか? そして、キースの本当の気持ちは? 分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです! ※R指定は保険です。

処理中です...