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森の聖域 1

お酒

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 リーンはルークの隣に、チイはヒイロの隣に座ってグラスを傾けた。

 熊族から贈られた、今年の一本目のシャインの果汁酒。
 ブドウの一種である、皮ごど食べれるシャイン事態が、高額になってしまい、お酒として作られるのはほんのわずか。
 生産者達が楽しむ為の果汁酒を、熊族の知人に、ヒイロは何本か分けてもらっていた。
「今年も美味いな…」
 ヒイロは満足そうにグラスを傾ける。
「贅沢だよね…。シャインのお酒って…」
 チイは甘い香りを楽しみながら、少しづつ飲む。
「市場に出回らないからな…」
 リーンは透明度の高い透き通ったグリーン色を眺めて飲んだ。
「…こっちにも回してほしいぜ…」
 グラスの半分くらいに減ったお酒を眺めてルークはぼそりと呟くが、ヒイロが首を横に振った。
「…俺だって頼み込んで分けてもらっているんだ。今、味わうだけで満足してくれ」
「そうするよ」
 ルークは苦笑いした。


 しばらくシャインを楽しみ、雑談をしていると、ヒイロが真剣な表情で言ってきた。
「相談なんだが、キリトはどうしている」
 …キリト?
 急にどうしたんだ?
「今は王都で子供達を見てくれているよ」
「たまにカザナへ戻ってきて、三つ子を見てくれたりしているが…」
 不思議そうにリーンとルークがそう答える。
「…実はな、グオルクから奥の山奥で長雨が続いて、土砂崩れで村が一つ半壊になった」
「…!!」
「それで行き場を無くした子供達を、グオルクの警備隊が保護しているのよ」
 …でもそれは一時しのぎ…。
 行き先が決まるまでの間。
「…村にいたのは、年寄りと子供ばかりで、復興が難しくてな…」
 ヒイロが顔をしかめる。
「大人達は?」
「ほとんど出稼ぎに行って、帰ってこないそうだ…」
「…。」
「村も、グオルクの管轄内にかろうじて入るから、子供達をグオルクに引き取ることにした。それで、生活保護の面倒を見てくれる施設に預けようと思ったが、タイミングが悪かった」
 ヒイロは苦笑いする。
「…ココだけの話、施設長が資金を着服していてな…この間、追い出した所なんだわ…」
 …それは…。
 生活するためのお金を、本来わたるべき人に渡っていなかったと言うこと…。
「今は私が、監視、管理をして、部屋を綺麗に整えたり、修繕をしているのだけれど、ずっと居るわけにはいかなくて…」
 それだけの費用が、適正に使われていなかったと言うこと…。
 それに、チイにはヒイロの補佐の仕事も有る。
「それで、キリトなら子供達の扱いも慣れているだろうし、適任かなって思ったのよ」
 …適任かもしれない。
 面倒見が良いのは、出会った頃から知っている。
 人族に捕まっていた子獣人を、単身助けに行こうとしたのだから…。
「…ずっとグオルクにいるわけで無くて良いの。子供達の勉強や食事などの手配と、成人して施設を出て、生活していけるように知識を教えてあげて欲しいの」
「まあ、学校に行かせても良いんだが、村でどこまで教育を受けてきているか分からないから、しばらくは様子見」
 それはそうだろう…。
 突然知らない町の学校に入れられても、授業についていけなければ、子供達が苦しむだけ…。
 それに子供達の不安が落ち着くまで、様子を見た方が良い…。
「聞いてみるよ。…ユーリが来年から騎士訓練生の寮に入るって言ってるし、ジーンは一人で何でもこなすし、手がかからなくなって、キリトもカザナの方にいる時間が長くなってるからな…」
「…ずっと頼ってばかりだが…」
 ルークは苦笑いする。
「…そうだね。私がキリトに子供達をお願いと、頼んだから…と、言うのも有るけれど…」 
 あれから、何年経っているんだ…。
 …ジーンとユーリが産まれる前から居たから…私が眠っていた時間もあわせて…。
「…十四年…ぐらい…側にいるのか…」
 リーンはふと思った。
 キリトはそれで良かったのだろうか…。
 …獣人族の寿命は人族に比べて長い…。
 けれど…。
「…嫌だったら、とっくに出て行ってるな…」
 そんなリーンの呟きに、ヒイロが笑って言う。
「キリトはリーンの側に居たいと言っていた。気にするな」
 …そうだな。
 でも、もし、キリトが何処かに行きたいと言ったら、私は止められない…。
 

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