上 下
302 / 462
新たなる命

帰り道

しおりを挟む
 夜明け前、ルークはリーンを抱き抱え、魔女の城から出て、『魔女の森』の外に向かった。
 あの後、魔女王ソフィアによって『移植転移』をされたリーンの体調が悪くなり、熱を出して動けなくなったからだ。
 ソフィアいわく、体内の調整が出来ておらず、身体に馴染むまでしばらくかかるそうだ。
 だが、リーンをこのまま『魔女の森』に置いておくわけにいかず、森が閉じてしまう前に、軽量魔法を使ってリーンを抱き上げ、ソフィアが『魔女の抜け道』を作ってくれて、出入口付近まで連れてきてくれた。
「…よろしくね」
 ソフィアがルークに声をかけてきた。
 ルークは眠るリーンを抱えたまま、足を止め、ソフィアの方に振り向いた。
「…貴女は、ソレでいいのか?」
 気になっていたことを聞く。
「…うん?…子供の事?」
 ソフィアは微笑んで言う。
「リーンの事、信用してるから…。それに、私が育てるより、リーンの元で自由に選ばせてあげたいの」
 子供の未来を…か…。
 彼女にも何か思うことが有るのだろう。
 リーンと同じ様に長寿で、いつから魔女王として君臨しているのか分からないが、彼女には選ぶ事が出来なかったのかもしれない…。
「…俺の元に来ても、王族として逃れられない事も有るぞ」
「…それでも…」
 ソフィアは苦笑いしている。
 それでも、彼女の体内から外に出れず、命が消えるより…リーンの子供として、産まれてくることを望んでいる…か…。
 ルークはため息を付き、リーンを抱え直すとソフィアに背を向けて『魔女の森』を抜け、バラのアーチをくぐり、小川に掛かる橋を渡った。
 背中に視線を感じたが、ルークは振り向かず真っ直ぐに、アオとカズキが待つ馬車へと急いだ。


 森を抜け街道に近付くと、見慣れた馬車が道を塞ぐように停まっていた。
 見慣れた、ルークの屋敷の馬車だ。
 ルークが馬車に近付くと、こちらに気がついたガズキが馬車から降りてきた。
「…ルーク様!…リーンさん…」
「ルーク様!」
 アオも馬車から顔を覗かせ、降りてくる。
「リーンさんはどうしたんですか?」
「詳しい話は移動しながらだ」
 アオはすぐさま馬車内の座席に、毛布を何枚も敷いて横たわる場所を作り、丸めた毛布を枕代わりにすると、そこへルークが、眠るリーンをそっと横たえる。
 ガズキは準備しかけた朝食の食材を一旦終い、移動の準備を始め、日が昇り、辺りが明るくなって来る頃には、街道から馬車を動かし、少し先にある馬車の休憩所へむかった。


 休憩所には小さな小川が有り、馬車を並んで停車することができ、誰でも使用できるので、馬に水や食事を与えたり、自分達の食事も出きる場所だ。
 そこへ馬車を停車させ、ガズキは馬に水と食事を与え、アオが馬車の外でお湯を沸かして、朝食の準備を始めた。
 リーンは横たわったまま…。
 ルークはそんなリーンの髪を撫でる。
 朝食の準備が出きると、馬車の中に三人顔を見合わせて、朝食を食べながら、ルークが『魔女の森』であったことを話し始めた。
 アオもガズキも神妙な顔をして、頭を抱えながら、取りあえず口に食事を運んでいた。
「ルーク様はそれで良いんですか?」
 『魔女の森』での事が話し終わると、アオが聞いてくる。
 まあ、言われると思った。
「…リーンの子供だろ。俺にはソレだけで良い…」
 誰が何て言おうと、リーンの全てを守ると決めたのだ。
 例えソレが、魔女王との子供だとしても…。
「…ルーク様がそれで良いのなら、俺たちは全力で見守りますよ」
 アオとガズキは顔を見合せ頷いて、そう言って微笑んだ。
 良い仲間を持って俺は幸せだな…。
 ルークは眠るリーンをチラリと見て、残りの朝食を食べ始めた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

【完結】魔法薬師の恋の行方

つくも茄子
BL
魔法薬研究所で働くノアは、ある日、恋人の父親である侯爵に呼び出された。何故か若い美人の女性も同席していた。「彼女は息子の子供を妊娠している。息子とは別れてくれ」という寝耳に水の展開に驚く。というより、何故そんな重要な話を親と浮気相手にされるのか?胎ました本人は何処だ?!この事にノアの家族も職場の同僚も大激怒。数日後に現れた恋人のライアンは「あの女とは結婚しない」と言うではないか。どうせ、男の自分には彼と家族になどなれない。ネガティブ思考に陥ったノアが自分の殻に閉じこもっている間に世間を巻き込んだ泥沼のスキャンダルが展開されていく。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

ヘタレな師団長様は麗しの花をひっそり愛でる

野犬 猫兄
BL
本編完結しました。 お読みくださりありがとうございます! 番外編は本編よりも文字数が多くなっていたため、取り下げ中です。 番外編へ戻すか別の話でたてるか検討中。こちらで、また改めてご連絡いたします。 第9回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございました_(._.)_ 【本編】 ある男を麗しの花と呼び、ひっそりと想いを育てていた。ある時は愛しいあまり心の中で悶え、ある時は不甲斐なさに葛藤したり、愛しい男の姿を見ては明日も頑張ろうと思う、ヘタレ男の牛のような歩み寄りと天然を炸裂させる男に相手も満更でもない様子で進むほのぼの?コメディ話。 ヘタレ真面目タイプの師団長×ツンデレタイプの師団長 2022.10.28ご連絡:2022.10.30に番外編を修正するため下げさせていただきますm(_ _;)m 2022.10.30ご連絡:番外編を引き下げました。 【取り下げ中】 【番外編】は、視点が基本ルーゼウスになります。ジーク×ルーゼ ルーゼウス・バロル7歳。剣と魔法のある世界、アンシェント王国という小さな国に住んでいた。しかし、ある時召喚という形で、日本の大学生をしていた頃の記憶を思い出してしまう。精霊の愛し子というチートな恩恵も隠していたのに『精霊司令局』という機械音声や、残念なイケメンたちに囲まれながら、アンシェント王国や、隣国のゼネラ帝国も巻き込んで一大騒動に発展していくコメディ?なお話。 ※誤字脱字は気づいたらちょこちょこ修正してます。“(. .*)

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

【完結】我が侭公爵は自分を知る事にした。

琉海
BL
 不仲な兄の代理で出席した他国のパーティーで愁玲(しゅうれ)はその国の王子であるヴァルガと出会う。弟をバカにされて怒るヴァルガを愁玲は嘲笑う。「兄が弟の事を好きなんて、そんなこと絶対にあり得ないんだよ」そう言う姿に何かを感じたヴァルガは愁玲を自分の番にすると宣言し共に暮らし始めた。自分の国から離れ一人になった愁玲は自分が何も知らない事に生まれて初めて気がついた。そんな愁玲にヴァルガは知識を与え、時には褒めてくれてそんな姿に次第と惹かれていく。  しかしヴァルガが優しくする相手は愁玲だけじゃない事に気づいてしまった。その日から二人の関係は崩れていく。急に変わった愁玲の態度に焦れたヴァルガはとうとう怒りを顕にし愁玲はそんなヴァルガに恐怖した。そんな時、愁玲にかけられていた魔法が発動し実家に戻る事となる。そこで不仲の兄、それから愁玲が無知であるように育てた母と対峙する。  迎えに来たヴァルガに連れられ再び戻った愁玲は前と同じように穏やかな時間を過ごし始める。様々な経験を経た愁玲は『知らない事をもっと知りたい』そう願い、旅に出ることを決意する。一人でもちゃんと立てることを証明したかった。そしていつかヴァルガから離れられるように―――。  異変に気づいたヴァルガが愁玲を止める。「お前は俺の番だ」そう言うヴァルガに愁玲は問う。「番って、なに?」そんな愁玲に深いため息をついたヴァルガはあやすように愁玲の頭を撫でた。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

悪魔の子と呼ばれ家を追い出されたけど、平民になった先で公爵に溺愛される

ゆう
BL
実の母レイシーの死からレヴナントの暮らしは一変した。継母からは悪魔の子と呼ばれ、周りからは優秀な異母弟と比べられる日々。多少やさぐれながらも自分にできることを頑張るレヴナント。しかし弟が嫡男に決まり自分は家を追い出されることになり...

処理中です...