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人魚の泉~水上集落~

水上集落 1

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 リーンは馬車に揺られながら、目的地の『人魚の泉』フールシアについて、確認をはじめた。
「フールシアについて、どれくらい知っているかを知りたい」
「湖の上に作られた、水人すいじん族の集落…」
「確か、満月の日に湖に入ると、人魚に連れ去られる…とか聞いたことはある」
 ルークとアオは、それぞれ、知っていることを話す。
 だが、関わりの少ない集落の為、知っていることも余りなかった。
「それくらいの、事しか知らないよな…」
 リーンは、やはり…と、思いながら説明する。
「フールシアは、水中都市で暮らせない者達の集落。水人すいじん族と他種族の間で生まれて、水中都市に行けなかった者達が暮らしている。…なぜ、『人魚の泉』と呼ばれるかは?」
 ルークは首を振る。
「知らないな…」
「…もともとは、山水が流れ込むだけの、ただの泉だった。…何かの拍子に海底と泉が繋がって、湖になり、海に住んでいた人魚が出没するようになった」
「海底と繋がっている…?」
 ルークとアオは驚きの表情を向けてくる。
 人族には、あまり伝わっていないのかもしれない…。
「…だから『人魚の泉』は、水の塩分濃度が高くて、しょっぱいんだよ」
「…海にいる筈の人魚がなぜ、湖に出没するのか謎だったが…そう言うことか…」
 ルークは、疑問に思っていた謎が解けて、頷く。
「…水中都市は、湖の底でなく…海底にあると言うことか…?」
 アオが、恐る恐る聞いてくる。
「そうだよ。海底にある水中都市と『人魚の泉』は、水中洞窟で繋がっている…」
「…もしかして…行ったこと…有るのか…?」
 恐る恐る、ルークも聞いてくる。
「…一度だけ…。ただ、あそこに連れていかれたら、普通には帰れないよ…。通気孔の出口が有るけど…出た先が、海のど真ん中の無人島だった」
 ルークとアオは、顔を見合せる。
「…。」
「…よく、帰って来れたな…」
 ルークは、ため息と共にそう言った。
「…色々あって、私の場合は、水中都市の竜人族と、運良く契約出来たから…」
 リーンは少し困った顔をして、
「…フールシアの気まぐれに、助けられた…」
「…。」
 ただ、その契約が…厄介なのたが…。
「…だから、満月の夜、前後は湖に近付いてはいけない!人魚が繁殖の為に、水人族以外を、海底都市へ連れて行こうとするから…」
「…。」
 満月の夜に、湖にさえ近付かなければ、何処にでもある、普通の湖で、集落なのだ。
「ルールさえ守れば、どの種族も一緒だよ…。皆、穏やかに暮らしている…」
 …あの時は、何も知らずに湖に入ってしまったから…。
 気を取り直して、目的地の話をする。
「…今回、行くのは、この間の洪水の件の続き…。一番酷くなる地域に『風霊』が呼んだ。と、言うことは、他の地域でもよく似た現象が起きていても、おかしくない…。あの場所から流れる水が、フールシアの近くまで来ている可能性が有るから、ちょっと心配で…」
「…洪水か?」
 ルークは、先日のオケの谷の事を思い出す。
「…分からない。ある程度は湖に流れこむから、大丈夫なんだけど…なんとなく…」
 …これと言った確証はない。
 目に見えて、何かが起こりそうだったら、『風霊』が、伝えてくる。
 ただ、嫌な予感がするだけ…。
「…たどり着けば、分かるよ」
「…そうだな…」
 ルークは少し考え、リーンの方を向いて、真剣な表情で言う。
「…フールシアに、たどり着くまで、…差し障りの無い事でいいから、リーンが旅してきた話をしてもらえないか?」
 リーンは苦笑いした。
「…楽しい話ばかりじゃないよ…。…何が聞きたい?」
「…とりあえず、水中洞窟と、水中都市の話…」
 今の話しで、少し興味を持ったのか…。
 竜人族のフールシアとの契約の話以外なら…話せるか…。
 とは言っても、ほとんど部屋から出れなかったし、話せる事は少ないけれど…。
「…いいけど」
 ルークとアオは興味深々に聞いてくる。
 たぶん、御者をしているガーディも、聞き耳をたてているだろう…。
 リーンは、水中都市へ行って帰ってきた話をし始めた。


 …誰かに旅の話をするのは、久しぶりだ。
 楽しい話ばかりではないから、いつしか、話すことを止めた…。
 …思い出して、悲しくなるから…。
 …いつか、あの人事も、話せる時が来るのだろうか…。



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