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天水球

オケの谷 3

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 カズキが運んできた馬車に、かごに入れた『天水球』を乗せ、ずぶ濡れのまま、馬車に乗るわけにはいかず、そのままでは体調を崩しかねないので、乗せてあった服にきがえることになった。
 各自、乾いた服に着替えてほっと一息付いていた。
 で、問題は意識を失ったままのリーンの着替えだった。
「…。」
 ルークは葛藤していた。
 誰にもリーンのあの姿を見せたくない…。
 けれど、一人では着替えさせることは出来ない!
「ルーク様、どうかしましたか?」
 アオがリーンの着替えを持ってやって来た。
「…なんでもない…」
 落ち着け、俺…。
 リーンの身体を起こし、アオが支え、ルークが服を脱がしていく。
 身体を拭き、長めの服を腰まで着せ、そのまま身体を抱き上げ、靴とズボンを脱がし、服をおろした。
 着丈の長いチュニックだから、ズボンは無しで我慢してもらおう。
 その分、毛布でくるんで温かくするから…。
 そんな事を思いながら、リーンをそのまま抱き上げ、馬車に乗り込み膝の上に抱えた。
 ヤバイな…独占欲が丸出しだ…。
 かといって、椅子に寝かせる気もない…。
 この状況に、誰もが見てみぬふりをする。
 …何も言えない、とも、言うか…。
 馬車には、カズキが御者として前に乗り、アオとジェスが乗り込んだ。
 ガーディがいないが、いつものメンバーだけ。
 服を着替えた訓練生達は、歩いて山を降りる予定だ。
 脱いだ服はジェスが、まとめて『空の壁』で封じ込め、馬車の片隅に置かれている。
 …こんな使い方も出きるんだな…。
 思わず感心してしまった。
 でなければ、泥臭い臭いに包まれて帰る事になるらだ。
 馬車がゆっくりと動きだし、帰路に向かった。
 リーンはピクリとも動かず、眠ったまま…。
「…『天水球』十個ですか…。さすがに凄いですね」
 アオがリーンの寝顔を覗き込みながら、そう口にする。
「ああ、俺の魔力を使うからフィールド内に入れ、と、言っていた。だから、これだけの数が作れたのだと思う…」
 二個目で声を掛けてきたのだから、魔力が無ければ、ここまで、作れないだろう…。
「…。」
「やっぱり、使えないだけで、俺のなかで滞っているのか?」
 ルークに魔力が有ることは証明できた。
 だが、何故…リーンにしか見えないのだろう…。
「…どちらにしろ、また、リーンさんは、振り出しに戻る…ですね。魔力の回復の為に滞在していたのに、それどころでは無くなってしまった…」
 アオは申し訳なさそうに、そう呟く。
「…そうだな」
 

 オケの谷の洪水の被害は、集落の三分の一が水に浸かり、田畑が川になってしまった。
 しかし、避難していたため、全員が無事に高台で、渦巻く激流と、呑み込まれる住宅を見下ろしていた。
 街周辺は、堤防が決壊し、一部水に浸かったが、二階に避難していたため、無事に難を逃れていた。
 水は、夕方にかけてゆっくりと退いていき、倒木や壊れた家の残骸などが道を塞いでいた。
 少しずつ、復旧作業が始まる…。

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