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出会って一年が過ぎていた
今年の新年会
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クロと出会って、一年と三ヶ月程が過ぎていた。
また、嫌なパーティーだ。
だが、今年は少し違う。
クロが一緒にいるからだ。
駄々を捏ねて、クロも一緒に出席するなら出る。と、兄にお願いしたのだ。
僕は嬉しかったが、クロは大変だったらしい。
少し前から、講習を受けに行っていたらしいが、それに、正装を来たときの立ち振舞い、態度など、慣れない服と慣れない動きに、大輔に怒られてばかりだったらしい。
家に来ると、ぐったりとして、
「…俺…ムリ…」
と、珍しく愚痴をこぼしていた。
そんな姿のクロが可愛くて、聖は思わず髪を撫でていた。
自分のためにクロが頑張っていると思うと、なぜか、くすぐったいような感じがする。
取りあえず、講習と練習の成果か、クロは正装を着こなし、聖の側にいた。
見慣れないクロの姿にドキドキする。
クロの肩書きは、聖の守役で、後ろに控えて、黙って飲み物を持ってきてくれたり、食事を運んで来てくれたりしている。
紅緒が顔見知りの編集長二人を連れて来て、挨拶もそこそこに、女性の方が話を切り出した。
「…もしかして、噂の方」
「ダメですよ。その話は」
紅緒が、苦笑いして遮る。
「ごめんなさい。つい、でも、いい男の方よね」
「こらこら、よだれが出ているぞ」
もう一人の男性が横から突っつき、苦笑いする。
「あら、失礼…」
そう言って、三人は笑っている。
「…いい男?」
聖はその言葉に反応した。
「そこは聞き流すとこ!」
紅緒に突っつかれたが、逆に気になってしまった。
「…それって…クロの…事?」
紅緒と女性の方が顔を見合せる。
「ええ、そうよ。貴方の身の回りを気遣ってくれる方が良い方で、嬉しいのよ」
「そう言えば、挿し絵をしているタキさん。今年、画集を出す事が決まって、聖さんの気にいっている絵を何枚か載せようと思っていているのだが」
男性の方がそう言って話しかけてきた。
「タキが!それなら、あの桜の絵を見てもらいたい!」
タキが来るようになって、初めて描いた桜の絵。
聖のお気に入りで、玄関に飾ってある。
「では、近い内に、伺いますのでよろしくお願いします」
そんな話も、黙ってクロは後ろで聞いている。
挨拶する者が途切れたところで、クロが声をかけてきた。
「何か飲むか?」
「うん。お願い」
聖はそう言った事を後悔した。
クロが飲み物をもらいに行って、戻って来れないのだ。
聖の側から離れ、会場にいた女性達に声をかけられ、足止めされている。
招待客だから、無下に断れず、愛想笑いをして、何か話している姿が目にはいる。
その姿に、聖は苛立ちを覚えた。
…イライラ、ムカムカ…。
これは時々、起こる現象。
クロが、女の人と話しているとき起こる、不思議な現象。
「どうした?」
大輔が、聖の顔が不機嫌になっているのを感じ、声をかけてきた。
「…別に…」
「眉間にシワが寄っている。…ああ、アレね」
大輔は聖の視線の先のクロの姿に、ため息を付いた。
「まあ、仕方ないって。ちょっと毛色の違う、如月家の近くにいる者に、みんな興味があるからな…。ご婦人方が、色めき立っている」
「…何か気分が悪い。…イライラするし、…ムカムカする」
聖が素直にそう言うと、大輔が目を丸くして、ため息付く。
「…何か、アイツが気の毒になってきた」
大輔はそう言うと、再びため息をついて、話し始めた。
「アイツの見方するわけではないが、もっと違う本を読め」
「違う本?」
聖は首を傾げる。
「…こう言うのは、沙羅に任せる」
そう言って、大輔は聖の側から逃げ去り、沙羅を呼んできた。
「どうしたの、聖兄さん?眉間にシワが…」
「…。」
聖は沙羅に…妹に、どう話せば良いのか分からず、黙ってしまう。
「…黒龍さん。囲まれてるのね…」
沙羅にそう言われ、また、思い出す。
「…イライラ、ムカムカ…する」
沙羅は目を見開いて驚き、優しく微笑んできた。
「それは黒龍さんに?女性の方に?」
「…わからない」
身体の中で、渦巻いているだけ。
「…どうして欲しいの?」
「…側にいて欲しい」
ずっと一緒にいて欲しい…。
「それ、ちゃんと黒龍さんに伝えてる?」
「…。」
…言っているだろうか?
「…今度、私の部屋のベッドの下にある本、読んで良いわよ。そしたら、少しは分かるんじゃないかな?」
沙羅は、そう言って微笑む。
「…。」
「お目にかかれて光栄です。聖様」
大輔が連れてきた男性に、そう声をかけられ、聖は慌てて愛想笑いをする。
…胸のイライラ、ムカムカは、消えてくれなかった。
また、嫌なパーティーだ。
だが、今年は少し違う。
クロが一緒にいるからだ。
駄々を捏ねて、クロも一緒に出席するなら出る。と、兄にお願いしたのだ。
僕は嬉しかったが、クロは大変だったらしい。
少し前から、講習を受けに行っていたらしいが、それに、正装を来たときの立ち振舞い、態度など、慣れない服と慣れない動きに、大輔に怒られてばかりだったらしい。
家に来ると、ぐったりとして、
「…俺…ムリ…」
と、珍しく愚痴をこぼしていた。
そんな姿のクロが可愛くて、聖は思わず髪を撫でていた。
自分のためにクロが頑張っていると思うと、なぜか、くすぐったいような感じがする。
取りあえず、講習と練習の成果か、クロは正装を着こなし、聖の側にいた。
見慣れないクロの姿にドキドキする。
クロの肩書きは、聖の守役で、後ろに控えて、黙って飲み物を持ってきてくれたり、食事を運んで来てくれたりしている。
紅緒が顔見知りの編集長二人を連れて来て、挨拶もそこそこに、女性の方が話を切り出した。
「…もしかして、噂の方」
「ダメですよ。その話は」
紅緒が、苦笑いして遮る。
「ごめんなさい。つい、でも、いい男の方よね」
「こらこら、よだれが出ているぞ」
もう一人の男性が横から突っつき、苦笑いする。
「あら、失礼…」
そう言って、三人は笑っている。
「…いい男?」
聖はその言葉に反応した。
「そこは聞き流すとこ!」
紅緒に突っつかれたが、逆に気になってしまった。
「…それって…クロの…事?」
紅緒と女性の方が顔を見合せる。
「ええ、そうよ。貴方の身の回りを気遣ってくれる方が良い方で、嬉しいのよ」
「そう言えば、挿し絵をしているタキさん。今年、画集を出す事が決まって、聖さんの気にいっている絵を何枚か載せようと思っていているのだが」
男性の方がそう言って話しかけてきた。
「タキが!それなら、あの桜の絵を見てもらいたい!」
タキが来るようになって、初めて描いた桜の絵。
聖のお気に入りで、玄関に飾ってある。
「では、近い内に、伺いますのでよろしくお願いします」
そんな話も、黙ってクロは後ろで聞いている。
挨拶する者が途切れたところで、クロが声をかけてきた。
「何か飲むか?」
「うん。お願い」
聖はそう言った事を後悔した。
クロが飲み物をもらいに行って、戻って来れないのだ。
聖の側から離れ、会場にいた女性達に声をかけられ、足止めされている。
招待客だから、無下に断れず、愛想笑いをして、何か話している姿が目にはいる。
その姿に、聖は苛立ちを覚えた。
…イライラ、ムカムカ…。
これは時々、起こる現象。
クロが、女の人と話しているとき起こる、不思議な現象。
「どうした?」
大輔が、聖の顔が不機嫌になっているのを感じ、声をかけてきた。
「…別に…」
「眉間にシワが寄っている。…ああ、アレね」
大輔は聖の視線の先のクロの姿に、ため息を付いた。
「まあ、仕方ないって。ちょっと毛色の違う、如月家の近くにいる者に、みんな興味があるからな…。ご婦人方が、色めき立っている」
「…何か気分が悪い。…イライラするし、…ムカムカする」
聖が素直にそう言うと、大輔が目を丸くして、ため息付く。
「…何か、アイツが気の毒になってきた」
大輔はそう言うと、再びため息をついて、話し始めた。
「アイツの見方するわけではないが、もっと違う本を読め」
「違う本?」
聖は首を傾げる。
「…こう言うのは、沙羅に任せる」
そう言って、大輔は聖の側から逃げ去り、沙羅を呼んできた。
「どうしたの、聖兄さん?眉間にシワが…」
「…。」
聖は沙羅に…妹に、どう話せば良いのか分からず、黙ってしまう。
「…黒龍さん。囲まれてるのね…」
沙羅にそう言われ、また、思い出す。
「…イライラ、ムカムカ…する」
沙羅は目を見開いて驚き、優しく微笑んできた。
「それは黒龍さんに?女性の方に?」
「…わからない」
身体の中で、渦巻いているだけ。
「…どうして欲しいの?」
「…側にいて欲しい」
ずっと一緒にいて欲しい…。
「それ、ちゃんと黒龍さんに伝えてる?」
「…。」
…言っているだろうか?
「…今度、私の部屋のベッドの下にある本、読んで良いわよ。そしたら、少しは分かるんじゃないかな?」
沙羅は、そう言って微笑む。
「…。」
「お目にかかれて光栄です。聖様」
大輔が連れてきた男性に、そう声をかけられ、聖は慌てて愛想笑いをする。
…胸のイライラ、ムカムカは、消えてくれなかった。
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