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保護施設

キリトの不安

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 『おとり作戦』の三回目を決行するために、キリトはリオナスの役所のガーディのもとを訪れていた。
 そこでガーディから聞いた内容に驚いて、今にもリオナスを飛び出し、ユーリと子供達がいるグオルクに戻りそうになった。

 リオナスの酒場で、グオルクに拐われた黒猫の獣人の子供を奪い返すために、賞金がかけられたと、聞いたそうだ。
 強固な施設にいるので魔法を使える者も集められ、決行日が今夜なのだと言う…。
 拐われたと言っているのが、ギザ王国タンブラン町の領主の息子。
 それをリオナスで仲介を頼んで依頼し、前金も支払われていて、彼らはグオルクに移動し終えているのだと。
 酒場を経営しているのは、役所の息のかかった者達なのだから、会話は全て筒抜けで、リオナスに暮らしている者ではなく、外から来た者達が話しているのを聞いたのだとか…。
 リオナスに住む住人は、リオナスの成り立ちを知っているので、グオルクとの兄弟のような関係性も知っている。
 なので今の生活を守るために、決してグオルクで何かを仕出かすような事はしない。
 それを知らない、他の町や村からやって来た獣人達なのだろう。
 
 そんな話を聞かされて、キリトが飛びだそうとするのをガーディに止められ、キリトはイライラと執務室の中を歩き回る。
「今、君が戻ったら、これまでの努力が無駄になるよ」
 ガーディに言われなくも分かってはいる。
 そのための『おとり作戦』なのだから。
 分かってはいるが、ユーリと子供達を危険にさらす事を、自分が納得していない。
「…ヒイロさんとチイさんが、直ぐに駆けつけてくれる。それに魔道具をユーリ様が強化したのだろう。そう簡単に侵入されないよ」
 ガーディは、ユーリが魔道具の扱いが出きることを、よく知っているようだ。
 なぜか、その信頼にムッとしてしまう。
 …何だ?これは…?
 ユーリの事は、ずっと側にいた自分の方が知っている筈なのに…。
 まぁ…、高等科の寮に入ってからのユーリの事は、あまり知らないが…。
 自分でも分からない、モヤモヤとしたものが胸の内に生まれる。
 キリトは分からない感情に少し戸惑っていた。
「君は何も知らない振りをして、町に買い物に出る。それがユーリ様や子供達の安全に繋がるんだよ」
 ガーディにそう言われ、駆けつけたい衝動をグッとこらえて、キリトはソファーに座った。
 こちらが気が付いたと分かってしまえば、強行策に出るか、長期戦に持ち込まれるか…。
 それでは子供達が自由に歩き回れない…。
「…分かっている…」
 分かってはいる…。
 ユーリと子供達を危険にさらす現実に直面して、キリトは不安に刈られてばかりだ。
 安全は保証されている。
 …大丈夫だ。
 それでも側にいることが出来ない不安に刈られてしまう…。

 キリトはしばらく執務室で気持ちを整えて、町に買い物に出掛けた。
 今の自分に出来ることは、気が付いていないフリをする事なのだと、自分に言い聞かせて…。

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