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3章勇者、本格始動。
34話伝播、再燃
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「ヴィクトリア、匂いを辿れるか?」
「ワフッ」
アンダーは孤児院を飛び出してヴィクトリアと共に不可視の襲撃者を追っていた。
少年の目撃によれば襲撃者は2人だったらしい。
望み薄ではあるがまだこの街を出ていない可能性もある。
ヴィクトリアには長時間働かせっぱなしで申し訳ないが人命には変えられない。
「お前が相棒で良かったよ」
「ワフッ!!」
腕の中のヴィクトリアは誇らしげに尻尾を振り鼻をひくつかせている。
この事件が解決した暁にはとびきりのご褒美を用意せねば。
「ん?負け犬か!?」
「カシラ?」
「お前こんな時間にどうしたんだ?先に寝たと思ったんだが」
「いや、野暮用でな」
ヴィクトリアが町の正門から外に向かって反応を示した時、丁度近くにあった宿屋からカシラ達がフラフラと出てきた所だった。
「カシラ達は何してるんだ?酔ってんなら早く寝た方が良いぞ」
「いや何、外の風にあたろうかってな!!で?お前は?」
「俺は…」
「森に行くのか?」
瞬間、カシラ達の目がギラリと輝いた気がした。
「え?」
「とぼけても無駄だぜ、そんないかにも戦いに行きますみたいな格好で町から出ようとしてんだ、森に行く気なんだろ?」
「それは……」
「だめだ」
「え?」
カシラ達一行はアンダーを囲むように道を阻んだ。
「夜の森は危険だ。夜は魔物も活発になるしこの辺の地理に詳しくなきゃ迷って終わりだ。何か気になるなら明日の朝にでも俺たちで向かえば良いだろ?」
「それじゃ遅いんだ!!退いてくれ」
「ダメだ!!」
「何で!!」
「お前はわからんかもしれんが夜の森は本当に危険なんだ!!今までだって何人も冒険者が夜の森で死んでるんだ、お前に同じ轍を踏ませたくないんだ。わかってくれ」
「カシラ……」
カシラ達はどうやら本気でアンダーの身を案じて留めてくれているようだが、事態は一刻を争う。
ここで時間を浪費するわけにはいかない。
「大方、お前は誘拐犯を見つけたんだろ?」
「な、何でそれを」
「わかるよ、仮面越しでもその面を見りゃな」
「なら退いてくれ!!」
「いや、尚更できない。なぁ、何でお前はそこまでするんだ?つい最近までお前はこの町の存在すら知らなかったただの冒険者じゃないか。それに相手は孤児だ。言っちゃなんだがお前には縁もゆかりも無いし、勝手に死んでも消えてもなんの影響もない筈だ」
「孤児なら何をされても良いってのか!?」
「そうは言ってねえ!!孤児だってこの町の人間で俺たちが守るべき対象だと思ってる!!俺たち以外の誰がなんと言おうとな!!でもお前は部外者だろ?なんでそこまでして……」
「それは……」
確かに、アンダーはこの街から見れば部外者だ。
ここに寄ったのもニコスタリアに向かう途中にたまたまあった国と言うだけだ。
命をかける必要は、無い。
それでも、アンダーの胸には損得抜きに燃え上がるような感情があった。
「俺は、約束したんだ」
「?」
「俺は今度こそ勇者になるよ、カシラ。アイツらのために」
「は?」
アンダーは矢印の力を使い中に飛び上がりヴィクトリアの指示に従い滑空する。
その姿をカシラ達は呆然と見ていた。
「お、おいカシラ!!どうすんだよ!!アイツ本気で夜の森を攻略しようとしてんぞ!!」
「今からでも止めた方が良いって!!アイツ死んじまうよ!!」
「なぁトゥーザク、いつからだろうな?」
「は!?何が!?」
「俺たちが、やらない理由から先に考えるようになっちまった事だよ」
「何を…」
「わかってるだろ?俺たちだって最初はそうだった。アイツみてぇに、S級ほど強くなれなくてもこの町のみんなを守りてえって、そうやって集まったんだ。それがいつの日か身の丈にあった依頼だけを受けて形式的に礼を言われて褒美をもらってそれで満足しちまってた」
「カシラ…」
「町のみんなが孤児に対して良く思ってねえのは俺だってわかってる。でもよ、俺たちだってどこかで何かが違えば孤児になってたっておかしくなかったんだ」
「それは……そうだけどよ」
「アイツはさ、会ったばっかでこんなこと言うのも違うってわかってるけど、本気でこの町の人間全員の事を考えてくれてるんじゃねぇか?俺たちが諦めた馬鹿みてえな理想を叶えようとしてるんじゃねぇか?」
「そうかな……そうかも……」
「お前ら、武器を取れ、支度をしろ」
「カシラ!?もしかして……」
「あぁ、そうだ」
アンダーが飛び立った先、夜の森を睨みつけてカシラは仲間達に叫ぶ。
「採算度返しだ!!俺たちは今度こそ理想を叶える!!あのどうしようもねえ馬鹿に加勢に行くぞ!!余所者にばっか良い格好させんな!!この町を守るのは俺達だ!!」
「「お、おぉ!!」」
夜の闇の中、流星のように森に向かうアンダーを追いかけるように男達は馬に乗り駆け出したのだった。
「ワフッ」
アンダーは孤児院を飛び出してヴィクトリアと共に不可視の襲撃者を追っていた。
少年の目撃によれば襲撃者は2人だったらしい。
望み薄ではあるがまだこの街を出ていない可能性もある。
ヴィクトリアには長時間働かせっぱなしで申し訳ないが人命には変えられない。
「お前が相棒で良かったよ」
「ワフッ!!」
腕の中のヴィクトリアは誇らしげに尻尾を振り鼻をひくつかせている。
この事件が解決した暁にはとびきりのご褒美を用意せねば。
「ん?負け犬か!?」
「カシラ?」
「お前こんな時間にどうしたんだ?先に寝たと思ったんだが」
「いや、野暮用でな」
ヴィクトリアが町の正門から外に向かって反応を示した時、丁度近くにあった宿屋からカシラ達がフラフラと出てきた所だった。
「カシラ達は何してるんだ?酔ってんなら早く寝た方が良いぞ」
「いや何、外の風にあたろうかってな!!で?お前は?」
「俺は…」
「森に行くのか?」
瞬間、カシラ達の目がギラリと輝いた気がした。
「え?」
「とぼけても無駄だぜ、そんないかにも戦いに行きますみたいな格好で町から出ようとしてんだ、森に行く気なんだろ?」
「それは……」
「だめだ」
「え?」
カシラ達一行はアンダーを囲むように道を阻んだ。
「夜の森は危険だ。夜は魔物も活発になるしこの辺の地理に詳しくなきゃ迷って終わりだ。何か気になるなら明日の朝にでも俺たちで向かえば良いだろ?」
「それじゃ遅いんだ!!退いてくれ」
「ダメだ!!」
「何で!!」
「お前はわからんかもしれんが夜の森は本当に危険なんだ!!今までだって何人も冒険者が夜の森で死んでるんだ、お前に同じ轍を踏ませたくないんだ。わかってくれ」
「カシラ……」
カシラ達はどうやら本気でアンダーの身を案じて留めてくれているようだが、事態は一刻を争う。
ここで時間を浪費するわけにはいかない。
「大方、お前は誘拐犯を見つけたんだろ?」
「な、何でそれを」
「わかるよ、仮面越しでもその面を見りゃな」
「なら退いてくれ!!」
「いや、尚更できない。なぁ、何でお前はそこまでするんだ?つい最近までお前はこの町の存在すら知らなかったただの冒険者じゃないか。それに相手は孤児だ。言っちゃなんだがお前には縁もゆかりも無いし、勝手に死んでも消えてもなんの影響もない筈だ」
「孤児なら何をされても良いってのか!?」
「そうは言ってねえ!!孤児だってこの町の人間で俺たちが守るべき対象だと思ってる!!俺たち以外の誰がなんと言おうとな!!でもお前は部外者だろ?なんでそこまでして……」
「それは……」
確かに、アンダーはこの街から見れば部外者だ。
ここに寄ったのもニコスタリアに向かう途中にたまたまあった国と言うだけだ。
命をかける必要は、無い。
それでも、アンダーの胸には損得抜きに燃え上がるような感情があった。
「俺は、約束したんだ」
「?」
「俺は今度こそ勇者になるよ、カシラ。アイツらのために」
「は?」
アンダーは矢印の力を使い中に飛び上がりヴィクトリアの指示に従い滑空する。
その姿をカシラ達は呆然と見ていた。
「お、おいカシラ!!どうすんだよ!!アイツ本気で夜の森を攻略しようとしてんぞ!!」
「今からでも止めた方が良いって!!アイツ死んじまうよ!!」
「なぁトゥーザク、いつからだろうな?」
「は!?何が!?」
「俺たちが、やらない理由から先に考えるようになっちまった事だよ」
「何を…」
「わかってるだろ?俺たちだって最初はそうだった。アイツみてぇに、S級ほど強くなれなくてもこの町のみんなを守りてえって、そうやって集まったんだ。それがいつの日か身の丈にあった依頼だけを受けて形式的に礼を言われて褒美をもらってそれで満足しちまってた」
「カシラ…」
「町のみんなが孤児に対して良く思ってねえのは俺だってわかってる。でもよ、俺たちだってどこかで何かが違えば孤児になってたっておかしくなかったんだ」
「それは……そうだけどよ」
「アイツはさ、会ったばっかでこんなこと言うのも違うってわかってるけど、本気でこの町の人間全員の事を考えてくれてるんじゃねぇか?俺たちが諦めた馬鹿みてえな理想を叶えようとしてるんじゃねぇか?」
「そうかな……そうかも……」
「お前ら、武器を取れ、支度をしろ」
「カシラ!?もしかして……」
「あぁ、そうだ」
アンダーが飛び立った先、夜の森を睨みつけてカシラは仲間達に叫ぶ。
「採算度返しだ!!俺たちは今度こそ理想を叶える!!あのどうしようもねえ馬鹿に加勢に行くぞ!!余所者にばっか良い格好させんな!!この町を守るのは俺達だ!!」
「「お、おぉ!!」」
夜の闇の中、流星のように森に向かうアンダーを追いかけるように男達は馬に乗り駆け出したのだった。
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