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勇者に負けて弱体化したら、側近が本性を表した件

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「こんな弱っちい男に忠誠を誓っていたのかと思うと反吐へどが出るぜ!」

 そう言って部下の一人が私に唾を吐いた。
 それを皮切りに、ほかの部下達も口々に私をののしる。

「そうだそうだ! お前なんか、もう魔王じゃねー!」
「死ねよ! なんで勇者はこんな男を生かしたんだ!?」
「もうお前なんかには従わないからな!!」

 返す言葉もない私は、ただ静かに沈黙をつらぬいた。

 しばらく私に罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせていた部下たちは、気が済んだのか一人、また一人と魔王城を去っていった。
 気がつくと、広い部屋に残ったのは私と側近のリュークだけだった。

 なぜこんなことになったのか……。
 それは私が勇者に敗北したからだ。

※※※※

 数刻前すうこくまえ、勇者は一人でこの魔王城にやって来た。
 一人で来たことに敬意を評した私は、勇者と一対一の勝負をすることにした。
 私は、泣く子も黙る魔王なのだ。
 まさか私が敗北するなどは思わなかった。
 だが、結果は惨敗。
 私は惨めに地面に膝をついた。
 勇者は人格者で、私にトドメを刺さなかった。その代わり、もう悪いことをするなよと言って、颯爽と去っていったのだ。
 それを見ていた部下たちは、私に幻滅した。それで冒頭の罵詈雑言に繋がると言うわけだ。
 私は惨めに床に這いつくばりながら、地面を叩いた。

「クソゥ……! まさか勇者があんなに強いとは……!」

 私の言葉を聞いていたリュークは、涼しい顔で口を開いた。

「本当ですねぇ。――それにしても、魔王様の部下はクズばかりですね。魔王様が負けたらさっさといなくなってしまった」

 本当に酷い奴らだ。
 普通、私が敗北したらかたきを取ろうと勇者に向かって行くのではないだろうか?
 どいつもこいつも勝負が決してもぼーっと突っ立っているばかり。しかもそのあとは私を責め立てた。
 あんな奴らを仲間だと思っていた私がバカみたいだ。
 
 ……まぁ、あれだけ無様に負けたのなら興醒きょうざめしても仕方がない。部下たちを責めるのは筋違いというものか……。

「それにしても、お前はよく私を見捨てなかったな。私が敗北したら真っ先に去っていくものだと思っていたのに」

 そう言って私はリュークを見つめた。
 リュークは流れるような黒髪と褐色の肌。それに金色の瞳を持つ美しい男だ。いつも無表情で冷酷な印象があったので、ここに残ったのが本当に意外だ。この男は誰よりも私に忠誠心など抱いて無さそうだったのに。

「なにを言うのです。勇者に敗北した魔王様は今、全ての力を使い果たしてしまった。つまり、私でも倒せるほど弱体化している。そんな魔王様を見捨てるわけがないでしょう?」
「ぐっ……。その通りだが、はっきり言われると傷付くぞ」

 そうなのだ。
 勇者と死闘を繰り広げた私は、力を使い果たしてしまった。リュークの言う通り、今の私は赤ん坊のように弱い。倒そうと思えば誰でも倒せるだろう。
 力を取り戻すためにはかなり長い時間休息する必要がある。それは百年か、二百年か。
 どちらにせよ、その頃にはもう勇者は死んでいるだろう。つまり私は、勇者にはもう二度と勝てないと言うことだ。
 そんな不甲斐ない私を、リュークは見捨てなかった。
 リュークめ……。意外と情に厚い男なのだな。
 私は一人感心した。

 そんな私を見ながら、リュークが再び口を開く。

「さて、魔王様。魔王城にはもう、私と魔王様しかおりません。つまり、魔王様のお世話が出来るのは、私しかいないと言うことです」
「ふむ」
「私がお世話することに不満はございますか?」
「ない」
「では、これから魔王様のお世話は私がしますので、宜しくお願いします」
「うむ」

 私の世話までしてくれるのか。
 リュークにこんな忠誠心があるなど、今まで全く気が付かなかった。
 私が完全復活した際は、たくさんの褒美をやらねばならんな。などと呑気に考えていた私は気付かなかった。

 リュークがなぜ、私の元から立ち去らなかったのか?
 なぜ私の世話をしてくれるなどと言ったのか?

 このときの私は疑問にも思わなかったのだった。

※※※※

 それからリュークは甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれた。
 力尽きた私を私の部屋まで運び、ベッドに寝かせてくれた。
 それだけじゃない。寝たきり状態の私に食事をとらせ、汚れた身体を綺麗に拭いてくれたのだ。
 そんな生活が一カ月も続くと、私はリュークに深い感謝を覚えずにはいられなかった。
 リュークは本当に素晴らしい部下だ。こんな部下がいて、私は幸せ者だなと常々思ったものだ。

 今日もリュークは私に晩御飯を与えてくれた。
 それが済むとベッドの横の椅子に座り、いつくしむような瞳で私を見守っている。
 私は胸がいっぱいになり、リュークに対して感謝の言葉を述べた。

「リュークよ……。お前がこんなに忠誠心のある男だとは思わなかった。まだ満足に身体を動かせぬ私によく尽くしてくれているな。感謝するぞ」
「気になさらないでください。私がいないと魔王様は死んでしまう。つまり、魔王様のお命は私の手の中だ。そう考えると、ゾクゾクするくらい喜びを感じるのです」

 ゾクゾクするくらい嬉しいのか?
 よく分からんが、それだけ忠誠心があるのだろう。有難いことだ。

「ところでリューク。私はそろそろ寝ようと思う」
「そうですか。では、明かりを消しましょう。おやすみなさい、魔王様」
「あぁ。おやすみ」

 リュークがランプの火を消して部屋から出て行った。
 恐らく、別の部屋で寝るのだろう。
 私は感謝の気持ちでいっぱいになりながら眠りについたのだった。

※※※※

 しばらく寝ていたのだが、身体にずしりとした重みを感じて目を開けた。
 私は魔族なので暗闇の中でも目が見える。
 目の前に、リュークのドアップの顔があって驚いた。
 どうやらリュークは、私の身体の上にのしかかっているようだ。
 なにがなんだか分からぬが、取り敢えず私はリュークをたしなめた。

「リューク。無礼だぞ。私の上から退け」
「嫌です」
「なに!?」

 反抗的なリュークの態度に驚いていたら、リュークは嬉しそうに微笑んだ。
 いつも無表情のくせにこの顔はなんだ。
 私はなぜだかゾクリと背筋が凍った。

「はぁ……。魔王様、可愛い……」
「!?」

 か、可愛いだと!? 私を誰だと思っている!
 今は赤ん坊のように弱いが、本来の私は泣く子も黙る魔王なのだぞ!?

「リューク! 可愛いなどと申すな! 今すぐ取り消せ! さもないと八つ裂きにするぞ!」
「ふふ……。今の魔王様にそんな力はないでしょう? 強がっちゃって、可愛いんだから」
「こ、この……! なんと無礼なことを……!」

 顔を真っ赤にして怒る私とは対照的に、リュークは艶やかに微笑んでいる。

「あー魔王様が負けて良かった。魔王様を狙うライバルはいなくなったし、魔王様のお世話も出来るし良いことずくめだ」

 なっ……! 私が負けて良かっただと!?
 なんと無礼なことを申すのだ!
 私はカッとなり、リュークを殴ろうとした。だが、両手をがっちり掴まれていて、身動き一つ取れない。

「くっ……! この、離せ!」
「弱っちくなったのも良かった。昔の魔王様なら、私の拘束など簡単に振り解けたのに、今はされるがまま。私の思い通りに出来るってわけですね」
「ぐぬぅ……!」

 リュークは、悔しがる私の両手をタオルのようなもので縛り、頭上に固定した。

「これで抵抗出来ませんね。魔王様」
「くっ……! な、なにをするつもりだ、リューク!」

 私の問いかけには答えず、リュークはニコッと嬉しそうに微笑んだ。
 それから私の掛け布団をぎ取り、あろうことが私の衣服を脱がせ始めたのだ。

「無礼者!!」

 そんな怒声も虚しく、私は半裸にされてしまった。
 性器が外気に触れて寒い。
 本当にこの男はなにを考えているのだ?

「ハァ……。夢にまで見た魔王様のオチンポだ。美味しそう……」
「バカなことを言うな。早く服を着せろ。それから、退け!」

 今の状況が理解できず混乱しながら叫んだら、リュークがニヤリと笑った。
 それから身体をずらし、私の下半身に陣取った。
 なにをするのか分からず不安げにリュークを見つめていたら、なんと! 私の性器をパクリと口に咥えたのだ。

「……っ!!」

 あまりの衝撃に眩暈めまいがした。
 だが、最近自慰をしていなかったので、そこはすぐに反応し始めた。

「や、やめよっ……! リューク……!」
「魔王様のオチンポ美味しいです……」

 そう言ってペロペロ舐めている。
 先走りがこぼれると、それも美味そうに嚥下えんげしている。
 大きく口を開き、喉奥まで私の性器を咥えてズポズポ動かしたときは、あまりの快感に喘ぎそうになってしまった。

「……リューク、もう口を離せ。達してしまう……!」

 私が必死に射精をこらえていると、リュークは言われた通りに私の性器から口を離した。

「魔王様の子種はこちらに下さりませ」

 そう言って私の上にぺたりと座ると、自分のスラックスを脱ぎ始めた。
 リュークの性器など見たくもない。私は必死に目を逸らそうとしたが、そこは堂々と勃起していて自然と目が吸い寄せられた。

「お、お前……、勃っているのか?」
「そりゃあ勃ちますよ。だって興奮しているのですから」
「興奮? なぜだ?」
「ふふ……。だって魔王様のこと大好きですから」
「!?」

 突然の大好きと言う言葉に驚いていたら、私の性器がリュークの尻穴にズブズブと飲まれていった。

「……っぐう!」

 こ、これは騎乗位というやつだ!
 リュークめ! 自分の尻穴に私の性器を咥え込みおった!

「あぁっ……! 太いぃ……。気持ちいい~」

 そう言ってリュークは腰を使い始めた。
 ギリギリまで引き抜いてから、ずぽんと腰を下ろす。
 それを何回も繰り返すのだ。

「ま、待て待てリューク……! このままでは達してしまう!」
「イって欲しいのです、魔王様。私に魔王様の子種をください」

 い、いやいや……!
 おかしいだろう!? この男はなにを考えているのだ!? 私とお前は上司と部下の関係だろう!?
 こんなことはあってはならない……!
 そう思いつつも、リュークの尻穴がギュッと締まった瞬間、私はあまりの快感に達してしまった。
 すると、リュークはブルリと身体を震わせて、ピュッと私の腹に精液を飛ばした。

「ハァッ……ハァッ……」

 部屋の中には私たちの荒い息遣いだけが聞こえた。

「お、お前っ……なんのつもりだっ……」

 私が息も絶え絶えにリュークを睨むと、リュークはうっとりとつぶやいた。

「だって魔王様のこと大好きなんです。好きだから弱体化してもおそばにいたんです。好きだから一生懸命お世話したんです。好きだから、身体を繋げたかったんです……」
「す、す、好きだと……!?」

 私が素っ頓狂な声をあげると、リュークはニコリと微笑んだ。

「はいっ! 好きというか、もう愛しています!」
「ば、ばかもん!! 好きだからって私をレイプするな!」
「ふふ……。こういうの、逆レイプって言うんですよ」

 お、恐ろしい……!
 この男、私を逆レイプしおった……!
 今すぐ逃げ出して助けを呼びたいが、今の私には走るどころか歩く力すらない。
 と、言うことはつまり、この男から逃げられないということだ。

「さ、最悪だ……! 私はこれから身体が回復するまで、この男に逆レイプされ続ける人生なのだろうか……!?」

 自分の運命に悲観して頭を抱えていたら、リュークがクスクスと笑った。
 本当に今日のリュークはよく笑う。いつも無表情なのに気味が悪い。

「魔王様。良いではないですか。私のことは肉便器とでも思ってください」
「……だが、しかし……」

 上司と部下が関係を持っても良いのであろうか?
 い、いや……。考え方を変えろ!
 リュークは私の介護を献身的にやってくれている。
 その見返りに、私の身体を差し出すのだ。
 そう考えれば、今の状況もなんとか受け入れられる。
 要は耐えればいいのだ。私の身体は百年くらいで回復する。それまで耐えに耐え抜いて、そのあとはコイツを八つ裂きにすれば良いのだ。
 よ、よし。受け入れ難いことだが、今は耐え忍ぼう。

「わ、分かった……。お前のことは肉便器だと思おう……。だが、逆レイプはやめろ。私に同意を得てから性行為をしろ」

 私の言葉に、リュークの表情がぱあっと明るくなった。

「やった! これで好きなだけ魔王様の子種が貰える!」
「お、お前……私の精液なんぞ欲しいのか?」

 気持ち悪い奴だななどと思っていたら、リュークが嬉しそうにうなずいた。

「だって魔王様の子種が貰えたら、魔王様の赤ちゃんが産めますからね!」

 リュークの衝撃発言に、私は目の玉が飛び出そうになった。
 そ、そう言えばコイツはダークエルフなのだ。
 エルフは男でも妊娠出来る。
 そうか……。なぜコイツが進んで私の世話など焼くのかと思ったが、私の子供が目当てだったのか……。

 恐ろしいエルフだ。
 もし子供など産まれたらどうしたものか。

 まぁ、そのときは殺そう。
 リュークとの子供など反吐が出る。
 私が完全復活したときに、リュークともども殺せば良いか。
 などと恐ろしいことを考えていたら、リュークが私の胸にしなだれかかってきた。

「愛しています。魔王様。すぐに元気な赤ちゃんを産みますからね」
「う、うむ……」

 耐えろ! 耐えるのだ私!!
 完全復活するまでこの地獄のような日々を耐え抜くのだ!!
 私は心の中で一大決心したのだった。

※※※※

 それから百年の月日が経過した。
 今の私は最強と言っても過言ではない。
 力は完全に戻り、身体の調子もすこぶる良い。

 これなら昔のように仲間を集め、魔王として君臨する日もそう遠くないはずだろう。

 ……はずなのだが、一つ困ったことがある。

「おとうしゃまー」

 小さな子供がこちらに向かって走ってくると、体当たりする勢いで私の足にしがみ付いた。
 私はその子供を軽々と持ち上げる。

「シュトー。あまり走るな。転んだら大変だぞ」
「だっておとうしゃまに早く会いたかったんだもん。ね? おかあしゃま!」

 シュトーの後ろからニコニコ微笑みながら近付いてくるリュークがいる。

「本当に、シュトーはお父様のことが大好きですね」

 リュークの言葉にシュトーは満遍の笑みを浮かべた。
 
「うん! だいしゅき!!」

 シュトーの言葉を聞いて、心がポッと温かくなる。
 私は自然と顔がニヤけてしまった。

 困ったこと――。それは私の心境の変化だ。
 あれだけ世界を征服することに心が動かされていたのに、今ではどうでも良くなってしまった。

 それよりも、愛するリュークとシュトーのために命を捧げたい気分だ。

 あぁ――これが幸せと言うものなのだな。
 私は片手でシュトーを抱き、もう片方の手を隣に立つリュークの肩にのせた。
 愛する妻と子供が手の届くところにいる。なんと幸せなことだろう。

「リュークよ。お前がずっと私のそばにいてくれたおかげで、今の幸せがある。礼を言うぞ」
「ふふ。もう世界征服はいいのですか?」
「興味が湧かないのだ。それよりも、今はお前とシュトーに夢中だ」
「変わりましたねぇ、魔王様」

 変わりもするさ。
 愛する者と過ごす幸福を知ってしまったのだから。

 私はニッコリと笑い、今の幸せを噛み締めたのであった。
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