上 下
15 / 16

第十五話 口論②

しおりを挟む
 呆れる俺を横目に、青髪はなおも苦しい言い訳を続ける。

「ネル様。私、寂しかったんです。ネル様はお仕事が忙しくてなかなか私に構ってくださらなかったから……」
「はぁ? ネルトニアのせいにすんなよ。お前本当最低だな」 

 俺が口を挟むと、青髪はギロリとこちらを睨んだ。
 
「黙れ! ネル様、どうか許してください。もう二度と愚かな行いはしないと誓います」

 そう言ってポロポロと涙をこぼした。
 普通の男だったら、駆け寄って慰めたくなるような美しい泣き顔だった。だが、ネルトニアはしらけたような表情でそれを見ている。

「……君のことは、もう本当に好きじゃないんだ。だから、いちいち俺に誓わなくていいぞ。それよりもう二度と俺の前に現れないでくれ。昔付き合っていた恋人がうろちょろしていたら、フォルンさんが気分を悪くするだろう?」
「そんな言い方……酷いです、ネル様」

 あーもうイライラすんぜ! お前の方がずっと酷いことしたんだよ! グチグチ言い訳しやがって!
 俺は堪忍袋の緒が切れた。
 ネルトニアを押しのけて、ずいと青髪の前に立つ。
 すると、敵意剥き出しで青髪が睨んできた。
 俺も睨み返すと、ネルトニアを指差しながら叫んだ。

「ゴチャゴチャうるせーんだよ!! コイツは俺の男だ!! 手ェ出したらぶっ飛ばすからな!!」

 俺の啖呵たんかがあまりにもデカい声だったので、その場はシーンと静まり返った。
 あれ? ちょっと言い過ぎたかな? と思っていたら、ネルトニアにひしっと抱き付かれた。

「フォルンさん、カッコいいです。さすがはフォルンさんです」

 いや……別にカッコ良くはないけどな……。と言うか、よく考えると恥ずかしいことを言っちまったな。
 だんだん照れ臭くなってきた俺は、誤魔化すように『ふんっ』と鼻を鳴らしてネルトニアから視線を逸らした。
 そんな俺たちを見ながら、青髪はギリギリと歯を鳴らす。

「ふ、ふざけるな! 貴様にそんなこと言われる筋合いは――」「アーリヤ。もうやめろよ」

 青髪の言葉をさえぎって、さっきから黙っていたイリヤがポツリとつぶやいた。
 イリヤはしょんぼりしながら話を続ける。

「ネル様に謝って、いさぎよく身を引けよ。今のお前、凄くカッコ悪いぞ?」

 青髪の顔がみにくく歪む。
 
「イリヤ……! お前、どっちの味方なんだ!?」
「ネル様の味方に決まってんだろ。お前の味方なんかいねーよ」
「……!」

 イリヤは俺とネルトニアの方へ身体を向けると、ペコリと頭を下げた。

「ネル様。それにフォルンさん。コイツは僕が責任を持って連れて帰ります。ご迷惑おかけしてすみませんでした」

 いや……。別にイリヤは悪くねーんだけどな。
 俺とネルトニアは拍子抜けしたように顔を見合わせた。
 すると、イリヤが青髪の腕を掴んだ。そのままグイグイ引っ張って外に連れ出そうとする。

「離せ! 私はまだネル様にお話がある!」

 抵抗する青髪に向かって、イリヤが叫んだ。
 
「いい加減にしろよ!!」

 イリヤの大声に、青髪はビクッと身体を震わせた。

「アーリヤ……。もっとプライドを持てよ……。それでも誇り高き魔法研究所の職員か? 俺、もうお前と友達やめたいよ。これ以上情けない姿見せんなよ……」
「……。だって……だって……」

 そう言って青髪はその場にうずくまった。顔に両手を当てて、シクシクとすすり泣いている。
 そんな青髪を、イリヤは痛ましいものを見るような目で見つめた。

「どんなに後悔しても、もう遅いんだよ。ネル様のことは諦めろ。本気でネル様のことを愛してるなら、身を引いてあげろよ。それがネル様のためなんだ……」
「……」

 イリヤの言葉が効いたのか、青髪はそれ以降口を閉ざした。ただ静かに泣きながら、イリヤに手を引かれて帰って行ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話

天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。 レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。 ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。 リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?

モブオメガはただの脇役でいたかった!

天災
BL
 モブオメガは脇役でいたかった!

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

アルファだけの世界に転生した僕、オメガは王子様の性欲処理のペットにされて

天災
BL
 アルファだけの世界に転生したオメガの僕。  王子様の性欲処理のペットに?

君が好き過ぎてレイプした

眠りん
BL
 ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。  放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。  これはチャンスです。  目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。  どうせ恋人同士になんてなれません。  この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。  それで君への恋心は忘れます。  でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?  不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。 「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」  ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。  その時、湊也君が衝撃発言をしました。 「柚月の事……本当はずっと好きだったから」  なんと告白されたのです。  ぼくと湊也君は両思いだったのです。  このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。 ※誤字脱字があったらすみません

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

処理中です...