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第二話 閑古鳥が鳴く店に、客が来た

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「へい、らっしゃい」

 八百屋さんかよと思うかけ声で入り口まで近付くと、俺は無遠慮に客を頭のてっぺんからつま先までジロジロ観察した。
 歳は二十代かな? メガネでひょろりと細長い男だ。
 長身の俺よりも背が高かった。それだけで、なんだか負けたような気がする。俺はムスッと不機嫌になりそうになったが、なんとかこらえた。
 
 それにしても、見かけねー顔だな。ジジババばっかの村にこんな若者いたっけな? などと思いながら席に案内する。男は黙って俺に着いてきた。席に座ると、早速話かけた。

「アンタ見ねー顔だなぁ。カボス村の住民か?」

 そんな雑な口調の接客があるかと思うかもしれねーが、この店に入ったら俺が王様なんだよ。王様は客になに言ってもいいんだよ。
 メガネは話しかけられてビックリしたのか、ビクッと肩を震わせてからこちらを見つめた。
 翡翠色の美しい目をしていてちょっとビビった。
 あれ? 一見地味なメガネに見えるけど、コイツ結構美形なんじゃね? まぁ、俺には負けるけど。などと思っていたら、メガネはゆっくり口を開いた。

「生まれはカボス村です。ちょっと前まで別の街に住んでたんですけど、最近父の具合が悪いのでこの村に戻って来たんです」
「へー。しばらく滞在すんの?」
「いえ、永住するつもりです。これからは父の仕事を継ごう思っています」
 
 あー分かったぞ。
 コイツはきっと、夢破れた若者なんだろう。
 若い頃に、こんなジジババしかいねー村出て行ってやる! と飛び出したのだ。それで都会で暮らしていたが上手くいかず、すごすごと実家に戻って来たのだろう。
 エルフの里でもそんな若者はゴロゴロいた。
 まぁ、俺も嫌になってエルフの里を飛び出した若者なんだけど、俺はまだ実家に帰ってねーもん。
 と、言うことは俺はこのメガネよりは根性あんな! 偉いぞ、俺! などとよく分からない優越感に浸りながら話を続けた。

「父ちゃんってなんて名前?」
「オジロと言います」
「え! オジロって村長じゃん! じゃあお前、村長の息子かぁ~」

 村長の仕事を継ぐと言うことは、農家になるのだろう。ちょっと尊敬するぜ。畑仕事って大変だもんな。あんなクソ面倒臭い仕事するために戻ってきたのか。

「お前凄いなぁ。俺も村長の畑仕事ちょっと手伝ったことあるけど、すぐに腰が痛くなってやめた」

 俺の言葉に、メガネはクスリと笑った。

「確かに畑仕事って腰痛くなりますよね」
「だよな。あんな辛い仕事を継ぐ為に戻ってくるなんて、お前根性あるなぁ」
「根性なんてそんな……。ただ、父の畑を守りたいと思っただけです」

 おー。村長、良い息子を持ったなぁ。
 俺はメガネの言葉に感心した。バシバシ肩を叩いて褒めてやる。

「偉いなぁお前! 頑張れよ!」
「あ、ありがとうございます。――ところで、注文いいですか?」
「あいよ」

 この店にはメニュー表なんて小洒落たものはないので、口で説明する。

「この店はコーヒーとパンケーキしか置いてねーぞ。どっちも絶品だ。両方頼むか?」
「へー。硬派なお店ですね。二品しか置いてないなんて、こだわりを感じます」
「まぁな」

 本当は面倒臭いから二品しか置いてないんだが、それを硬派と言ってくれるとは……。ふふふ、悪い気はしねーな。

「じゃあ、コーヒーとパンケーキをお願いします」
「あいよ。ちょっと待ってろ」

 キッチンへ行き、インスタントコーヒーの粉をカップに入れてお湯を注ぐ。そのあとは、先程適当に作っておいたパンケーキを温めた。それらをトレーにのせてメガネのテーブルに置いた。

「はい、お待ち」
「へー。速いですね。美味しそうだ、いただきます」

 コーヒーを一口啜り、メガネは『おや?』と言う表情をした。そのあとパンケーキを切り分けて口に運ぶ。
 やはり、『おや?』と言う表情をしていた。
 俺はメガネの前に立ち、ニッコリ微笑む。

「どうだ? 絶品だろう?」
「あ……。は、はい」

 明らかに微妙な表情をしていたのだが、俺は気が付かないフリをした。そのあとも暇なのでメガネがコーヒーとパンケーキをたいらげるまでしつこく話しかけた。
 俺に話しかけられ続けてへとへとになったメガネは、それからお会計をし、ヨロヨロと店を後にした。

 やべー。話過ぎたな。だって暇だったんだもん。
 あのメガネ、もうこの店来ねーだろうなぁ。
 もしかしたら常連客になってくれたかもしれないのに、惜しいことをしたなぁ……。
 などと思ったが、まぁ道楽でやってるようなものだし別にいいかと思い直し、俺はそのあとも客の来ない喫茶店でぼーっと過ごしたのだった。
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