2 / 16
第二話 閑古鳥が鳴く店に、客が来た
しおりを挟む
「へい、らっしゃい」
八百屋さんかよと思うかけ声で入り口まで近付くと、俺は無遠慮に客を頭のてっぺんからつま先までジロジロ観察した。
歳は二十代かな? メガネでひょろりと細長い男だ。
長身の俺よりも背が高かった。それだけで、なんだか負けたような気がする。俺はムスッと不機嫌になりそうになったが、なんとかこらえた。
それにしても、見かけねー顔だな。ジジババばっかの村にこんな若者いたっけな? などと思いながら席に案内する。男は黙って俺に着いてきた。席に座ると、早速話かけた。
「アンタ見ねー顔だなぁ。カボス村の住民か?」
そんな雑な口調の接客があるかと思うかもしれねーが、この店に入ったら俺が王様なんだよ。王様は客になに言ってもいいんだよ。
メガネは話しかけられてビックリしたのか、ビクッと肩を震わせてからこちらを見つめた。
翡翠色の美しい目をしていてちょっとビビった。
あれ? 一見地味なメガネに見えるけど、コイツ結構美形なんじゃね? まぁ、俺には負けるけど。などと思っていたら、メガネはゆっくり口を開いた。
「生まれはカボス村です。ちょっと前まで別の街に住んでたんですけど、最近父の具合が悪いのでこの村に戻って来たんです」
「へー。しばらく滞在すんの?」
「いえ、永住するつもりです。これからは父の仕事を継ごう思っています」
あー分かったぞ。
コイツはきっと、夢破れた若者なんだろう。
若い頃に、こんなジジババしかいねー村出て行ってやる! と飛び出したのだ。それで都会で暮らしていたが上手くいかず、すごすごと実家に戻って来たのだろう。
エルフの里でもそんな若者はゴロゴロいた。
まぁ、俺も嫌になってエルフの里を飛び出した若者なんだけど、俺はまだ実家に帰ってねーもん。
と、言うことは俺はこのメガネよりは根性あんな! 偉いぞ、俺! などとよく分からない優越感に浸りながら話を続けた。
「父ちゃんってなんて名前?」
「オジロと言います」
「え! オジロって村長じゃん! じゃあお前、村長の息子かぁ~」
村長の仕事を継ぐと言うことは、農家になるのだろう。ちょっと尊敬するぜ。畑仕事って大変だもんな。あんなクソ面倒臭い仕事するために戻ってきたのか。
「お前凄いなぁ。俺も村長の畑仕事ちょっと手伝ったことあるけど、すぐに腰が痛くなってやめた」
俺の言葉に、メガネはクスリと笑った。
「確かに畑仕事って腰痛くなりますよね」
「だよな。あんな辛い仕事を継ぐ為に戻ってくるなんて、お前根性あるなぁ」
「根性なんてそんな……。ただ、父の畑を守りたいと思っただけです」
おー。村長、良い息子を持ったなぁ。
俺はメガネの言葉に感心した。バシバシ肩を叩いて褒めてやる。
「偉いなぁお前! 頑張れよ!」
「あ、ありがとうございます。――ところで、注文いいですか?」
「あいよ」
この店にはメニュー表なんて小洒落たものはないので、口で説明する。
「この店はコーヒーとパンケーキしか置いてねーぞ。どっちも絶品だ。両方頼むか?」
「へー。硬派なお店ですね。二品しか置いてないなんて、こだわりを感じます」
「まぁな」
本当は面倒臭いから二品しか置いてないんだが、それを硬派と言ってくれるとは……。ふふふ、悪い気はしねーな。
「じゃあ、コーヒーとパンケーキをお願いします」
「あいよ。ちょっと待ってろ」
キッチンへ行き、インスタントコーヒーの粉をカップに入れてお湯を注ぐ。そのあとは、先程適当に作っておいたパンケーキを温めた。それらをトレーにのせてメガネのテーブルに置いた。
「はい、お待ち」
「へー。速いですね。美味しそうだ、いただきます」
コーヒーを一口啜り、メガネは『おや?』と言う表情をした。そのあとパンケーキを切り分けて口に運ぶ。
やはり、『おや?』と言う表情をしていた。
俺はメガネの前に立ち、ニッコリ微笑む。
「どうだ? 絶品だろう?」
「あ……。は、はい」
明らかに微妙な表情をしていたのだが、俺は気が付かないフリをした。そのあとも暇なのでメガネがコーヒーとパンケーキをたいらげるまでしつこく話しかけた。
俺に話しかけられ続けてへとへとになったメガネは、それからお会計をし、ヨロヨロと店を後にした。
やべー。話過ぎたな。だって暇だったんだもん。
あのメガネ、もうこの店来ねーだろうなぁ。
もしかしたら常連客になってくれたかもしれないのに、惜しいことをしたなぁ……。
などと思ったが、まぁ道楽でやってるようなものだし別にいいかと思い直し、俺はそのあとも客の来ない喫茶店でぼーっと過ごしたのだった。
八百屋さんかよと思うかけ声で入り口まで近付くと、俺は無遠慮に客を頭のてっぺんからつま先までジロジロ観察した。
歳は二十代かな? メガネでひょろりと細長い男だ。
長身の俺よりも背が高かった。それだけで、なんだか負けたような気がする。俺はムスッと不機嫌になりそうになったが、なんとかこらえた。
それにしても、見かけねー顔だな。ジジババばっかの村にこんな若者いたっけな? などと思いながら席に案内する。男は黙って俺に着いてきた。席に座ると、早速話かけた。
「アンタ見ねー顔だなぁ。カボス村の住民か?」
そんな雑な口調の接客があるかと思うかもしれねーが、この店に入ったら俺が王様なんだよ。王様は客になに言ってもいいんだよ。
メガネは話しかけられてビックリしたのか、ビクッと肩を震わせてからこちらを見つめた。
翡翠色の美しい目をしていてちょっとビビった。
あれ? 一見地味なメガネに見えるけど、コイツ結構美形なんじゃね? まぁ、俺には負けるけど。などと思っていたら、メガネはゆっくり口を開いた。
「生まれはカボス村です。ちょっと前まで別の街に住んでたんですけど、最近父の具合が悪いのでこの村に戻って来たんです」
「へー。しばらく滞在すんの?」
「いえ、永住するつもりです。これからは父の仕事を継ごう思っています」
あー分かったぞ。
コイツはきっと、夢破れた若者なんだろう。
若い頃に、こんなジジババしかいねー村出て行ってやる! と飛び出したのだ。それで都会で暮らしていたが上手くいかず、すごすごと実家に戻って来たのだろう。
エルフの里でもそんな若者はゴロゴロいた。
まぁ、俺も嫌になってエルフの里を飛び出した若者なんだけど、俺はまだ実家に帰ってねーもん。
と、言うことは俺はこのメガネよりは根性あんな! 偉いぞ、俺! などとよく分からない優越感に浸りながら話を続けた。
「父ちゃんってなんて名前?」
「オジロと言います」
「え! オジロって村長じゃん! じゃあお前、村長の息子かぁ~」
村長の仕事を継ぐと言うことは、農家になるのだろう。ちょっと尊敬するぜ。畑仕事って大変だもんな。あんなクソ面倒臭い仕事するために戻ってきたのか。
「お前凄いなぁ。俺も村長の畑仕事ちょっと手伝ったことあるけど、すぐに腰が痛くなってやめた」
俺の言葉に、メガネはクスリと笑った。
「確かに畑仕事って腰痛くなりますよね」
「だよな。あんな辛い仕事を継ぐ為に戻ってくるなんて、お前根性あるなぁ」
「根性なんてそんな……。ただ、父の畑を守りたいと思っただけです」
おー。村長、良い息子を持ったなぁ。
俺はメガネの言葉に感心した。バシバシ肩を叩いて褒めてやる。
「偉いなぁお前! 頑張れよ!」
「あ、ありがとうございます。――ところで、注文いいですか?」
「あいよ」
この店にはメニュー表なんて小洒落たものはないので、口で説明する。
「この店はコーヒーとパンケーキしか置いてねーぞ。どっちも絶品だ。両方頼むか?」
「へー。硬派なお店ですね。二品しか置いてないなんて、こだわりを感じます」
「まぁな」
本当は面倒臭いから二品しか置いてないんだが、それを硬派と言ってくれるとは……。ふふふ、悪い気はしねーな。
「じゃあ、コーヒーとパンケーキをお願いします」
「あいよ。ちょっと待ってろ」
キッチンへ行き、インスタントコーヒーの粉をカップに入れてお湯を注ぐ。そのあとは、先程適当に作っておいたパンケーキを温めた。それらをトレーにのせてメガネのテーブルに置いた。
「はい、お待ち」
「へー。速いですね。美味しそうだ、いただきます」
コーヒーを一口啜り、メガネは『おや?』と言う表情をした。そのあとパンケーキを切り分けて口に運ぶ。
やはり、『おや?』と言う表情をしていた。
俺はメガネの前に立ち、ニッコリ微笑む。
「どうだ? 絶品だろう?」
「あ……。は、はい」
明らかに微妙な表情をしていたのだが、俺は気が付かないフリをした。そのあとも暇なのでメガネがコーヒーとパンケーキをたいらげるまでしつこく話しかけた。
俺に話しかけられ続けてへとへとになったメガネは、それからお会計をし、ヨロヨロと店を後にした。
やべー。話過ぎたな。だって暇だったんだもん。
あのメガネ、もうこの店来ねーだろうなぁ。
もしかしたら常連客になってくれたかもしれないのに、惜しいことをしたなぁ……。
などと思ったが、まぁ道楽でやってるようなものだし別にいいかと思い直し、俺はそのあとも客の来ない喫茶店でぼーっと過ごしたのだった。
15
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。
碧
児童書・童話
異世界転生したものの、チートもなければ、転生特典も特になし。チート無双も冒険もしないけど、現代知識を活かしてマイペースに生きていくゆるふわ少年の日常系ストーリー。テンプレっぽくマヨネーズとか作ってみたり、書類改革や雑貨の作成、はてにはデトックス効果で治療不可の傷を癒したり……。チートもないが自重もない!料理に生産、人助け、溺愛気味の家族や可愛い婚約者らに囲まれて今日も自由に過ごします。ゆるふわ癒し系異世界ファンタジーここに開幕!【第2回きずな児童書大賞・読者賞を頂戴しました】 読んでくださった皆様のおかげです、ありがとうございました!
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【魔法学園編 突入☆】
はぴねこ
BL
魔法学園編突入! 学園モノは読みたいけど、そこに辿り着くまでの長い話を読むのは大変という方は、魔法学園編の000話をお読みください。これまでのあらすじをまとめてあります。
美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。
金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。
享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。
見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。
気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。
幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する!
リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。
カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。
魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。
オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。
ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる