1 / 1
美容院『キャンバス』
しおりを挟む
派遣社員の女性、ゆつ子は自分が運の悪い女だと思っていた。
どの職場で働いても自分の居場所のような気がしなくて、派遣社員をしながらいろいろな会社を転々としていた。
ゆつ子は自分の髪も嫌いだった。硬くて太くて、人に触られるのが嫌だった。だから、美容院に行くのもいつも憂鬱だった。
どんな美容師に切ってもらっても、自分の思い通りにならない。いつもあきらめて、無難なセミロングの髪型にしていた。
あるとき、今働いている会社の派遣期限が来て、新しい職場に派遣された。
そこは外国人も働いている外国語学校だった。その学校の経理のアシスタントを任されたのだ。
ある日、職場の若いスタッフ由美子と話していると、新しい情報を得た。
ゆつ子はいつも由美子の外ハネボブの髪型をうらやまく思っていた。
ゆつ子は由美子に聞いてみた。
「その髪型、朝セットするのにすごく時間がかかるんでしょ」
「そんなことないですよ。セット剤を付けて、手で毛先を外にハネさせるだけでこうなるんです」
ゆつ子はもっと時間がかかると思っていたので、びっくりした。
由美子はつづけた。
「今切ってくれている人がすごく上手な男の美容師さんで、わたし髪が多くて硬くてすごく困ってたんですど、いろんな美容院を探して、やっとその人にいきついたんです」
「すごーい」
その場にいたみんなが声をあげた。
ゆつ子は言った。
「わたしも由美子さんと同じ髪質なの。その美容師さんに切ってもらえば、わたしでも今より良い髪型になるかしら」
由美子は大きくうなずいた。
「だいじょうぶですよ。その美容師さんはそういった髪質が得意な人ですから。そういう髪質の人のほうがあってるんです」
ゆつ子は由美子に教えてもらって、早速原宿にあるその美容院『キャンバス』におもむいた。
『キャンバス』は一人でやっている美容院で、店内はアメカジスタイルのインテリアだった。
ゆつ子が店に入ると、店で焚いているお香の良い香りがして、美容師、原田はしゃがんで小説を読んでいた。
「いらっしゃい!」
原田は大きな声で言って、元気よく立ち上がった。
すごく感じのよい人に思えた。
ゆつ子は鏡の前に座ると、言ってみた。
「髪が多くて硬いので、ショートにしたくても、横にふくらんでしまうので、今までできなかったんですけど…、できますか」
「できるよ」
原田は間髪入れずこたえた。
「ほんとですか」
うれしくなってゆつ子は感激して言った。
「うん」
原田は自信たっぷりにこたえた。
ゆつ子は満面の笑みを浮かべ、これはむりだろうということを聞いてみた。
「今の長さよりも長くして毛先にパーマをかけるのはどうですか。パーマは髪多いからむりですよね」
「いやっ、できるよ」
そんなこと当たり前だよ、みたいな笑顔で原田は言った。
ゆつ子は飛び上がりたいくらい喜んだ。
「じゃあ、今日はショートにしてもらって、それから髪を伸ばして、長くなったらパーマをかけてもらいます」
「ハハハ、壮大な計画だなー」
原田はジョークを言って、ゆつ子を笑わせた。
ショートにしてもらった自分を鏡で見て、ゆつ子はうっとりした。
「ずっとこの髪型にしたいと思ってたんです」
ゆつ子が言うと、原田は満足そうな笑顔になった。
ゆつ子は次またこの美容院に来るのが楽しみになった。
翌日、ゆつ子が職場へ行くと、たくさんの人から声をかけられた。
「わ~、切ったんですね~。すごく似合ってる~」
「すごくいい~」
「そんなに変わるなら、わたしもその美容院に行きたい~。場所教えてください~」
と言われた。
ゆつ子はヘアスタイルを変えてから、、運気もあがったのか、それからいいことばかりが続いた。
今まで話せなかった英語が環境からか話せるようになり、職場の外国人講師のひとりと恋人どうしになり、その外国語学校の正規のスタッフになれた。
こんないいいこと続きなら、一生、その美容師さんのお世話になろうとゆつ子は決めた。
END
どの職場で働いても自分の居場所のような気がしなくて、派遣社員をしながらいろいろな会社を転々としていた。
ゆつ子は自分の髪も嫌いだった。硬くて太くて、人に触られるのが嫌だった。だから、美容院に行くのもいつも憂鬱だった。
どんな美容師に切ってもらっても、自分の思い通りにならない。いつもあきらめて、無難なセミロングの髪型にしていた。
あるとき、今働いている会社の派遣期限が来て、新しい職場に派遣された。
そこは外国人も働いている外国語学校だった。その学校の経理のアシスタントを任されたのだ。
ある日、職場の若いスタッフ由美子と話していると、新しい情報を得た。
ゆつ子はいつも由美子の外ハネボブの髪型をうらやまく思っていた。
ゆつ子は由美子に聞いてみた。
「その髪型、朝セットするのにすごく時間がかかるんでしょ」
「そんなことないですよ。セット剤を付けて、手で毛先を外にハネさせるだけでこうなるんです」
ゆつ子はもっと時間がかかると思っていたので、びっくりした。
由美子はつづけた。
「今切ってくれている人がすごく上手な男の美容師さんで、わたし髪が多くて硬くてすごく困ってたんですど、いろんな美容院を探して、やっとその人にいきついたんです」
「すごーい」
その場にいたみんなが声をあげた。
ゆつ子は言った。
「わたしも由美子さんと同じ髪質なの。その美容師さんに切ってもらえば、わたしでも今より良い髪型になるかしら」
由美子は大きくうなずいた。
「だいじょうぶですよ。その美容師さんはそういった髪質が得意な人ですから。そういう髪質の人のほうがあってるんです」
ゆつ子は由美子に教えてもらって、早速原宿にあるその美容院『キャンバス』におもむいた。
『キャンバス』は一人でやっている美容院で、店内はアメカジスタイルのインテリアだった。
ゆつ子が店に入ると、店で焚いているお香の良い香りがして、美容師、原田はしゃがんで小説を読んでいた。
「いらっしゃい!」
原田は大きな声で言って、元気よく立ち上がった。
すごく感じのよい人に思えた。
ゆつ子は鏡の前に座ると、言ってみた。
「髪が多くて硬いので、ショートにしたくても、横にふくらんでしまうので、今までできなかったんですけど…、できますか」
「できるよ」
原田は間髪入れずこたえた。
「ほんとですか」
うれしくなってゆつ子は感激して言った。
「うん」
原田は自信たっぷりにこたえた。
ゆつ子は満面の笑みを浮かべ、これはむりだろうということを聞いてみた。
「今の長さよりも長くして毛先にパーマをかけるのはどうですか。パーマは髪多いからむりですよね」
「いやっ、できるよ」
そんなこと当たり前だよ、みたいな笑顔で原田は言った。
ゆつ子は飛び上がりたいくらい喜んだ。
「じゃあ、今日はショートにしてもらって、それから髪を伸ばして、長くなったらパーマをかけてもらいます」
「ハハハ、壮大な計画だなー」
原田はジョークを言って、ゆつ子を笑わせた。
ショートにしてもらった自分を鏡で見て、ゆつ子はうっとりした。
「ずっとこの髪型にしたいと思ってたんです」
ゆつ子が言うと、原田は満足そうな笑顔になった。
ゆつ子は次またこの美容院に来るのが楽しみになった。
翌日、ゆつ子が職場へ行くと、たくさんの人から声をかけられた。
「わ~、切ったんですね~。すごく似合ってる~」
「すごくいい~」
「そんなに変わるなら、わたしもその美容院に行きたい~。場所教えてください~」
と言われた。
ゆつ子はヘアスタイルを変えてから、、運気もあがったのか、それからいいことばかりが続いた。
今まで話せなかった英語が環境からか話せるようになり、職場の外国人講師のひとりと恋人どうしになり、その外国語学校の正規のスタッフになれた。
こんないいいこと続きなら、一生、その美容師さんのお世話になろうとゆつ子は決めた。
END
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる