19 / 40
19
しおりを挟む
自分の身を滅ぼす。その言葉を聞いて、ギルドにいた受付嬢の言っていたことを思い出した。ディネクスを創設した三人、その内一人が転移者で、崩壊して死んでしまったのだとか。その死をこれからも繰り返さないように転移者を手厚く保護するとかどうとか。それがディネクスでの転移者に対する好待遇。カレン曰く、そのお陰か以降転移者の崩壊は起こっていないと言われているけれど、目の前のカエル忍者はまるでその逆の意見を言っているように聞こえた。
「転移者はディネクスの国のサービスのお陰で崩壊はしないって聞いたけどな、でたらめ言ってんのか?」
「誰から聞いたか知らねぇが、そうか、それくらいの情報は耳にしているのか」カエル忍者は数秒言葉を選ぶように考え「まぁそれならいいけどよ、そう思いたいならそう思うがいいさ」と、明らかに誤魔化すように話題を打ち切った。
「なんだよ、含みのある言い方だな」
「いや、選択権をくれてやろうと思っただけさ。ゲロも本当は心苦しいんだぜ、けどこれしかないからよ」
カエル忍者は俯く、その表情は憐れみというか悲しみというか、何か諦めを感じさせる顔だった。
「積極的にあの子を追いかけてきた割には、えらく消極的な感じだな。これしかない? 何がだよ。お前が行っているのは人との繋がりを断つ行為だ、殺人よりも悪質と言ってもいい」
「わかってんだよ! 偉そうに知ったこと言ってんじゃねぇぞボケが!」
カエル忍者は怒鳴った、これでもないくらいの怒りがその顔から感じられる。変温動物であるカエルが沸騰せんばかりの怒り。吊り上がる目に面食らっていると、カエル忍者は気を取り直したように平静に戻った。
「お前もいずれは、自分から記憶を差し出すことになるだろうよ、ゲロはそういう平和的な終幕を望むね」
「平和的だって?」あまりにそぐわない言葉に疑問を呈するしかなかった。「記憶を一方的に奪って、何が平和的だってんだ。お前の言いなりになって――」
いや、違うのか? そこで言葉が一瞬途切れる。カレンの転移者の友達は確か、記憶を失った後どうなったんだろう? 強制労働施設にでも入れられたのだろうか? 記憶を奪われて、一方的な搾取を受け入れるようになったのだろうか? いや、そんな話は聞いていない。
何かまた重要なことに気づきかけていると、背後から植物をかき分けるような音が聞こえた。恐らくカレンが駆けつけてきてくれたのだろう、それはカエル忍者も認識したようで「おっと、流石に二人は分が悪い」と言ってから手を合わせ始めた。合掌、そして最後の言葉を残す。
「今回は彼女が目的だったが、次はお前もターゲットだ、一応名乗っといてやるよ。ゲロはスクミトライブが1人、カゲロー。お前の名前は何て言うんだい?」
スクミトライブ、そんなヘンテコな名前からして、こんな奴があと二人もいるのかと思うと嫌気が刺す。しかし名乗りを上げた以上、僕も名乗らなければならないような気がしたので乗っかった。
「僕は、山田サツキだよ。だが次に会ってもこの名前は忘れないし、忘れたいとは思わない」
カゲローは胸のキーチェーンのかぎ針を引っこ抜いて、血が垂れても尚手を地面についた。その瞬間に地が揺れ始めてバランスが取れなくなる。
「その方が健全だって、分かっているはずなんだけどな」
哀しそうに小さく呟いてから、カゲローは言う。
『魔術忍法:下楼閣』
「待て――」
と言ったけれど、伝わらなかっただろう。樹木を持ち上げるように、横にとてつもなく大きな背の高い泥の壁が僕の前に現れて、まんまと逃げられてしまったのだった。その間、動く事ができなかった。忘れたいとは思わないと言ったものの、反発心からそう言ったものの、カゲローと名乗ったカエル忍者の言っていたことが何故か引っかかったからだ。というか、一理あると思ってしまったから。
記憶を差し出すことになるということは、つまり記憶を捨てたくなるということだ。
過去を忘れたいと思うということ。過去を思い出したくないということ。
そう言いかえれば、思わなかった時の方が少ないかもしれない。
カレンが後ろで立ち止まる。振り返ると、目の前の大きな茶色い泥の障壁を見上げていた。目と目が合うと、また泥の障壁を黙って眺める。呆気に取られているというように空いた口が塞がっていなかった。トイレに行くと嘘をついて駆け付けた癖にこの様だ、呆れられるのも無理はない。と思ったのだが。違った。
「サツキ、あんたの野クソでかすぎるでしょ」
「んなわけあるか!」
「転移者はディネクスの国のサービスのお陰で崩壊はしないって聞いたけどな、でたらめ言ってんのか?」
「誰から聞いたか知らねぇが、そうか、それくらいの情報は耳にしているのか」カエル忍者は数秒言葉を選ぶように考え「まぁそれならいいけどよ、そう思いたいならそう思うがいいさ」と、明らかに誤魔化すように話題を打ち切った。
「なんだよ、含みのある言い方だな」
「いや、選択権をくれてやろうと思っただけさ。ゲロも本当は心苦しいんだぜ、けどこれしかないからよ」
カエル忍者は俯く、その表情は憐れみというか悲しみというか、何か諦めを感じさせる顔だった。
「積極的にあの子を追いかけてきた割には、えらく消極的な感じだな。これしかない? 何がだよ。お前が行っているのは人との繋がりを断つ行為だ、殺人よりも悪質と言ってもいい」
「わかってんだよ! 偉そうに知ったこと言ってんじゃねぇぞボケが!」
カエル忍者は怒鳴った、これでもないくらいの怒りがその顔から感じられる。変温動物であるカエルが沸騰せんばかりの怒り。吊り上がる目に面食らっていると、カエル忍者は気を取り直したように平静に戻った。
「お前もいずれは、自分から記憶を差し出すことになるだろうよ、ゲロはそういう平和的な終幕を望むね」
「平和的だって?」あまりにそぐわない言葉に疑問を呈するしかなかった。「記憶を一方的に奪って、何が平和的だってんだ。お前の言いなりになって――」
いや、違うのか? そこで言葉が一瞬途切れる。カレンの転移者の友達は確か、記憶を失った後どうなったんだろう? 強制労働施設にでも入れられたのだろうか? 記憶を奪われて、一方的な搾取を受け入れるようになったのだろうか? いや、そんな話は聞いていない。
何かまた重要なことに気づきかけていると、背後から植物をかき分けるような音が聞こえた。恐らくカレンが駆けつけてきてくれたのだろう、それはカエル忍者も認識したようで「おっと、流石に二人は分が悪い」と言ってから手を合わせ始めた。合掌、そして最後の言葉を残す。
「今回は彼女が目的だったが、次はお前もターゲットだ、一応名乗っといてやるよ。ゲロはスクミトライブが1人、カゲロー。お前の名前は何て言うんだい?」
スクミトライブ、そんなヘンテコな名前からして、こんな奴があと二人もいるのかと思うと嫌気が刺す。しかし名乗りを上げた以上、僕も名乗らなければならないような気がしたので乗っかった。
「僕は、山田サツキだよ。だが次に会ってもこの名前は忘れないし、忘れたいとは思わない」
カゲローは胸のキーチェーンのかぎ針を引っこ抜いて、血が垂れても尚手を地面についた。その瞬間に地が揺れ始めてバランスが取れなくなる。
「その方が健全だって、分かっているはずなんだけどな」
哀しそうに小さく呟いてから、カゲローは言う。
『魔術忍法:下楼閣』
「待て――」
と言ったけれど、伝わらなかっただろう。樹木を持ち上げるように、横にとてつもなく大きな背の高い泥の壁が僕の前に現れて、まんまと逃げられてしまったのだった。その間、動く事ができなかった。忘れたいとは思わないと言ったものの、反発心からそう言ったものの、カゲローと名乗ったカエル忍者の言っていたことが何故か引っかかったからだ。というか、一理あると思ってしまったから。
記憶を差し出すことになるということは、つまり記憶を捨てたくなるということだ。
過去を忘れたいと思うということ。過去を思い出したくないということ。
そう言いかえれば、思わなかった時の方が少ないかもしれない。
カレンが後ろで立ち止まる。振り返ると、目の前の大きな茶色い泥の障壁を見上げていた。目と目が合うと、また泥の障壁を黙って眺める。呆気に取られているというように空いた口が塞がっていなかった。トイレに行くと嘘をついて駆け付けた癖にこの様だ、呆れられるのも無理はない。と思ったのだが。違った。
「サツキ、あんたの野クソでかすぎるでしょ」
「んなわけあるか!」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる