上 下
15 / 40

15

しおりを挟む
「物質創造とは、その名の通り物質をイメージすることで、クリエイトエナジーを元にイメージした物質を作り出すテクニックよ」

 田畑広がるほんわか田舎道を歩いている時に、カレンがそう説明した。いつのまにか赤縁眼鏡をかけて先生モードになっている。
 イメージするだけで物質を作り出すと言ってもあんまりイメージできない、ことはなかった。昨今3Dプリンターとかで銃のおもちゃが製造できるわけだし、イメージが物質となるというのはまぁ分かる。だが。

「その物質創造ってのは、どこまで詳細にできるんだ?」

 見たことも無い物質はイメージできないとして、現実に存在しない物質は作れるのか、機械等は作ることができるのか。聞いてみると首を横に振った。

「機械なんてできるわけないでしょ、構造が単純な物なら物質創造できるってだけ」

 それをどうやりくりしていくのかが物質創造の肝なのよ。とドヤ顔で説明される。だが本当に無理なのだろうか? イマイチ納得しかねる。表情に出ていたのか、カレンが明後日の方を指さした。そこには田畑を耕す鍬が、おんぼろ倉庫の壁に立てかけられていた。

「あれを作ってみて」

 僕らは立ち止まり、鍬を見つめて僕は手にイメージを集中させる。5属性を発現させた時、実はただたんに属性のイメージをしていたわけではなかった。雷属性はそもそも全身に駆け巡る電気信号をイメージすることで多少なりとも発現させられたし、火属性は燃焼という化学反応なので可燃物である酸素やガスをイメージしてから雷属性で着火したり、水属性は酸素と水素が合わさったモノだし、大地属性は色んな鉱物が入り混じっているだけだし、風属性は空気を発することができればいいので気体を集中して発生させれば風となる。このように、各属性はその現象を理解していれば発現できるため、義務教育レベルならば余裕なのだ。

 だが、鍬は出来なかった。イメージしても、持ち手にフォークのような金属がくっついている物質と作ることができない。ぐぬぬと少し唸ってあることに気づいた。

「そうか、この持ち手、なのか」

 カレンは指を鳴らした。「その通り、木は元々生き物だからその構造が複雑すぎてイメージできないのよね、だから鍬は作れないってわけ。できても鍬の鉄部分か、持ち手も鉄にすればできるかも知れないわね。重いけど」

 言って僕を置いて先に向かうカレン。説明は済んだという感じなのだろうが、しかし、僕はある希望を抱いていた。
 もし細部の細部まで内部を理解することができていれば、それは作れるということだ、と。
 ならば、を作ることができるのではないのか。今のところ森火事での倒木を除き目立った不幸は起こっていないけれど、いざ起きた時のために作っておきたい。
 手を振るカレンの呼びかけで、僕はようやく足を動かした。

「畑を荒らす青い鳥か、幸せもあったもんじゃないな」

「幸せどころか奪ってるもんねぇ、んでどうするの? 有用なソリューションは考え付いたかしら?」

 ある。その青い鳥が畑の作物を狙っているならば、それは罠として使えると言うことだ。鳥をとらえる罠と言えば。
 一つ、鉄檻を物質創造。これを斜めに立てかけて木の棒などで固定。
 二つ、木の棒に糸を括りつける。
 三つ、鉄檻の内側に作物を置いておく。
 これらを畑近くの山林に設置している様子を不思議そうに眺めるカレンがふと呟いた。

「相手は鳥なのよ? 餌だけ持って飛んで行かれるんじゃない?」

 これは一応考えがあっての事だった。「あのおばあさんは鳥の事をのろまだと言ったんだ。どんな鳥でも飛び立てば人間よりは速いはずなのに。だとすると、もしかしたら鶏みたいな飛べない種類なのかもって思ったんだよ」

 「なるほどね、まぁお手並み拝見と行きましょうか」

 カレンと共に、設置した罠を見れる草陰に隠れた。これであとはターゲットを待つばかり。
 じっと待つ。青空の下、風にあおられた木々の葉っぱが陽光を揺らす。
 その環境音が、無意識に記憶を呼び覚ます。
 自然な場所、緑が溢れる場所、鳥がさざめく場所、川が流れる場所、それは僕が友を失った状況に類似し、その記憶が呼び覚まされる。
 胸が焼けていく、影が視界を覆っていく。気配を消すための浅い呼吸が更に浅くなる。
 やばい、死にたい、消えてなくなりたい。
 僕を責めるな、僕に指をさすな。
 僕は悪くない、僕は悪く――。

「サツキ! 来たわよ!」

 肩が強めに叩かれて我に返る。気づけば太陽は雲に遮られていた。影が濃くなり少しだけ見えづらい山林の隙間に見える罠、その近くに近づく何かを見た。積み上げたニンジンやキャベツ、リンゴにブドウをその大きいクチバシでつつく、青い羽毛を揺らして周囲を窺っている。その時点でもすぐに罠の木の棒を引っ張って鉄檻を落とせばよかったのだが、僕は固まって動くことができなかった。さっきの心の闇の再発とはまた別で、だが、あれは。あの鳥は、あの種類は。

 何故あの種類が、ここにいる? 絶滅種なはずなのに。

「もうじれったいわね! 私がやる!」

 カレンがしびれを切らして僕が握る紐を奪い引っ張った。鉄檻が下がるものの、カレンの気配にいち早く気づいたのか、ニンジン一本だけ咥えて鉄檻を避けた。そのままタッタカタッタカと去っていく。まずい、逃げられる! 僕らは腰を上げて走り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...