上 下
75 / 87
<最終章:己が世界を支配せよ>

真に自分を見出したあいつらなら

しおりを挟む
 体の下から、空気が滝のように流れてくる。ビルの窓が俺達を反射しているけれど、他の景色はけたたましく映り変わっている。これが紐無しバンジーの感覚か。その新感覚を味わいながら次なる手を考えていると、風切音に紛れて優が叫んでいた。

「なんであいつらに任せた!? 相当強いだろあの竜人! 俺達がいた方が――」

「自分の友達を信じろ! 大丈夫だ、あいつらなら絶対にやり遂げる」

「――根拠は何だ?」

 風にまみれてよく聞こえなかったけれど、ユウの知りたいことはよくわかっていた。友を想うからこそ心配で、だから放っておけない。そういう気持ちは理解できる。

「竜人リュウコ、あいつは確かに強いんだろう、人間離れした(半分人間じゃないけれど)戦闘能力と竜の特性を活かした攻撃は苦戦を強いる。しかしそれを操るあいつの心がまだまだ未熟だ」

「心が未熟?」

「あいつは、皆が選択しない選択を敢えてすることで、自分が特別であることを自分自身に暗示しているんだ。だからこそクルミの侵攻にもついて来なかったんだ」

「それは、確率が低いからこそ言い当てるという、あいつの能力じゃないのか?」

「多分それはあいつのパーソナリティに引っ張られた能力なんだろう。心が強ければ強いほど魔法は安定する。その強さというのは時に周囲とは違う選択になるだろうけれど、それは結果論でしかない。自分が論理的に正しいと分かっているから選択するってだけ。そもそも皆の選択なんて見ちゃいないのさ」

 だが、と俺は1拍子間を開けてから言い直す。

「あいつは皆の選択を見て、そこから自分の選択をし直している。それが正しいのかどうかではなく、『皆とは違うかどうか』で選択しているに過ぎない。そしてその目的が『自分で自分を特別な存在だと思いたい』ってことさ」

「なるほど、そこに突け入る隙があり、それを突けるのが、モブだと言われていたあいつらってことか」

「そう。確かにあの竜人は強いだろう、だがあいつらならやれる。今までなら厳しかったかもしれないが、真に自分を見出したあいつらなら」

 周囲に気を遣うことを止めて、自分の興味のままに魔法を探求するマサト。
 人々と距離を取ることで、自分が本来したかった『武器職人』の道を見定めたナイツ。
 周囲の環境、人間によって魔法使いをしいられたが、その圧力に抵抗して拳を握ったサナ。

「あいつらならやれる。俺達は俺達のやるべきことをするんだ」

 俺は落ちながらビルの屋上を見上げた。炎が仕切りに飛び散るのは、今も尚戦っているということなのだろう。任せたぞ。口には出さず心で呟いていると、俺の視線を遮ってユウが顔をひきつらせた。

「なぁ、それはそうと、俺達はどうするんだ? お前まさか飛べたりするんだろうな? 竜上に置いてってったしよ」

「ん? ああ、そこは心配いらねぇ」

 俺はポケットにあるアイテムボックスから、紙飛行機を取り出した。それを取り落とすまいとしっかり握りしめる。

「これを巨大化させて、ハングライダーにできる。それで飛ぶことは可能だ。そこは安心してくれていいぜ。抜かりはない」

「じゃあそろそろ飛ぼうぜ! 地面が結構近づいてきたしよ!」

 あわあわと声を荒げてユウが言う。仕方がないなぁ、だが急にハングライダーを開くと、俺だけ飛んでユウを置いていくことになりかねない。だから決め事をすることにした。

「じゃあ、いっせーのーで、で開く。いいな?」

「え? いっせーの? で? の? ちょどっちか分かんねぇよ、いっせーので、のでで飛ぶのか?」

「あ? のでので? 何言ってんだよ。いやだから、いっせーのーでって」

「のなのかでなのか! わっかんねぇって!」

「あ、さっきのでは助詞のでであって、のでのので開くんだ、では助詞だぞ?」

「女子? 今は女の話なんてどうだっていいだろうが!」

「女子じゃない! 助詞だ!」

「ちょヤバいって! もう落ちるってマジで!」

「分かった開くぞ! はいせーのっ!」

 俺は手に持つ紙飛行機に魔力を注ぎ込み、空気を受けて空を飛ぶ紙飛行機の本質を理解する。そして勇者に片足を掴まれながら、空をふらふらと浮いた。

「でじゃねーのかよぉぉぉーーーーー……」

 * * *

 ステージに向けて準備を整えるため、楽屋は煌めく光で満ちていた。鏡の前に立つ彼女は、一つ一つの仕草が優雅で、それはまるで芸術のようだった。白いドレスが優美に揺れ、彼女の輝く笑顔が鏡に映り込む。

 彼女は指先で微細な修正を施す。細やかな仕上げにこだわり、髪の毛一本ひとつが完璧に整えられていく。その間、メイクアップのアーティストが彼女の肌に軽やかなタッチでメイクを施していく。

「もうすぐ出番ですよ」とスタッフが声を掛けると、彼女は自信に満ちた微笑みを浮かべる。最後の仕上げを施した彼女は、準備が整ったことを実感し、輝くための準備が整ったのだ。

 彼女の目は情熱と喜びで輝き、心地よい緊張感がスタジオを満たす。彼女は生放送の画面の向こう側にいるファンの待つ喝采の中で、そのスター性を披露するため、一歩を踏み出した。

「さぁ、バズりましょう」

 白き杖を携えて。
 神官メアリーは立ちはだかる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ

夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー   八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。     田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。     でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?     どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。     だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。     そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

処理中です...