72 / 87
<最終章:己が世界を支配せよ>
自分を信じる
しおりを挟む
これは、未来通りな筈だ。だって、皆がそうだと言ってくれたから。僕の未来予知は皆のおかげで更に精度が増したはずなのに。正確には、僕の導き出した未来を皆が無意識に精査することで、その答えを更に絞るというものだ。だから、失敗する確率は限りなく低くなっているはずなんだ。
現に、最後僕が導き出した未来「一般の人々を絶望に陥れさせて罪悪感を煽る作戦」も、失敗に終わった。それは僕だけが精査した未来だったからだ。だがそれまでの、皆と導き出した未来「魔力で気を引いてモモによって止めを刺す」作戦が失敗に終わったのが気がかりだ。
何かの間違いだ。
僕達が導き出した未来が失敗に終わるなんてありえない。
しかし、真に悔しいのは、皆で導き出した未来であるはずなのに、その皆がどこかワクワクとした感情に満ち溢れていることだった。失敗したのに、どこか楽しそうだった。
失敗したのに、だぞ?
なんで、
なんでそんなに、勇気が溢れているんだ。
僕も。
「んま、勇者は皆に勇気を与えるのが本質だからな、俺にはできねぇ」
魔王の代理を任された男は、勇者の背中を一瞥して満足げに、そして嫌味ったらしくほほ笑む。勇者は嫌悪の籠った声で返した。
「お前、説明するの面倒だからってぶっつけ本番でやらせんじゃねーよ。魔王の剣で統一された魔力を引き裂いて、勇者の剣で不安定な心を整える二段構え作戦で、ハーモニーメドウに挑むってことだろ?」
「そーゆーこと」
楽しそうに、ストレスなく笑い合う二人が憎くて、妬ましくて、僕はつい口を開いていた。
「なんで、そんなに楽しそうなんだよ」
「ん? 何が?」
「お前らは今、誰にも認められていないことをしようとしているんだぞ? どころか、皆が望んでいないことをしようとしているんだぞ? 皆、皆で一緒にいることを望んでるっていうのに、なんでお前らは余計な水を挿す!? 反発を買うぞ!? 白い目で見られるんだぞ? 孤立するかもしれないんだぞ? 怖くないのかよ!」
文句が溢れて止まらなかった。ドバドバと妬み口が飛んで行ってしまう。けど、どこかそんな自分自身が醜いってことに自覚的な自分がいる。
魔王の代理はしばらく「んー、そうだなぁ」と考えた後、チラと周囲を見渡して、ぷっと噴き出した。
「確かに怖いな、うん、いやマジで一人は怖い。けど自分の選択が、人生が誰かに委ねられて、毎日縛られたように生きる方が、俺はもっと怖い」
だが、と魔王の代理はクスノと男の神官の肩を両腕で掴み、地に這う僕に向かって笑いかけた。
「世界は広いからよ、少し次元を越えれば変わった奴等がいる。本気で自分を応援してくれる奴と一緒にいた方が、人生超楽しいだろ?」
その背後には、勇者が心を許している仲間と微笑みあう姿が見えた。彼らの笑顔が眩しくて、笑い声がうるさくて、悔しい。
僕の背後には、気を遣い、ご機嫌を窺い、目立った行動をとらないように見張り合うような関係の皆しか、いないから。
そうか、だから僕達の未来は、失敗したんだ。
そんな僕の肩に手を置いたのは、勇者だった。
「お前の失敗は、自分を信じ切れなかったことだ。なら次からは、どうすりゃいいか分かるよな」
ああ、今ならわかる。勇気が溢れる今なら、僕が誰の言葉に耳を傾けるべきなのかが、よくわかる。
* * *
竜の背中に乗り、ハーモニーメドウへと向かっていた。魔王の居場所に関してはガイドがいるので問題ないだろうし。縄でぐるぐる巻きのガイドさんが。
「あの、いや言ったじゃないですか、ビルいっぱいあったでしょ? あれの一番真ん中の奴、あそこにいるんですって、ほら目立つじゃないですか、それでバズりやすいなって皆が考えた結果でして。だからこの縄解いてくれません? 手首辺りが食い込んで痛いんですけど」
「いやーわかんねぇぞ、今までの地面を這って同情を誘い、俺達に嘘の情報を教えているだけかもしれない。未来見えるんだろ? ならそれくらいできそうだよな?」
「未来と言いましても、それは僕の精密な状況分析による結果でして、別にちゃんと未来見えてるわけじゃないんですよ。だからこんな状況読めっこないですって」
「うわ、お前ら聞いたか? こいつ自分で『精密な状況分析が未来予知並だよ』って言ってるぞ?」
「もうどうすればいいんですか!」
「ほら、そうやって何もできない自分を演出することで被害者になってまた同情を――」
ガツン、とユウに殴られた。わざわざ自分が乗っている竜から俺の竜に飛び移って殴ってきた。
「痛いわ! ははーん、一応腐っても勇者だから弱い者いじめは見過ごせないってことか?」
「面倒くせぇな! 移動中暇だからって虐めてると見てるこっちが気分悪いんだよ!」
「あ、だけどほら、見えてきた」
サナが気を取り直すために指をさす。雲間を抜けて上空から見えたのは綺麗な円を形作っているビル群。そこからは気持ち悪い空気を感じた。その景色を視界に捉え、クルミは言う。
「あの中心ビルの屋上に、魔王は囚われているのです」
現に、最後僕が導き出した未来「一般の人々を絶望に陥れさせて罪悪感を煽る作戦」も、失敗に終わった。それは僕だけが精査した未来だったからだ。だがそれまでの、皆と導き出した未来「魔力で気を引いてモモによって止めを刺す」作戦が失敗に終わったのが気がかりだ。
何かの間違いだ。
僕達が導き出した未来が失敗に終わるなんてありえない。
しかし、真に悔しいのは、皆で導き出した未来であるはずなのに、その皆がどこかワクワクとした感情に満ち溢れていることだった。失敗したのに、どこか楽しそうだった。
失敗したのに、だぞ?
なんで、
なんでそんなに、勇気が溢れているんだ。
僕も。
「んま、勇者は皆に勇気を与えるのが本質だからな、俺にはできねぇ」
魔王の代理を任された男は、勇者の背中を一瞥して満足げに、そして嫌味ったらしくほほ笑む。勇者は嫌悪の籠った声で返した。
「お前、説明するの面倒だからってぶっつけ本番でやらせんじゃねーよ。魔王の剣で統一された魔力を引き裂いて、勇者の剣で不安定な心を整える二段構え作戦で、ハーモニーメドウに挑むってことだろ?」
「そーゆーこと」
楽しそうに、ストレスなく笑い合う二人が憎くて、妬ましくて、僕はつい口を開いていた。
「なんで、そんなに楽しそうなんだよ」
「ん? 何が?」
「お前らは今、誰にも認められていないことをしようとしているんだぞ? どころか、皆が望んでいないことをしようとしているんだぞ? 皆、皆で一緒にいることを望んでるっていうのに、なんでお前らは余計な水を挿す!? 反発を買うぞ!? 白い目で見られるんだぞ? 孤立するかもしれないんだぞ? 怖くないのかよ!」
文句が溢れて止まらなかった。ドバドバと妬み口が飛んで行ってしまう。けど、どこかそんな自分自身が醜いってことに自覚的な自分がいる。
魔王の代理はしばらく「んー、そうだなぁ」と考えた後、チラと周囲を見渡して、ぷっと噴き出した。
「確かに怖いな、うん、いやマジで一人は怖い。けど自分の選択が、人生が誰かに委ねられて、毎日縛られたように生きる方が、俺はもっと怖い」
だが、と魔王の代理はクスノと男の神官の肩を両腕で掴み、地に這う僕に向かって笑いかけた。
「世界は広いからよ、少し次元を越えれば変わった奴等がいる。本気で自分を応援してくれる奴と一緒にいた方が、人生超楽しいだろ?」
その背後には、勇者が心を許している仲間と微笑みあう姿が見えた。彼らの笑顔が眩しくて、笑い声がうるさくて、悔しい。
僕の背後には、気を遣い、ご機嫌を窺い、目立った行動をとらないように見張り合うような関係の皆しか、いないから。
そうか、だから僕達の未来は、失敗したんだ。
そんな僕の肩に手を置いたのは、勇者だった。
「お前の失敗は、自分を信じ切れなかったことだ。なら次からは、どうすりゃいいか分かるよな」
ああ、今ならわかる。勇気が溢れる今なら、僕が誰の言葉に耳を傾けるべきなのかが、よくわかる。
* * *
竜の背中に乗り、ハーモニーメドウへと向かっていた。魔王の居場所に関してはガイドがいるので問題ないだろうし。縄でぐるぐる巻きのガイドさんが。
「あの、いや言ったじゃないですか、ビルいっぱいあったでしょ? あれの一番真ん中の奴、あそこにいるんですって、ほら目立つじゃないですか、それでバズりやすいなって皆が考えた結果でして。だからこの縄解いてくれません? 手首辺りが食い込んで痛いんですけど」
「いやーわかんねぇぞ、今までの地面を這って同情を誘い、俺達に嘘の情報を教えているだけかもしれない。未来見えるんだろ? ならそれくらいできそうだよな?」
「未来と言いましても、それは僕の精密な状況分析による結果でして、別にちゃんと未来見えてるわけじゃないんですよ。だからこんな状況読めっこないですって」
「うわ、お前ら聞いたか? こいつ自分で『精密な状況分析が未来予知並だよ』って言ってるぞ?」
「もうどうすればいいんですか!」
「ほら、そうやって何もできない自分を演出することで被害者になってまた同情を――」
ガツン、とユウに殴られた。わざわざ自分が乗っている竜から俺の竜に飛び移って殴ってきた。
「痛いわ! ははーん、一応腐っても勇者だから弱い者いじめは見過ごせないってことか?」
「面倒くせぇな! 移動中暇だからって虐めてると見てるこっちが気分悪いんだよ!」
「あ、だけどほら、見えてきた」
サナが気を取り直すために指をさす。雲間を抜けて上空から見えたのは綺麗な円を形作っているビル群。そこからは気持ち悪い空気を感じた。その景色を視界に捉え、クルミは言う。
「あの中心ビルの屋上に、魔王は囚われているのです」
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ
夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー
八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。
田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。
でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?
どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。
だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。
そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ
壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。
幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
泣きじゃくる彼女に、彼は言った。
「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」
「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う
馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない
そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!?
そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!?
農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!?
10個も願いがかなえられるらしい!
だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ
異世界なら何でもありでしょ?
ならのんびり生きたいな
小説家になろう!にも掲載しています
何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる