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<最終章:己が世界を支配せよ>
同調圧力は視野を狭める
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「今から貴方達はなすすべなく私達と同じになります。これは警告でも忠告でもなく、報告です。既に決定づけられている未来です」
薄暗い密林の中でさえその身が輝いているように見えるほど、その純白のローブは白く、真っ白だった。漫画ではどれだけ白い絵であろうとも、その輪郭を表現するために黒色の線を描かなければいけないはずなのだが、この男は、その線でさえも白くなっているように思われた。
「お前、何か白いモヤに顔だけ出してるみたいでキモイな」
「ふふふ、この美しさが分からないとは美的センスがありませんな。皆、僕の服を美しいと認めているというのに」
クルミは両手を広げると、出てきていいという合図だったのか、わらわらと多くの人間が、ハーモニーメドウと同じように同一の魔力を纏わして、この密林を包囲していた。クスノを手中に収めていたのもそのためだろう、このジメット密林はクスノのテリトリーではあるが、逆に言うと、クスノを無力化できれば近づきたい放題なのだから。
「美的センスなんて主観だろうが、それに、本当に美術を美しいって思ってるのか? 感慨に耽る俺かっけーって思ってるだけじゃないのか?」
クルミは露骨に嫌そうに表情を歪ませて、しかし余裕を取り戻そうと無理やり笑顔の形を保たせていた。
「これだから三流は、魔王様も審美眼が濁りましたな。ですが時期に分かるようになりますよ、我々と共にあればね」
クルミは手に持つ杖のぐるぐるっとした持ち手部分を向ける。すると、白いような、灰色のような、濁った煙のようなものが一気に空を支配する。それはだんだんと地面に近づいてきて、顔を覆う。無味無臭で、特に気管等に異常は見られない、精神以外は。
だんだんと、体が動かなくなる。肉体の不調ではない、精神の不調だった。立ち上がる力を失わせるというより、立ち上がる意味を自覚しづらくするというような。意識が朦朧とするような。
「お前らしゃがめ!」
ユウの忠告に、皆が火事の煙を吸わなくするように、姿勢を低くする。それでも灰色の空気はどんどんと地上との距離を縮めている。
「……く、こいつ、前に戦った時とは桁違いの魔力になってやがる」
「勇者との戦いは、言わば道楽、遊びですよ遊び。遊びに本気を出すわけないじゃないですか。美しくもない」
あざけるように、ユウを見下げてさらに続ける。
「これが僕の本気、いえ、僕達の本気ですよ。」
僕達。それがキーワードにでもなったのか、それに反応して、周囲に集まっていた人々がわらわらと近づいてくる。それにつれて、圧力もさらに強くなってきていた。
「今この場には、ハーモニーメドウで結集した同士が集まっている。我々がここに足を踏み入れることに成功した時点で、我々の勝利は決まっているのですよ」
落ちたまえ、落ち着きたまえ、尽きたまえ。精神を皆に委ねれば、苦しまずに済むのですよ?
優しくも、甘ったるい声でそう囁きかける。しかし、この場の者達は、そんな言葉に屈したりしなかった。
一人ひとりが、自分の道を自分で選ぶことができた強者たちなのだから。自分の人生の責任を自分で取ろうとしているのだから。
そのような甘い誘い言葉に、屈しない。
「おんどりゃー!」
無理やり立ち上がって、その勢いで魔王の剣をぐるりと一周振り回した。その力によって、一時的にではあるが灰色の空気が周囲から取り払われる。
クルミは厄介なものを見る目で、魔王の剣を一瞥する。
「流石は魔王の剣、本当に厄介な力ですよ。しかし初めて手にした貴方に、それを完璧に扱えますか? この軍勢の魔力に敵いますか!」
ハーモニーメドウでメアリーがその杖を指揮棒にしていた時のように、クルミも杖によって軍勢の魔力をコントロールする。その勢いはまるで極太のミミズのように空を蠢き、頭が俺達目掛けて突っ込んでくる!
「さぁ、潰れろ!」
そのミミズのような流れに向かって、魔王の剣の切っ先を構える。そのミミズは左右にパックリと割けていき、俺の背後にいるユウたちをも除けて行った。
「かかったな、やれ!」
突如、勢いよく何かが突っ込んでくる気配がした。気配というと魔力を探知したりスカウターで戦闘力を測定しているように思えるけれど、単純に灰色の空気の流れが異様だったためである。
そしてその正体は、ピンク色の頭をした小人だった。
「モモ!?」
「オーダーだ、こいつらをひき肉にしてしまえ!」
クルミは狂ったようにそう叫んだ。
アルクウッドはその根っこから魔力を吸い取る。クスノはその特性にやられて狂わされてしまったけれど、そうだった、この場にはモモの木もあるのだった。
しかも一人ではない、いくつものモモが飛び交っている。そいつらが俺達を食材と見なし、その命を狙っていた。
あー、もう。
勿体ない。
四方八方から突っ込んでくるモモ一人ひとりを、魔王の剣で一刀両断する。時間差で次々と飛んでくるモモだったが、その一人ひとりを引き裂く。
「な、なんだと!?」
「価値が分からねぇのにポコポコ使ってんじゃねぇぞ三下が!」
怒りを込めて、魔王の剣はミクルの魔力を一刀両断した。
薄暗い密林の中でさえその身が輝いているように見えるほど、その純白のローブは白く、真っ白だった。漫画ではどれだけ白い絵であろうとも、その輪郭を表現するために黒色の線を描かなければいけないはずなのだが、この男は、その線でさえも白くなっているように思われた。
「お前、何か白いモヤに顔だけ出してるみたいでキモイな」
「ふふふ、この美しさが分からないとは美的センスがありませんな。皆、僕の服を美しいと認めているというのに」
クルミは両手を広げると、出てきていいという合図だったのか、わらわらと多くの人間が、ハーモニーメドウと同じように同一の魔力を纏わして、この密林を包囲していた。クスノを手中に収めていたのもそのためだろう、このジメット密林はクスノのテリトリーではあるが、逆に言うと、クスノを無力化できれば近づきたい放題なのだから。
「美的センスなんて主観だろうが、それに、本当に美術を美しいって思ってるのか? 感慨に耽る俺かっけーって思ってるだけじゃないのか?」
クルミは露骨に嫌そうに表情を歪ませて、しかし余裕を取り戻そうと無理やり笑顔の形を保たせていた。
「これだから三流は、魔王様も審美眼が濁りましたな。ですが時期に分かるようになりますよ、我々と共にあればね」
クルミは手に持つ杖のぐるぐるっとした持ち手部分を向ける。すると、白いような、灰色のような、濁った煙のようなものが一気に空を支配する。それはだんだんと地面に近づいてきて、顔を覆う。無味無臭で、特に気管等に異常は見られない、精神以外は。
だんだんと、体が動かなくなる。肉体の不調ではない、精神の不調だった。立ち上がる力を失わせるというより、立ち上がる意味を自覚しづらくするというような。意識が朦朧とするような。
「お前らしゃがめ!」
ユウの忠告に、皆が火事の煙を吸わなくするように、姿勢を低くする。それでも灰色の空気はどんどんと地上との距離を縮めている。
「……く、こいつ、前に戦った時とは桁違いの魔力になってやがる」
「勇者との戦いは、言わば道楽、遊びですよ遊び。遊びに本気を出すわけないじゃないですか。美しくもない」
あざけるように、ユウを見下げてさらに続ける。
「これが僕の本気、いえ、僕達の本気ですよ。」
僕達。それがキーワードにでもなったのか、それに反応して、周囲に集まっていた人々がわらわらと近づいてくる。それにつれて、圧力もさらに強くなってきていた。
「今この場には、ハーモニーメドウで結集した同士が集まっている。我々がここに足を踏み入れることに成功した時点で、我々の勝利は決まっているのですよ」
落ちたまえ、落ち着きたまえ、尽きたまえ。精神を皆に委ねれば、苦しまずに済むのですよ?
優しくも、甘ったるい声でそう囁きかける。しかし、この場の者達は、そんな言葉に屈したりしなかった。
一人ひとりが、自分の道を自分で選ぶことができた強者たちなのだから。自分の人生の責任を自分で取ろうとしているのだから。
そのような甘い誘い言葉に、屈しない。
「おんどりゃー!」
無理やり立ち上がって、その勢いで魔王の剣をぐるりと一周振り回した。その力によって、一時的にではあるが灰色の空気が周囲から取り払われる。
クルミは厄介なものを見る目で、魔王の剣を一瞥する。
「流石は魔王の剣、本当に厄介な力ですよ。しかし初めて手にした貴方に、それを完璧に扱えますか? この軍勢の魔力に敵いますか!」
ハーモニーメドウでメアリーがその杖を指揮棒にしていた時のように、クルミも杖によって軍勢の魔力をコントロールする。その勢いはまるで極太のミミズのように空を蠢き、頭が俺達目掛けて突っ込んでくる!
「さぁ、潰れろ!」
そのミミズのような流れに向かって、魔王の剣の切っ先を構える。そのミミズは左右にパックリと割けていき、俺の背後にいるユウたちをも除けて行った。
「かかったな、やれ!」
突如、勢いよく何かが突っ込んでくる気配がした。気配というと魔力を探知したりスカウターで戦闘力を測定しているように思えるけれど、単純に灰色の空気の流れが異様だったためである。
そしてその正体は、ピンク色の頭をした小人だった。
「モモ!?」
「オーダーだ、こいつらをひき肉にしてしまえ!」
クルミは狂ったようにそう叫んだ。
アルクウッドはその根っこから魔力を吸い取る。クスノはその特性にやられて狂わされてしまったけれど、そうだった、この場にはモモの木もあるのだった。
しかも一人ではない、いくつものモモが飛び交っている。そいつらが俺達を食材と見なし、その命を狙っていた。
あー、もう。
勿体ない。
四方八方から突っ込んでくるモモ一人ひとりを、魔王の剣で一刀両断する。時間差で次々と飛んでくるモモだったが、その一人ひとりを引き裂く。
「な、なんだと!?」
「価値が分からねぇのにポコポコ使ってんじゃねぇぞ三下が!」
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