上 下
66 / 87
<第五.五章:生きて下山せよ>

自分らしくあれ

しおりを挟む
 モモが言うには、魔王の剣は心の愚かさを表に出す力があると言われている。故に恐れられており、勇者がその魔を退治してきた。そういえば、勇者に任命された時そういうことを言われていたような気がする。ざっくりと、人間に仇成す悪、という認識しかなかったのだが。

 しかし、サナの変化が魔王の剣によるものだと言うためにそういう説明をモモはしてくれたのだと思っていたが、愚かさが露呈したとは、あんまり思えない。

 これは愚かさというよりも、本性が露呈したというべきか。サナは結構な気配りさんだったので、よく鍋とか焼肉をするときは、食べ物をよそったりしてくれる立ち位置だった。俺はサナのそういう優しさが大好きではあるのだが、ふと思うことがあったのだ。

 お前は、肉を食べないのかと。

『男の子なんだから、私の事なんて気にせずにもっといっぱい食べなって。ほらナイツも。私が食べるといつもお肉になっちゃうから困ってるのよ』

 と、その時はとても女の子らしい返事をしてくれた。「じゃ遠慮なく~」とバクバクと躊躇いを微塵も感じさせずにメアリーは肉を食っていたが。……いや、メアリーとの対比によって自分をより女の子らしく見せようとしていただけか? だがそれを差し引いても、彼女はいつも人に気を遣っている部分があった気がする。

 サナの話というだけで、人に気を遣う者はいくらでもいる。というか、人に本性を隠す人がいないわけがない。そうやって人は社会生活を営んでいるのだから。

 だが、突然気遣いできる人が本性を出したら、どう思うだろう。
 第三者から、どう思われるだろう。周囲の人は認知的不協和をおこし、彼、彼女はこのような人間だっただろうか? と疑念を抱くことだろう。

 そしていづれ、変わったとか、あいつは表裏があるとか、そうやって敬遠され、腫れ物として扱われ。
 愚か者だと、言われる。

「という説もあります。本性がむき出しになることで、当人が愚か者だと思われる。そして人間の営みを著しく妨害する。なのでそんな剣を操る魔王を、勇者に退治してもらおう、ということから、人間と魔族が対立しているとか」

「なるほどなぁ、確かに俺も勇者に任命された時に、そういうこと言われた時があったっけ。あんまり自覚ないんだけど」

 だがこの剣を持ってきたのは結果オーライだったようだ。身体強化魔法限定だろうが、自身を強化することで、守られる存在ではなく、ちゃんとした戦える人員となったサナは、それどころかデビルベアを圧倒している。俺もこれに続いて、デビルベアを討伐してやろうじゃないか。

「よっしゃ、加勢するぜ!」

 と、両手でがっしりと握り、魔王の剣を前に出す。だがその時、ふわりと嫌な香りがした。そういえば魔王の剣を取りに行こうとしてから、この変な香りが鼻をつんざくんだよな。その匂いが、剣を動かすことでより顕著になったので、もう少しよく剣を見る。

 あれ。

「くっそさびてんじゃね!?」

 なーんか禍々しい黒々としたオーラを纏っているなーとか思っていたが、纏っていたのはオーラじゃない、焦げだ。ミナの奴、ちゃんと手入れせずに使ってたな?

「まずいですね、デビルベアは私がお渡しした包丁の切れ味では、文字通り刃が立たない剛毛を生やしています。そのせいで、サナ様の覚醒した打撃攻撃も、剛毛がクッションのような役割となりあまり決定打とはなっていません。奴を倒すためには、その毛をも引き裂く切れ味が必要だというのに」

 モモは地面に拳を叩きつけて悔しがる。だがそんなモモに「大丈夫だよ」と励ます声をかけた者がいた。ナイツだ。

「僕なら、その剣を復活させられるかもしれない。このデスカルゴの殻があれば」

「そうか、確か砥石としても使えるんだっけ? でも錆じゃなくて焦げだけど、やれるのか?」

「大丈夫だよ、この殻は台所では鉄板の焦げを擦って取る時にも使われるくらい汎用性が高いんだ」

「そんな巻きクソみたいなのを台所に置きたくはないが、やれるんなら任せるぞ」

「うん、しばらくでいいから、すぐに磨いで見せるから」

 ナイツの目を見ると、頼もしさ半分、このデスカルゴの殻を使ってみたいというのがもう半分という目をしていた。半分の頼もしさに欠けて、ちょっと笑いを引きつらせながら剣を渡す。


 そうこうしている内に、またもやデビルベアが起き上がった。まるでダメージがない。

「サナばっかりに任せてらんねぇからな、俺にも参戦させやがれ!」

 サナに肩を並べると、サナは一瞬目がクリっと愛らしい目になった。そこからまた武道家の目に戻ると、あの綺麗なファイティングポーズを決める。

「ユウって格闘もできたんだ」

「それはお前にだけは言われたくないよ。行くぞ!」

 デビルベアとの、第二ラウンドが幕を開けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ

夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー   八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。     田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。     でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?     どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。     だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。     そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...