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<第五.五章:生きて下山せよ>
世界の真相
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「私の正体、そして今の目的を語るためには、私がどうしてペタブヨウを立ち上げたのかについて語る必要があるだろう。まずはそれからだ」
ミナは、滔々と語りだした。
「勇者の超冒険は知っているかな? この世界に多大なる影響を及ぼした超大作だ。私も発売された当時はその物語に没頭したものだよ。だが私が没頭した本当の理由は、その物語が面白いとか感動してしまうということではなかった。
人の心を震わせ、響かせるその力。それそのものに興味を持ったんだ。私はしなかったけれど、当時その物語に影響されて、日常会話や服装、食生活、仕事等々が変化する人々が続出したんだ。私は驚愕したね、物語には人間を変える力があるんだって思わされた。私はそこに目を付けた。
何とかして作者に接触することが出来て、私は彼女に聞いてみたんだ。どうやって人を変えるような物語を作ることができるのかと。しかしそれは彼女にもわからなかったし、その頃から後悔している節があったんだ。彼女曰く、それらの物語はパクリが多く、オリジナルと言ってもいいような部分はごく少数だったのだとか。しかし、それでも呆れたね、他人のパクリで世界がここまで変わるなんてってさ。だから私はこの現象を分析し、システマティックに解析し、その現象を自動化することに成功した。
人は物語性に引かれ、共感し、同調し、人生を見直し、その行動を変えていく。そのプロセスを踏ませるような、物語性のあるトレンドを定期的に流行らせるシステムを作った。
放送魔法や通信魔法を応用し、より物語を発信して伝達しやすくしたアプリケーション、それがプリーストック。人の人生を捻じ曲げるという神の所業を成し得るのに、これほどいい名前はないだろう?」
ミナはそこで話を切った。というより、俺が疑問を呈してしまったからだ。
「ん? アンタは、何故そんなシステムを作ったんだ? システムを作るっていうのも、俺にはどう作るのかイマイチイメージしづらいのだが」
「ただの興味さ、やってみたかった。それだけ」
超軽かった。もっとミナの人生観というか、彼女のパーソナルなところに触れてみたくなったこともあり拍子抜けである。しかし、そこでミナが逆に聞いてきた。
「何故君は、私の行動原理を知りたかったのかな?」
「え、いやなんとなく、アンタの行動原理が分かれば、何か納得できそうだなって思って」
「それだよ」
「え?」急に指をさされたが、何がそれなのか思い当たらず首を傾げることしかできない。
「私はただの知的好奇心でこの現象を突き詰めたわけだが、もし幼少お世話になった師匠の研究を受け継ぎたかったとか、亡き父の死にはその現象が深くかかわっているからとか、そういう物語が付与されれば、納得して、私の努力に少しは感動するだろう? 感情を、動かされるだろう?」
ま、そんなことは全然なく、両親も元気にしているんだがね、とあっけらかんと言うミナ。そう言われると、抜けた拍子が更にすっぽ抜けた気分になった。
「それこそが物語の力。しかし私は深淵に踏み入れ過ぎた。ここからがお話の本番だから良く聞くようにね」
そう不穏な前置きを入れられて唾をゴクリと飲み込む。体温は上がっているけれど、ここまで走ってきていたので、乾いた喉を唾が通って痛いような刺激が走る。
「その物語の力は家族を動かし、地域を動かし、国を動かし、世界を動かした。そしてその力は人間に限らず、魔物にも影響を及ぼした。本来人間と魔物は丁度良く住み分けが出来ていたのにも関わらず、物語の設定でしかなかった、人間と魔物との対立が、現実に引き起こされた。銃口を側頭部に当てて引き金を引いてももう一人の自分が召喚されるわけがないのに、引き金を引いてしまうのと同じようなものだ。そうして人間と魔物の戦争が現実で長々と引き起こされてしまっているということだよ」
それを聞いて、一瞬何を聞いたのかが分からなかった。だが言葉の端々を思い返し、漸くその現実に行きつく。俺は自分に指をさして言った。
「え、ってことは俺って、その物語に共感しすぎて勇者してたってこと?」
「半分正解で半分外れかな、その答えは私がこんな辺境のところに拠点を構えていることにも影響する。人は確かに物語にも影響を受けるが、しかしそれだけじゃない。人は人からも影響を受ける。同調圧力とか、ピアプレッシャーとか言うんだけどね、それによって、君は心の内側から、そして周囲の人間によって外側から、勇者にさせられたんだよ」
勇者にさせられた。
俺自身の心と、周囲の人間の同調圧力によって。
ミナは、滔々と語りだした。
「勇者の超冒険は知っているかな? この世界に多大なる影響を及ぼした超大作だ。私も発売された当時はその物語に没頭したものだよ。だが私が没頭した本当の理由は、その物語が面白いとか感動してしまうということではなかった。
人の心を震わせ、響かせるその力。それそのものに興味を持ったんだ。私はしなかったけれど、当時その物語に影響されて、日常会話や服装、食生活、仕事等々が変化する人々が続出したんだ。私は驚愕したね、物語には人間を変える力があるんだって思わされた。私はそこに目を付けた。
何とかして作者に接触することが出来て、私は彼女に聞いてみたんだ。どうやって人を変えるような物語を作ることができるのかと。しかしそれは彼女にもわからなかったし、その頃から後悔している節があったんだ。彼女曰く、それらの物語はパクリが多く、オリジナルと言ってもいいような部分はごく少数だったのだとか。しかし、それでも呆れたね、他人のパクリで世界がここまで変わるなんてってさ。だから私はこの現象を分析し、システマティックに解析し、その現象を自動化することに成功した。
人は物語性に引かれ、共感し、同調し、人生を見直し、その行動を変えていく。そのプロセスを踏ませるような、物語性のあるトレンドを定期的に流行らせるシステムを作った。
放送魔法や通信魔法を応用し、より物語を発信して伝達しやすくしたアプリケーション、それがプリーストック。人の人生を捻じ曲げるという神の所業を成し得るのに、これほどいい名前はないだろう?」
ミナはそこで話を切った。というより、俺が疑問を呈してしまったからだ。
「ん? アンタは、何故そんなシステムを作ったんだ? システムを作るっていうのも、俺にはどう作るのかイマイチイメージしづらいのだが」
「ただの興味さ、やってみたかった。それだけ」
超軽かった。もっとミナの人生観というか、彼女のパーソナルなところに触れてみたくなったこともあり拍子抜けである。しかし、そこでミナが逆に聞いてきた。
「何故君は、私の行動原理を知りたかったのかな?」
「え、いやなんとなく、アンタの行動原理が分かれば、何か納得できそうだなって思って」
「それだよ」
「え?」急に指をさされたが、何がそれなのか思い当たらず首を傾げることしかできない。
「私はただの知的好奇心でこの現象を突き詰めたわけだが、もし幼少お世話になった師匠の研究を受け継ぎたかったとか、亡き父の死にはその現象が深くかかわっているからとか、そういう物語が付与されれば、納得して、私の努力に少しは感動するだろう? 感情を、動かされるだろう?」
ま、そんなことは全然なく、両親も元気にしているんだがね、とあっけらかんと言うミナ。そう言われると、抜けた拍子が更にすっぽ抜けた気分になった。
「それこそが物語の力。しかし私は深淵に踏み入れ過ぎた。ここからがお話の本番だから良く聞くようにね」
そう不穏な前置きを入れられて唾をゴクリと飲み込む。体温は上がっているけれど、ここまで走ってきていたので、乾いた喉を唾が通って痛いような刺激が走る。
「その物語の力は家族を動かし、地域を動かし、国を動かし、世界を動かした。そしてその力は人間に限らず、魔物にも影響を及ぼした。本来人間と魔物は丁度良く住み分けが出来ていたのにも関わらず、物語の設定でしかなかった、人間と魔物との対立が、現実に引き起こされた。銃口を側頭部に当てて引き金を引いてももう一人の自分が召喚されるわけがないのに、引き金を引いてしまうのと同じようなものだ。そうして人間と魔物の戦争が現実で長々と引き起こされてしまっているということだよ」
それを聞いて、一瞬何を聞いたのかが分からなかった。だが言葉の端々を思い返し、漸くその現実に行きつく。俺は自分に指をさして言った。
「え、ってことは俺って、その物語に共感しすぎて勇者してたってこと?」
「半分正解で半分外れかな、その答えは私がこんな辺境のところに拠点を構えていることにも影響する。人は確かに物語にも影響を受けるが、しかしそれだけじゃない。人は人からも影響を受ける。同調圧力とか、ピアプレッシャーとか言うんだけどね、それによって、君は心の内側から、そして周囲の人間によって外側から、勇者にさせられたんだよ」
勇者にさせられた。
俺自身の心と、周囲の人間の同調圧力によって。
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