上 下
62 / 87
<第五.五章:生きて下山せよ>

世界の真相

しおりを挟む
「私の正体、そして今の目的を語るためには、私がどうしてペタブヨウを立ち上げたのかについて語る必要があるだろう。まずはそれからだ」

 ミナは、滔々と語りだした。

「勇者の超冒険は知っているかな? この世界に多大なる影響を及ぼした超大作だ。私も発売された当時はその物語に没頭したものだよ。だが私が没頭した本当の理由は、その物語が面白いとか感動してしまうということではなかった。
 人の心を震わせ、響かせるその力。それそのものに興味を持ったんだ。私はしなかったけれど、当時その物語に影響されて、日常会話や服装、食生活、仕事等々が変化する人々が続出したんだ。私は驚愕したね、物語には人間を変える力があるんだって思わされた。私はそこに目を付けた。
 何とかして作者に接触することが出来て、私は彼女に聞いてみたんだ。どうやって人を変えるような物語を作ることができるのかと。しかしそれは彼女にもわからなかったし、その頃から後悔している節があったんだ。彼女曰く、それらの物語はパクリが多く、オリジナルと言ってもいいような部分はごく少数だったのだとか。しかし、それでも呆れたね、他人のパクリで世界がここまで変わるなんてってさ。だから私はこの現象を分析し、システマティックに解析し、その現象を自動化することに成功した。
 人は物語性に引かれ、共感し、同調し、人生を見直し、その行動を変えていく。そのプロセスを踏ませるような、物語性のあるトレンドを定期的に流行らせるシステムを作った。
 放送魔法や通信魔法を応用し、より物語を発信して伝達しやすくしたアプリケーション、それがプリーストック。人の人生を捻じ曲げるという神の所業を成し得るのに、これほどいい名前はないだろう?」

 ミナはそこで話を切った。というより、俺が疑問を呈してしまったからだ。

「ん? アンタは、何故そんなシステムを作ったんだ? システムを作るっていうのも、俺にはどう作るのかイマイチイメージしづらいのだが」

「ただの興味さ、やってみたかった。それだけ」

 超軽かった。もっとミナの人生観というか、彼女のパーソナルなところに触れてみたくなったこともあり拍子抜けである。しかし、そこでミナが逆に聞いてきた。

「何故君は、私の行動原理を知りたかったのかな?」

「え、いやなんとなく、アンタの行動原理が分かれば、何か納得できそうだなって思って」

「それだよ」

「え?」急に指をさされたが、何がそれなのか思い当たらず首を傾げることしかできない。

「私はただの知的好奇心でこの現象を突き詰めたわけだが、もし幼少お世話になった師匠の研究を受け継ぎたかったとか、亡き父の死にはその現象が深くかかわっているからとか、そういう物語が付与されれば、納得して、私の努力に少しは感動するだろう? 感情を、動かされるだろう?」

 ま、そんなことは全然なく、両親も元気にしているんだがね、とあっけらかんと言うミナ。そう言われると、抜けた拍子が更にすっぽ抜けた気分になった。

「それこそが物語の力。しかし私は深淵に踏み入れ過ぎた。ここからがお話の本番だから良く聞くようにね」

 そう不穏な前置きを入れられて唾をゴクリと飲み込む。体温は上がっているけれど、ここまで走ってきていたので、乾いた喉を唾が通って痛いような刺激が走る。

「その物語の力は家族を動かし、地域を動かし、国を動かし、世界を動かした。そしてその力は人間に限らず、魔物にも影響を及ぼした。本来人間と魔物は丁度良く住み分けが出来ていたのにも関わらず、物語の設定でしかなかった、人間と魔物との対立が、現実に引き起こされた。銃口を側頭部に当てて引き金を引いてももう一人の自分が召喚されるわけがないのに、引き金を引いてしまうのと同じようなものだ。そうして人間と魔物の戦争が現実で長々と引き起こされてしまっているということだよ」

 それを聞いて、一瞬何を聞いたのかが分からなかった。だが言葉の端々を思い返し、漸くその現実に行きつく。俺は自分に指をさして言った。

「え、ってことは俺って、その物語に共感しすぎて勇者してたってこと?」

「半分正解で半分外れかな、その答えは私がこんな辺境のところに拠点を構えていることにも影響する。人は確かに物語にも影響を受けるが、しかしそれだけじゃない。人は人からも影響を受ける。同調圧力とか、ピアプレッシャーとか言うんだけどね、それによって、君は心の内側から、そして周囲の人間によって外側から、勇者にさせられたんだよ」

 勇者にさせられた。
 俺自身の心と、周囲の人間の同調圧力によって。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...