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<五章:信じよ>
どうやら世界がやばいらしいのだが
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気付けば俺は、結構喋っていたらしい。と言ってももっと具体的な話をするというのは、それだけで心を抉ることになりかねないと無意識で分かっていたのか、内容は抽象的になってしまった。
そんな話をマジマジと聞き入っていたオーディエンスは、しばらく黙る。というか、かける言葉を探しているようにも見えた。憐れみにも慣れている。皆の輪に入れずに可哀そうとか、いつも一人とか。しかしそういう憐憫の情を一切感じさせないように、勇者が俺に切り出した。
「んで? その現象はどうすれば解決すると思う?」
2、3秒、いや23秒ほど頭が固まったと思った。話を聞いていたのかこいつは。呆れてため息が出る。
「あのなぁ、解決は無理なんだって。確かに異世界でならば解決できるかもとか思っていたけれど、あの民衆の圧力を受けて改めて痛感したんだ。あれは治せない」
「それは、お前が一人で立ち向かったらの話だろ?」
勇者は2秒は愚か、1秒も間を持たせずに返した。その返答によって言葉が詰まる。しかし数秒考えて、やはり俺は首を横に振った。
「ダメだ、確かに1人よりも2人とか、そういうのは聞いたことがあるけれど。お前がやっているのは、海に牛乳をかけ続ければいつか海が牛乳になるって言ってるようなもんだ。圧倒的数の前にはかないっこない」
「やってみなくちゃ分かんねぇだろ、根性出せば、そして乳を、いや知恵を絞れば、いつか海が牛乳になるかもしれねぇだろうが」
「……ごめん、例えが悪いから緊迫感が伝わらない。それと乳は絞らなくていいから」
と、武闘派魔法使いちゃんは両腕で胸元を隠し、ジト目で勇者と俺を見やる。うーん、確かに海に牛乳をかけるって、思い返すと意味不明な例えだった。そのせいで勇者から親父ギャグを引き出してしまったのだから罪深い。大きな力を前にすれば、小さな力を束ねても意味が無いと言いたかっただけなのだが。
「おほん、とにかく、俺達は根性も知恵も絞って解決に当たらないといけないってことだよ」
とにかく、と無理やり押し切っているところに違和感を覚えた。なんだか結構こだわるな。いや、こだわるべきところを俺が諦めているからそう感じているだけなのかもしれないけれど。今まで見てきた勇者の印象的に、このジャーナリズムな現象を打ち砕こうとするモチベーションを持っているとはとても思えなかった。
「何か理由でもあるのか?」
「メアリーに決まってるだろ」
あぁ、納得。そういえば大好きだったな、願いを叶える壺で真っ先に願うくらい。
しかしそれとは他にあるようで「ただ」と付け加えた。これが本番なのかもしれなかった。
「それだけじゃない、この現象を野放しにしていると、この世界は魔力の圧迫によってぶっ潰れる可能性がある」
「何それ!?」
いきなり展開がヤバくなっていた。どうしてそうなった!? 勇者は頭をかき、ずっこける俺に言う。
「お前が俺達をチョッタカ山にぶっ飛ばした後、色々あったんだよ」
「色々あり過ぎるだろ、世界が潰れるって、何があったらそういう話になんの?」
「そうだな、せっかくお前が自分の話してくれたんだ。俺達も話してやるよ」
「何話続きそう?」
「体感一章」
「事態が事態なので、一応巻きでお願いします」
「あれは、冷たい空気の中爆速で飛行している時のことだった」と、勇者は不穏な滑り出しで語りだした。チョッタカ山での出来事を。
* * *
この勢いで山肌に激突すれば確実に俺達は死ぬであろうと思った。涙も凍る体感温度の中、やっと飛行する角度が下に傾き、死を覚悟した。
が、ボフンと柔らかなモノに突っ込んでいた。冷たいものの、確かに俺には意識があり、感覚があり、生きているという実感があった。顔を出すと超絶なる寒さと風、吹雪が肌をビリビリと刺激する。
「さっむ!」
「え! うそ! 生きてる!? ってさむ!」
「う、うーん、寒っ!」
「ゆゆゆ勇者、なんあなんあなななな何があったんだよぉぉぉ……」
そういえば気を失っていたサナとナイツが、衝撃で覚醒した。よかった、大事ないらしい。しかし何故俺達は生きているのだろうか?
「私の職務は料理を通じてお客様を幸せにすることでございます故、料理を提供する前にお亡くならぬよう、こうして衝撃の少ない新雪を着地点に選ばせていただきました」
恭しく、そんなセリフを吐いたのは、だれであろう、俺のズボンをひん剥いたピンクアフロの木の小人だった。条件反射で腰に手を当てようとするが、剣がないことに気づく。なので何としても俺の友達を守るために、サナとナイツを背にした。
「そういえば自己紹介がまだでしたね、私はアルクウッドのモモと申します。ジメット湿原近くでシェフを務めております。どうぞお見知りおきを」
寒さもあり、余計に緊張してしまう。だからあまり言葉が頭に入ってこなかった。
「な、ななな何が目的だ!?」
「魔王代理様より仰せつかっております、貴方方お三方へデスカルゴお料理をご提供させていただきたいだけでございます。王宮で出されるやつよりも超旨いやつとのご要望でございましたのですが、いかがでしょうか?」
ぐるるる~。
心は警戒するも、体は正直だった。
そんな話をマジマジと聞き入っていたオーディエンスは、しばらく黙る。というか、かける言葉を探しているようにも見えた。憐れみにも慣れている。皆の輪に入れずに可哀そうとか、いつも一人とか。しかしそういう憐憫の情を一切感じさせないように、勇者が俺に切り出した。
「んで? その現象はどうすれば解決すると思う?」
2、3秒、いや23秒ほど頭が固まったと思った。話を聞いていたのかこいつは。呆れてため息が出る。
「あのなぁ、解決は無理なんだって。確かに異世界でならば解決できるかもとか思っていたけれど、あの民衆の圧力を受けて改めて痛感したんだ。あれは治せない」
「それは、お前が一人で立ち向かったらの話だろ?」
勇者は2秒は愚か、1秒も間を持たせずに返した。その返答によって言葉が詰まる。しかし数秒考えて、やはり俺は首を横に振った。
「ダメだ、確かに1人よりも2人とか、そういうのは聞いたことがあるけれど。お前がやっているのは、海に牛乳をかけ続ければいつか海が牛乳になるって言ってるようなもんだ。圧倒的数の前にはかないっこない」
「やってみなくちゃ分かんねぇだろ、根性出せば、そして乳を、いや知恵を絞れば、いつか海が牛乳になるかもしれねぇだろうが」
「……ごめん、例えが悪いから緊迫感が伝わらない。それと乳は絞らなくていいから」
と、武闘派魔法使いちゃんは両腕で胸元を隠し、ジト目で勇者と俺を見やる。うーん、確かに海に牛乳をかけるって、思い返すと意味不明な例えだった。そのせいで勇者から親父ギャグを引き出してしまったのだから罪深い。大きな力を前にすれば、小さな力を束ねても意味が無いと言いたかっただけなのだが。
「おほん、とにかく、俺達は根性も知恵も絞って解決に当たらないといけないってことだよ」
とにかく、と無理やり押し切っているところに違和感を覚えた。なんだか結構こだわるな。いや、こだわるべきところを俺が諦めているからそう感じているだけなのかもしれないけれど。今まで見てきた勇者の印象的に、このジャーナリズムな現象を打ち砕こうとするモチベーションを持っているとはとても思えなかった。
「何か理由でもあるのか?」
「メアリーに決まってるだろ」
あぁ、納得。そういえば大好きだったな、願いを叶える壺で真っ先に願うくらい。
しかしそれとは他にあるようで「ただ」と付け加えた。これが本番なのかもしれなかった。
「それだけじゃない、この現象を野放しにしていると、この世界は魔力の圧迫によってぶっ潰れる可能性がある」
「何それ!?」
いきなり展開がヤバくなっていた。どうしてそうなった!? 勇者は頭をかき、ずっこける俺に言う。
「お前が俺達をチョッタカ山にぶっ飛ばした後、色々あったんだよ」
「色々あり過ぎるだろ、世界が潰れるって、何があったらそういう話になんの?」
「そうだな、せっかくお前が自分の話してくれたんだ。俺達も話してやるよ」
「何話続きそう?」
「体感一章」
「事態が事態なので、一応巻きでお願いします」
「あれは、冷たい空気の中爆速で飛行している時のことだった」と、勇者は不穏な滑り出しで語りだした。チョッタカ山での出来事を。
* * *
この勢いで山肌に激突すれば確実に俺達は死ぬであろうと思った。涙も凍る体感温度の中、やっと飛行する角度が下に傾き、死を覚悟した。
が、ボフンと柔らかなモノに突っ込んでいた。冷たいものの、確かに俺には意識があり、感覚があり、生きているという実感があった。顔を出すと超絶なる寒さと風、吹雪が肌をビリビリと刺激する。
「さっむ!」
「え! うそ! 生きてる!? ってさむ!」
「う、うーん、寒っ!」
「ゆゆゆ勇者、なんあなんあなななな何があったんだよぉぉぉ……」
そういえば気を失っていたサナとナイツが、衝撃で覚醒した。よかった、大事ないらしい。しかし何故俺達は生きているのだろうか?
「私の職務は料理を通じてお客様を幸せにすることでございます故、料理を提供する前にお亡くならぬよう、こうして衝撃の少ない新雪を着地点に選ばせていただきました」
恭しく、そんなセリフを吐いたのは、だれであろう、俺のズボンをひん剥いたピンクアフロの木の小人だった。条件反射で腰に手を当てようとするが、剣がないことに気づく。なので何としても俺の友達を守るために、サナとナイツを背にした。
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寒さもあり、余計に緊張してしまう。だからあまり言葉が頭に入ってこなかった。
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