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<五章:信じよ>
衆人圧力~ピアプレッシャー~
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周囲には自撮り棒を持ったカメラマンが囲み、それをまるで指揮棒で指揮しているように、メアリーが光る杖をゆらゆらと動かしていた。その様子に一瞬マサトによる精神操作の魔法を想起したが、しかしここまで人をゾンビのように動かしてはいなかっただろう。
「裏切り、いやもっとそれ以上に、誘導したんだな? 俺達を」
睨む俺の緊迫感もどこ吹く風。妖艶に笑うその顔は
「ふふふ、さぁてね、私は私のできることをしただけよ。ほら思い返してみなさいよ、魔王についていく勇者パーティーなんて、普通いるわけないでしょ?」
そりゃそうだが。
しかし、その普通をぶち壊すために、俺たちは行動してきたんじゃなかったのか。
勇者だって、自分の勇者という立場ではなく、友として、お前を思っていたのに。
いや、違う。勇者がどうとか、今はそんなことどうでもいい。
俺は。
……いや、考えても仕方がない。
そう、考えても。
こいつは裏切った。つまりは敵じゃないか。
どれだけ力があろうとも。
どれだけ一緒に飯を食べようとも。
どれだけ苦楽を共にしようとも。
裏切れば、敵。
結局俺が俺らしくないことをしたばっかりに、こんなことになったんだ。人となんてつるむもんじゃないな。
やっぱり俺は、こうやって人に囲まれることになる。
敵意の視線を向けられて。
悪者として。
なるほど、だから俺は魔王という悪者の代理を勤めようとしていたわけだ。
人なんて信じるに値しないから。
「狙いは、魔王か」
「そう。魔王を今度こそキズナで結ばれた皆の力で、滅ぼして、世界を平和にするの。皆の力があれば、どんな悪も倒すことができる。縛ってボコボコにして、滅ぼす。とってもバズると思わない?」
その目は虚ろに輝いていた。深海のように深く、一色の青色に染まっている。それは周囲のストリーマーも同じようで、そのまま飲み込まれそうな気持になる。
周囲の人間が俺を撮影し、奇異な視線を向け、一挙手一投足が世界に伝わり、自由に解釈される。
心臓が跳ね上がる。胸を手で掴むが、それでも呼吸がどんどん荒くなるのが分かった。
ヤバイ、これは、良くない。
どんな魔法かは分からない。しかしこいつらの目を向けられるだけで、心が締め付けられるように苦しい。
そして、その中にメアリーもいる。先頭に立って徐々に迫るその姿を見ているだけで、死にたくなる。裏切られた気分になる。
「ふざ、けんな」
口から出る言葉も掠れて、か細い。見られている。視られている。
怖い。
「今何て言ったの? 聞きたいないー、ほら、皆もマイクとカメラを向けて。世界に見せつけてやりましょう。魔王とまではいかないけれど、その代理なんて務めた哀れな男の最後を」
メアリーの憎たらしい嘲笑を余所に、俺はなけなしの精神力を搔き集めて考える。
何の魔法だ?
精神操作? 重力操作? 酸素欠乏? 状態異常? 気力低下? 洗脳? 心神耗弱? どれもそれっぽくてそうでないような気がして、だがその全てを受けているような気がして。
駄目だ。
今すぐこの場から離れたい。
じゃないと、身が持たない。
「貴方は皆の敵」
「出る杭は打たれる」
「人の努力を何だと思っているんだ」
「ちょっとできるからって」
「調子に乗るなよ」
「お前が居なければ」
「ちょっとは周りに気を遣え」
「申し訳ないと思わないのか?」
「皆お前みたいにできないんだよ」
「天才は俺達を見下しているから」
「凡人の気持ちなんてわからないんだ」
「大人しくしてろ」
「消えてしまえ」
「一生1人でいてろ」
「天才に友達なんて要らないだろ」
反芻する、繰り返す、渦巻のように? 違う、メビウスの輪の中で、永遠に囁き続ける。悪意、敵意、憎悪、嫉妬、憤怒、全ての醜い感情を向けられて、それが一人でに反芻され、もう何が何だか分からないようになる。
世界は自分に厳しくて、周りは妬みばかリで、世界は広いけど狭い。
だから、もう終わりたいって何度も思った。
膝をついていた。地面から膝に、大勢が迫る足音が伝わっている。来ている。
そうか、この世界もそうなのか。
どれだけ優秀な者でも、周囲の力で潰される。
あーあ、世界が異なっても、やっぱり人は人なのか。
つまんねーの。
最後に顔を上げて、空を見た。そういえば、前の世界でもこんなことがあったっけ。俺はあの時と同じ選択をすることにした。
青く清々しい空。輝く太陽。まるでこれが世界の正義と言わんばかりだった。こういう時って空が曇りだして大雨が降るもんだろう? なら、俺を追い詰めるということは、世界的には正義だってことだ。皆の力が1つになって、なんやかんや悪者をやっつけて。心が1つになって。
世界は平和になりましたとさ。
「めでたしめでたし」
「めでてぇわけないだろうがぁぁぁぁぁーーーーー!!!」
瞬間。空が真っ暗になった。
雲が一瞬で覆ったのか? いや違う、闇雲というか、濃い紫色の煙が空を覆う。そんな空から、三人の何かが落ちてくる。
まるで悪役の登場。
しかしその声は、その背中は、その姿は、その闇色の剣を持つ者は、まさしく彼らだった。
「諦めてんじゃねぇぞ! こんな結末、俺達ぁ絶対ぇ認めねぇ!」
今ここに、勇者パーティーが再集結したのだった。
「裏切り、いやもっとそれ以上に、誘導したんだな? 俺達を」
睨む俺の緊迫感もどこ吹く風。妖艶に笑うその顔は
「ふふふ、さぁてね、私は私のできることをしただけよ。ほら思い返してみなさいよ、魔王についていく勇者パーティーなんて、普通いるわけないでしょ?」
そりゃそうだが。
しかし、その普通をぶち壊すために、俺たちは行動してきたんじゃなかったのか。
勇者だって、自分の勇者という立場ではなく、友として、お前を思っていたのに。
いや、違う。勇者がどうとか、今はそんなことどうでもいい。
俺は。
……いや、考えても仕方がない。
そう、考えても。
こいつは裏切った。つまりは敵じゃないか。
どれだけ力があろうとも。
どれだけ一緒に飯を食べようとも。
どれだけ苦楽を共にしようとも。
裏切れば、敵。
結局俺が俺らしくないことをしたばっかりに、こんなことになったんだ。人となんてつるむもんじゃないな。
やっぱり俺は、こうやって人に囲まれることになる。
敵意の視線を向けられて。
悪者として。
なるほど、だから俺は魔王という悪者の代理を勤めようとしていたわけだ。
人なんて信じるに値しないから。
「狙いは、魔王か」
「そう。魔王を今度こそキズナで結ばれた皆の力で、滅ぼして、世界を平和にするの。皆の力があれば、どんな悪も倒すことができる。縛ってボコボコにして、滅ぼす。とってもバズると思わない?」
その目は虚ろに輝いていた。深海のように深く、一色の青色に染まっている。それは周囲のストリーマーも同じようで、そのまま飲み込まれそうな気持になる。
周囲の人間が俺を撮影し、奇異な視線を向け、一挙手一投足が世界に伝わり、自由に解釈される。
心臓が跳ね上がる。胸を手で掴むが、それでも呼吸がどんどん荒くなるのが分かった。
ヤバイ、これは、良くない。
どんな魔法かは分からない。しかしこいつらの目を向けられるだけで、心が締め付けられるように苦しい。
そして、その中にメアリーもいる。先頭に立って徐々に迫るその姿を見ているだけで、死にたくなる。裏切られた気分になる。
「ふざ、けんな」
口から出る言葉も掠れて、か細い。見られている。視られている。
怖い。
「今何て言ったの? 聞きたいないー、ほら、皆もマイクとカメラを向けて。世界に見せつけてやりましょう。魔王とまではいかないけれど、その代理なんて務めた哀れな男の最後を」
メアリーの憎たらしい嘲笑を余所に、俺はなけなしの精神力を搔き集めて考える。
何の魔法だ?
精神操作? 重力操作? 酸素欠乏? 状態異常? 気力低下? 洗脳? 心神耗弱? どれもそれっぽくてそうでないような気がして、だがその全てを受けているような気がして。
駄目だ。
今すぐこの場から離れたい。
じゃないと、身が持たない。
「貴方は皆の敵」
「出る杭は打たれる」
「人の努力を何だと思っているんだ」
「ちょっとできるからって」
「調子に乗るなよ」
「お前が居なければ」
「ちょっとは周りに気を遣え」
「申し訳ないと思わないのか?」
「皆お前みたいにできないんだよ」
「天才は俺達を見下しているから」
「凡人の気持ちなんてわからないんだ」
「大人しくしてろ」
「消えてしまえ」
「一生1人でいてろ」
「天才に友達なんて要らないだろ」
反芻する、繰り返す、渦巻のように? 違う、メビウスの輪の中で、永遠に囁き続ける。悪意、敵意、憎悪、嫉妬、憤怒、全ての醜い感情を向けられて、それが一人でに反芻され、もう何が何だか分からないようになる。
世界は自分に厳しくて、周りは妬みばかリで、世界は広いけど狭い。
だから、もう終わりたいって何度も思った。
膝をついていた。地面から膝に、大勢が迫る足音が伝わっている。来ている。
そうか、この世界もそうなのか。
どれだけ優秀な者でも、周囲の力で潰される。
あーあ、世界が異なっても、やっぱり人は人なのか。
つまんねーの。
最後に顔を上げて、空を見た。そういえば、前の世界でもこんなことがあったっけ。俺はあの時と同じ選択をすることにした。
青く清々しい空。輝く太陽。まるでこれが世界の正義と言わんばかりだった。こういう時って空が曇りだして大雨が降るもんだろう? なら、俺を追い詰めるということは、世界的には正義だってことだ。皆の力が1つになって、なんやかんや悪者をやっつけて。心が1つになって。
世界は平和になりましたとさ。
「めでたしめでたし」
「めでてぇわけないだろうがぁぁぁぁぁーーーーー!!!」
瞬間。空が真っ暗になった。
雲が一瞬で覆ったのか? いや違う、闇雲というか、濃い紫色の煙が空を覆う。そんな空から、三人の何かが落ちてくる。
まるで悪役の登場。
しかしその声は、その背中は、その姿は、その闇色の剣を持つ者は、まさしく彼らだった。
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