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<五章:信じよ>

配信のユートピア

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「やぁやぁお三方! 観光ですか!? 観光ですね? そうでしょうとも!」

 ハーモニーメドウ。そびえる超高いビルを北極星のように中心に、星の数ほどあると言える量のビルが乱立している町。というのが第一印象だった。ヒートアイランド現象とかビル風とかがヤバいのなんの。日の光はビルの窓を反射しまくり、空間を効率よく熱している。まるで電子レンジの中にいるようだった。

 そんなこの町の第二印象はというと、めっちゃカメラを回している奴等がいるということだ。そりゃプリーストックというサービスを展開しているペタブヨウがあの超高いビルに鎮座しているのだから、まぁ分からなくはない。
 いや分かるか。何の蓋然性もないわ。それだとG〇〇gle本社の周りはy〇utberだらけになってしまうじゃないか。
 しかも、配信者が多すぎるためか、その配信者の群れを配信する奴も現れている始末である。鼬ごっこにしてもひでぇ。

 そんな配信者の巣窟に足を踏み入れてしまったためか、寝台列車から出た瞬間、旅人インタビュー系プリーストッカーという、迷惑極まりない輩に絡まれてしまったという次第が現在だ。こうやって数分前の過去を振り返りでもしないと、自撮り棒を片っ端からへし折った挙句に私人逮捕系プリーストッカーに絡まれるんだよなぁ。早めに片付けたいところだった。
 早く済めば、世界はこんな狂ってはいないわけだが。

「つれないですねぇ、俺達は言わば観光名所みたいなもんじゃないですか! こうやってインタビューを受けるとあなた方は何かいい気分になる、俺達はpvが稼げる、ほらwinwinだ!」

 相手したら負けなんだよなぁ。どうせ突っ込み待ちのセリフなんだろう。そういう思いで、中心のビルを目指す。ホームから出る直前に、こうやってインタビューに絡まれる輩を見たときから一応二人には「相手をしないように」とは言っている。だがそんな言葉では止まることはなく、動画を回しまくっていた。長らく勇者パーティーに付き合ったからだろうか。

 ちなみに、配信者同士はできるだけお互い干渉しないようにするという文化があるらしい。だから神官の女子が杖(お土産屋さんで売ってた)を自撮り棒のように持って配信しているところにはインタビューされないのだ。なら俺もそうすればいいのだろうが、気が乗らなかったのでしていない。

「家族での観光なら、ネズミーアイランドがとても楽しいですよ! 楽しめますよね! そうでしょうとも!」

 もはや問いかけにすらなっていなかった。そうでしょうって、どうでしょう?

「ちょっと、そうでしょうそうでしょうって、うるさいんだけど。声入ってる。あんたちゃんと指向性あるマイク使ってんの? そういうの存在がノイズだから止めてくんない? 素人が出しゃばらないでよね」

 ついに反応を神官の女子。流石は先輩ともなると後輩にはきついようで、一気にシュンと肩を落とした。その実、自分が動画を撮りまくりたいだけなのだが。
 超絶低い声色から一遍、ぺかーっと明るく腕を組んできて言った。

「ほらほら! あっちのタピオカカップ抹茶フラペチーノサンドイッチ美味しそうよ!」

「モモの料理を食っててよくそれが旨そうだと思えたな」

 呪文過ぎる。世の中何が流行るか分かったモノではない。神でさえも。
 そんな様子を見てか、さっきのそうでしょうお兄さんが閃き、再びカメラを向ける。

「もしやお二人ラブラブカップルですか!? いや御子さんがいらっしゃるということはラブラブファミリーですね! そうでしょうとも!」

「異議ありだ!」

「えー! めっちゃお似合いじゃないですかぁ、お父さんハッスルしておいて今更それはないっすよぉ」

「そうよそうよ、責任取りなさいよ」

 こいつ、自分に都合がよくなった時はこれだよ。ハッスルなんて誰がするものか。カメラ(杖先についている、丸い小さなレンズみたいなのがカメラだ)に向かって指をさしていった。

「別にこんな奴の事なんて好きじゃねーんだからな!」

「お父さんめっちゃツンデレじゃないですかぁ!」

 餌を上げただけだった。杖をぶんどり放送魔法を無理やり解除させる。

「チョー! 酷いじゃないですか!」

「急いでるんだよ、ほら行くぞ」

「はいはーい。あ、これ上げる」

 さんざん写真を撮って用済みになったのか、タピオカカップ抹茶フラペチーノサンドイッチをそうでしょうお兄さんにあげた。とその時、お兄さんが小声で聞いてきた。

「あの、もしかしてトッププリーストッカーのメアリーさんじゃないですか?」

「え、」

 バレよった。タピオカカップ抹茶フラペチーノサンドイッチの写真を厳選する顔が引きつる。どうしたものか、騒ぎが起こると動きにくくなる。疑われる前に退散しよう。と神官の女子の腕を引っ張ろうとするが。

「今逃げたら言いふらしちゃおっかなー」

 にやりと悪い笑みを浮かべる。ヤバイ、プリーストックで全世界に広められるとなれば、もうペタブヨウの懐に入ることはおろか、人間の国に行くことすらできなくなる。
 対策を考えていると、俺の警戒心に反して、どうしようお兄さんは合掌して腰を低くした。

「一回でいいんで、俺とコラボしてくんないっすか?」
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