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<五章:信じよ>
知らず知らずのうちに
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牛魔肉のステーキ重をペロリと平らげて、グデーっと寝転んでいると、そりゃ睡魔にも襲われる。今思うと隣にはそれこそ襲われそうな女豹がいたのだから、油断していたのだろう。いい旅・夢気分ではないけれど、どことなく旅行っぽい雰囲気は人の心と財布の紐を緩めてしまうらしい。
「いいや、違うわ。いい旅・夢気分なんてとんでもない」
仰向けに寝転がる俺に、そう呆れ混じりに突っ込んだのは、魔王っぽい女の人。白い世界によく映える黒髪ロングがひらりとゆれる。その隙間からは二本の角が見えていた。寝転ぶ俺を冷たく見下ろす。
「わしの子孫も言っておったじゃろうが。ここいらでは気持ち悪い魔力がだんだん濃くなってきておるとな」
「そのせいだっていうのか? 何でもかんでも魔力のせいにするってのも良くないぜ。今こうして意識を失ってお前に会ってるのは、食後の満腹感と日頃の疲れ、そして列車の揺れによる睡魔によるものさ」
「じゃといいんじゃがな」
という女。何が言いたいんだ?
「まさか気持ち悪い魔力が俺を油断させてるってのか?」
「わしが思うにな。無意識下のこの世界じゃからこそできる最大限の忠告じゃよ」
……納得できない。そんな覚えもないし、屈した覚えもない。という今のこの意識こそが、警鐘モノだというのならばそうなのかもしれないが。
「俺はこんなの、昔から跳ね除けてきたさ」
誰が何と言おうとも。
俺を止めることは誰にもできない。
俺の道を塞ぐものは全部敵だ。
そうやって周囲からの弾圧に反発して乗り越えてきた。実力でねじ伏せてきた。限界を超えてきた。だからこれからも変わらない。
「いや、貴様は真の意味で勝てていない。そして勝てない。今が既にそうだからじゃ」
「俺が魔力の圧力に屈してるってのか? 分かってないな。たった一度眠ったくらいで油断だなんて」
「いや違う。貴様がこの世界に来てからの行動、いや貴様の記憶を見る限りにおいて、貴様は今まで一度もその圧力を退けたことがないんじゃよ。じゃからこそ、道を塞ぐものがすべて敵に見えるんじゃ」
心当たりがあった。だから反論することができなかった。
「お前のやり方は間違っている」
「何故言ったとおりにしないのだ」
「ルールを守れ」
「秩序を乱すな」
そんな心無いことを言われて反論することができなかったのだ。何でだろう。俺はちゃんと本質的に正しいことを言っているはずなのに、周りの人は認めてくれない。認めてくれないってことは、俺が実は間違っているってことなんじゃないのか?
「でも、いくら考えても何が不満なのか分からない。間違っているってどうしても思えない。だから実力で証明した」
バスケットボールの本質は、ボールを奪って籠に入れることだから、スティールとシュートを練習して点を取れるように。
テニスは如何に相手にボールを触れさせないようにするかだから、超際際にボールを寄せられるサーブを打てるように。
言語は言葉と意味、感情のパズルなので、あとはピースを組み立てられるように。
「なのに、認められなかった。違うかの?」
「認められたいからやってんじゃないんだ。ただ成果を出せることってのが楽しかったってだけで」
ほうほうと呟き、うんうんと女は頷く。
「ふむふむ、まぁ理解できなくはない理由じゃな。なら良いのじゃないかの、それで納得できるならば。認められるためではなく自分のためならば。じゃが――」
「いいよ言わなくて。うん、確かに分かってる。分かってるから」
食い気味に言った。言われなくても分かっている。この場所は無意識の世界なのだから、余計に口が滑る滑る。なので強制的に止めた。
「そういうお前も、良かったのか? 俺なんかに行く末を託してさ。普通は子孫とかに遺すもん何じゃないの?」
むむむ、と顔をしかめる。投資と称して魔力を託す。そういうスタンスだったらしいのだが、残念だったな。
「そじゃのぉ、それほどまでに切羽詰まってたからの。じゃから仕方がなく貴様を代理にするしかなかったんじゃよ」
意識が段々と薄れて消えていく。そろそろ目が覚めそうになっていた。そんな朧気な意識に最後、女は聞こえるか聞こえないかといったボリュームの声で。
「世界を、娘を頼む」
目を閉じて寝息を立てる俺は微動だにしなかった。
* * *
「イェーイ!」
カシャ。
「はいチーズ!」
カシャ。
「どうもー! もう少しで大都市ハーモニーメドウに到着します! うわぁー! 大きい建物ばかりですね!」
起きるやいなや、めっちゃカメラを回していた。止めるなではない。誰かこいつらを止めろ。
「ライブ配信はやめろよな、リアルタイムの居場所がばれる」
「大丈夫大丈夫! そろそろ動画のストック切れそうだったから撮り溜めしてんのよ!」
「いいのぉ、わしも思い出残したいのぉ」
いや、魔王お前さっきまで乗り気じゃなかっただろ。マジのいい旅・夢気分になってるじゃねーか。
「撮っちゃお撮っちゃお! ほらあんたも!」
招き猫のように手をひょこひょこさせるので、応じないと行けない気がして、少しくらいは付き合ってやることにした。
「はいチーズ!」
カシャ。
「いいや、違うわ。いい旅・夢気分なんてとんでもない」
仰向けに寝転がる俺に、そう呆れ混じりに突っ込んだのは、魔王っぽい女の人。白い世界によく映える黒髪ロングがひらりとゆれる。その隙間からは二本の角が見えていた。寝転ぶ俺を冷たく見下ろす。
「わしの子孫も言っておったじゃろうが。ここいらでは気持ち悪い魔力がだんだん濃くなってきておるとな」
「そのせいだっていうのか? 何でもかんでも魔力のせいにするってのも良くないぜ。今こうして意識を失ってお前に会ってるのは、食後の満腹感と日頃の疲れ、そして列車の揺れによる睡魔によるものさ」
「じゃといいんじゃがな」
という女。何が言いたいんだ?
「まさか気持ち悪い魔力が俺を油断させてるってのか?」
「わしが思うにな。無意識下のこの世界じゃからこそできる最大限の忠告じゃよ」
……納得できない。そんな覚えもないし、屈した覚えもない。という今のこの意識こそが、警鐘モノだというのならばそうなのかもしれないが。
「俺はこんなの、昔から跳ね除けてきたさ」
誰が何と言おうとも。
俺を止めることは誰にもできない。
俺の道を塞ぐものは全部敵だ。
そうやって周囲からの弾圧に反発して乗り越えてきた。実力でねじ伏せてきた。限界を超えてきた。だからこれからも変わらない。
「いや、貴様は真の意味で勝てていない。そして勝てない。今が既にそうだからじゃ」
「俺が魔力の圧力に屈してるってのか? 分かってないな。たった一度眠ったくらいで油断だなんて」
「いや違う。貴様がこの世界に来てからの行動、いや貴様の記憶を見る限りにおいて、貴様は今まで一度もその圧力を退けたことがないんじゃよ。じゃからこそ、道を塞ぐものがすべて敵に見えるんじゃ」
心当たりがあった。だから反論することができなかった。
「お前のやり方は間違っている」
「何故言ったとおりにしないのだ」
「ルールを守れ」
「秩序を乱すな」
そんな心無いことを言われて反論することができなかったのだ。何でだろう。俺はちゃんと本質的に正しいことを言っているはずなのに、周りの人は認めてくれない。認めてくれないってことは、俺が実は間違っているってことなんじゃないのか?
「でも、いくら考えても何が不満なのか分からない。間違っているってどうしても思えない。だから実力で証明した」
バスケットボールの本質は、ボールを奪って籠に入れることだから、スティールとシュートを練習して点を取れるように。
テニスは如何に相手にボールを触れさせないようにするかだから、超際際にボールを寄せられるサーブを打てるように。
言語は言葉と意味、感情のパズルなので、あとはピースを組み立てられるように。
「なのに、認められなかった。違うかの?」
「認められたいからやってんじゃないんだ。ただ成果を出せることってのが楽しかったってだけで」
ほうほうと呟き、うんうんと女は頷く。
「ふむふむ、まぁ理解できなくはない理由じゃな。なら良いのじゃないかの、それで納得できるならば。認められるためではなく自分のためならば。じゃが――」
「いいよ言わなくて。うん、確かに分かってる。分かってるから」
食い気味に言った。言われなくても分かっている。この場所は無意識の世界なのだから、余計に口が滑る滑る。なので強制的に止めた。
「そういうお前も、良かったのか? 俺なんかに行く末を託してさ。普通は子孫とかに遺すもん何じゃないの?」
むむむ、と顔をしかめる。投資と称して魔力を託す。そういうスタンスだったらしいのだが、残念だったな。
「そじゃのぉ、それほどまでに切羽詰まってたからの。じゃから仕方がなく貴様を代理にするしかなかったんじゃよ」
意識が段々と薄れて消えていく。そろそろ目が覚めそうになっていた。そんな朧気な意識に最後、女は聞こえるか聞こえないかといったボリュームの声で。
「世界を、娘を頼む」
目を閉じて寝息を立てる俺は微動だにしなかった。
* * *
「イェーイ!」
カシャ。
「はいチーズ!」
カシャ。
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