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<四章:人間の国を調査せよ>

家宅捜索

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 魔王は何やら話があるようなので一旦さておくとして、俺、神官の女子とカナタでこの家に下宿させてもらうことと相成った。丸いドアノブを握って時計回りに回して引くと、扉は開かない。

「何自分の家みたいにナチュラルにドア開けてんのよ、勇者じゃあるまいし」

「あいつの悪事がとどまるところを知らねぇな、それなのに何で祭りであんなに祭られてんだよ」

 神官の女子からの指摘にそう言い返しながら、提灯の光にランランと照らされていた勇者の銅像を思い出す。1分の3スケール(つまりは3倍)のそれは、橙色の光に照らされていることも相まって、なんだか黄金に輝いているようにも見えていた。原作でも泥棒していたらしいし(カナタ曰く)、こりゃ読者層に問題があるような気がした。
 その読者層を代表して、カナタが指を立てた。

「いや、そういう普段は悪ぶってる人が、いざって時に悪から人々を守るギャップがいいんじゃないですか!」

「悪ぶってるんじゃなくて悪いんだよ! 他人の家物色してモノ盗む奴から勇気もらってんだぞ? 義賊だわ義賊!」

 はぁ、と大きくため息を吐くと、そのドアノブの中心に、穴があることに気が付く。三角の上の角に丸をひっつけたような、そんな穴をしていた。前方後円墳のようだ。つまり鍵穴である。

 こんなこともあろうかと、魔王城から色々と道具をアイテムボックスに入れておいたのだ。それがこの爪楊枝のような大きさのミニステッキ。杖のように大きくないが、代わりに細かいところに魔法をかける時につかわれるらしい。針治療とかに使われるのだとか。それを神官の女子に手渡す。

「おい、これでこの穴の中身を照らしてくれ」

「えぇ? 仕方がないわねぇ」とミニステッキをチョコンと受け取り、穴を照らす。その穴を覗こうとするのだが。

「おい、もうちょっと手をどかせ邪魔だ」

「だって穴が小さいんだから仕方がないじゃないの!」

 手が頭に当たって穴と同じ高さに目を合わせられない。ふにっと無駄に柔らかい手が頭上に乗る。

「もっとこう、光を穴に置いていくとかできるだろ! ったく」

「それだと眩しくて穴見れないじゃない! だからこうして気を利かせて斜めから照らしてるんじゃないのよぉ!」

 全然かみ合わなかった。俺とこいつで二人羽織をすれば顔を積極的に殴っている自信があった。

「ならもう少し斜め上からでも見えるから、それでよろしく」

「こう?」

「お、そうそうそこらへんだよ。やればできんじゃん」

 言いつつ、見えた。結構古いタイプらしい。その中でも解いたことがあるやつだったので、アイテムボックスから針金をとりだして特定のねじり方をする。それを鍵穴に入れた。少し手が痛むけれど、まぁかすり傷だろう。
 カチャカチャ。カチャリ。

「うっそぉ!」

「鍵穴の本質はパズルだからな、ちょろいちょろい」

 錠が空いた扉を引く。視界に広がるのはリビングルーム。大きなテーブルがあり、椅子が4脚中に入っている。正面の壁は大きな窓で、レースのカーテンと遮光カーテンで塞がれているためか、ただでさえ夜で暗いのに余計に暗く感じた。一応人がいた時のために靴は脱ぎ、木の床に踏み入れる。

 が、横を見ると。いるはずがない人物がそこにいた。驚きでつい声が漏れる。

「え、おい、何でお前がそこにいる?」

 そこには、先ほどまで後ろで俺の解錠を待っていたであろうカナタの姿があった。窓から洩れるスポットライトの光がその姿を照らすと、出会った時と同じ姿をしていた。ヒラヒラとカーテンが翻ると共に、三つ編みが揺れる。

 警戒心を一段階上げ、カナタを見据えた。

「お前、毒を盛っただけでなく、俺達をここに誘い込んだってのか?」


「いえ、普通に窓が開いてたので入りました」


「「言えよ」」

 よく見れば靴を片手に持っていた。土足で入るのは流石にマナー違反だということなのだろうが、いや窓が開いていても普通は入らない。まぁピッキングした玄関から入っても変わらないが。

「いやその、あんなに地響きがしたのにこの家から何の反応も無いのが気がかりだったので。これは非常事態だなと、入れるところを探していたんですよ」

 ははーん、それでピッキング失敗しても「別の入り口をご用意しておきました」ってできるわけだ。……いや、魔王軍への忠誠ってよりかは、単純に作者の身を案じてって感じか。

「押しかけファンムーブをしたいところだが、確かにここまでしても反応がないのはおかしい。いい着眼点だな、推理作家にでもなればいいんじゃないのか?」

「え!? いやいや、私なんかが小学生の探偵を描くなんて無理ですよぉ」と、えへえへと照れた。

 そっちにも手を出していたのか。この作者、あらゆるところからネタをパクっているのではなかろうか。思わず頭を押さえる。

 しかし、物語の作者ならば何か紙媒体があって良いようなものだが。と見渡していると。あった。本棚だ。同じ深緑色で柄のない装丁がなされた本が、漆塗りの本棚にびっしりと詰まっている。

 ふーむ。

「こういう時は大抵別の本が隠されたりするもんなんだよなぁ」と見渡していると、一冊だけ幅が小さな本があることに気づく。僅か1~2ミリほど薄い。場所は本だなの右下辺り。

 開くと、そこに書かれていたのは、物語ではなかった。
 日記だった。


『私は、愚かだったのだ』


 内容はは、そんな不穏な一文から始まった。
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