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<四章:人間の国を調査せよ>

閑話<祭りだよ>

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 物事は解釈によって色んな見方をすることができるようで、例えば電車で泣く赤ちゃんに切れるじじい。一見最低に思えるけれど、人生を積み重ねることで脳細胞が壊死していき、赤ちゃんの泣き声を寛大な心で見ることが出来なくなっているのかと考えると、嫌悪ではなく憐憫の情を浮かべたくなる。

 そして本題の祭り。夜の街に提灯の明かりがランランと揺れ動き、出店が色んな食べ物や商品を出して活気があふれている。その活気に煽られて、一玉数十円ほどの中華そばと野菜とソースを絡めた焼きそばを300円で購入してしまった。これをどう解釈するのかというと。

 祭りとは、クソである。

「いきなり何言っちゃってんのよ、さっきまで焼きそば焼いてるところ見てめっちゃ目輝かせてたくせに。ちゃんと全部食べなさいよね」

 神官の女子はジト目でこちらを睨む。物好きな男ならばこれに対してでさえ欲情や劣情やらの感情の高ぶりを覚えるのだろうが、こいつがしているとただなめられているとした思えなかった。解釈の歪めようがない。しかもどこで着替えたのか、ピンクの花がプリントされた浴衣に身を包んでいる。髪をカールして眼鏡を追加でかけている辺り偽装家族の目的は忘れていないようだが。しかし見た目は良いのか、別の意味で周囲の目を引いていた。悪目立ちも良目立ちもするって、人間の国に潜入する人選ミスったかな。

 祭りに行く唯一の目的である焼きそばをすすっていると、俺の視線に返答する。

「絶対失礼なこと考えてたでしょ?」

「失礼ってのは、礼を失うもんだよな。失う礼が無ければ失礼じゃない。よって俺は失礼じゃない」

「一番失礼な奴じゃん! っていうかおめかししたんだから、一言感想お願いしますー」

 むすーっと口を細くして、懇願の言葉を口にした。ほほう、感想が来るのが当然だろ! っという意見が来ると思っていたが、なかなか分を弁えているじゃないか。結構結構。そんな身の程を少しは理解してくれている神官の女子へ、少しは飴をくれてやることにした。

 焼きそばを平らげてから飴を4本購入し、その一本を神官の女子に手渡す。

「んー、飴、1つです」

「微妙!」

「ほれ、子供はいっぱい糖分食べな」

 さっきから祭りの店のありとあらゆるところに目移りしている魔王とカナタに、俺は2本のりんご飴を差し出す。だがその声は聞こえていないようで、お面売り場とかくじ引きに置いてある、勇者グッズは魔王グッズに目を奪われているようだった。そこには、というか全ての店の看板には必ず変なマークのシールが貼られてある。キラッと光り、文字はこの世界の物なので言い表せないが現代語訳すると「AS」と書かれている。あれかな、お祭りに出店を出す許可を自治体から頂いているマークだろうか。

 と、何か変なところに興味が行ってしまっていた隙に、魔王がくじ屋の景品を指さしてカナタを呼んだ。数多ある景品の中で指をさしたのは、見たことのある剣を持った男のフィギュアだった。

「おい見ろ! あれは第36章12話で勇者が四天王の最初の一人と戦うシーンのフィギュアじゃよ! 再現度たっか!」

「本当ですね! ズボンの股間部分にある黄色い染みもちゃんと再現されてます! しかも匂いもアンモニア臭いです! 再現度たっか!」

 そういえばアイテムボックスを切り取る時に、変な匂いがあったという記憶が蘇る。あれ原作再現だったのかよ、リスペクト通り越して逆に失礼だろ。いやマジで。

「んあ? りんご飴か、ちょっと持っといてくれ、今くじ引くために集中したいんじゃ」

 りんご飴がアンモニア臭い勇者のフィギュアに負けた瞬間だった。これを聞いたりんご飴の店主はどう思うだろうか。
 魔王は両手首をひねってがっしりと手と手を掴む。それをねじって、まるで祈るように目を閉じた。じゃんけん必勝法みたいなことしてやがんな。

 箱からびょんびょんと生えている白い紐を一本掴み、どこかに繋がっているであろう景品を引っ張る。

 すると。

「あー、ダメじゃ。神官の痴女ストリーマー引いてしもうた」

「ちょっと! 良いじゃないの神官でストリーマー! ギャップがあって格好いいじゃないの!」

「でも、勇者の超冒険ではあんまり良いキャラしてないですもんね。脱げば人気取れると思ってそうで……」

 両方から言われたい放題だった。本人を見やると、涙を流しながら、甘じょっぱいりんご飴を頬張っていた。流石に見ていて悲しくなったので、俺のりんご飴を渡して肩に手を置く。
 結構俺も、甘い奴だ。
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