上 下
26 / 87
<三章:大切なモノを奪還せよ>

新しい朝を迎える前に

しおりを挟む
 歓迎するといったものの、感触はイマイチだった。というのも。

「認めてやるよ、はいはいつよいつよい」

 こんな言葉で靡かれるほど人間はちょろくないからだ。賢いこの少年もさにあらず、である。

「別に、お前らに認められたいわけじゃないし、それに魔族の仲間になるなんて」

「今ならこの城にある魔法に関する本を全て読んでいい。と言ったら?」

「え」と、口をあんぐりして食いついた。ちょろかった。だがまだ押しが足りない。もう少しか。

「いやいや、それでも魔法なんて人間の世界でも学べるし」

「さらに魔王城では、モモの料理が週一で食べられる」

 よだれが垂れる。先ほどモモが焼いたステーキを味わっていたからだろうか、その記憶がよみがえる。肉だけではない、モモのソースは牛魔肉のうまみを最大限に引き立てるために作られている。少し舐めたからそれはよくわかる。そんなのを肉と一緒に食っちまったら。

「くっ……それなら……」

 俺の差し伸べる手を掴もうとした、その時。

「ちょっとまったー!!」


「よろしくお願いします。」


「いやちょっと待ったって言ってるでしょうが! よろしくお願いしないでよね!」

 神官の女子はテーブルクロス一丁という、なんとも寒々しい格好で俺達の前に飛び出した。それを見て、神官の少年は顔を赤らめて背ける。

「んだよ、また青少年の性癖を歪めようとして」

「元はと言えばあんたが竜に指示して燃やしたんでしょうが! ってそんなことより」

 女性が布一枚でいることを「そんなこと」と断じてしまうほど行くところまで行った神官の女子は、かーっと赤らめた顔を両手で覆っている少年を指さして、さらに自身に指さした。

「被ってる! パーティーの役割被ってるって! どっちも神官! 私の枠取られちゃうって!」

「いやほら、お前はお色気枠だから」

「神官よ! 一応神崇めてるから!」

 一応。その言葉に違和感があったが今は突っ込まないことにして。
 
「おいクスノ、ここって図書館とかねぇか? あったらこいつを案内してやってくれ。それが終わったら、ジメット湿原の手前に待機させてる竜や骸骨を拾ってやってくれ」

「承知しました」

 クスノは恭しくペコリと禿げた頭頂部をこちらに晒し、神官の少年を丁寧に案内する。その少年に、一つだけ忠告というか、上司としての指示を出した。それはこの場にいる全員に対しての目的を一致させるための所信表明も兼ねていた。

「ちょ! 無視しないでよ!」

「今から俺達は、世界に関わる何かに挑むことになる。俺はこの世界の『それ』を許したくない。まだ現状曖昧なことが多いが、確かなことを言うならば――」

 無意識を弄ってる何かが、この世界にはある。

「それをぶっ壊すことが最終目標だ。だからお前には、魔法を調べるというアプローチでその原因を探ってほしい。恐らくお前が囚われていた承認欲求というのも、それに近いものかもしれない。それを手がかりに調べてほしい」

 俺の真意を受けて、顎に手を当てて少し考えてから「なるほどそれで……分かりました」と神官の少年は承諾した。

「ま、その隙間時間にでも、色んな本物色してくれればいいさ。この城広いし色々あるだろうぜ」

「だから! 私ちゃんと神崇めてるんだけど!」

「うるせぇな焦るなよ、お前と魔王にはこれから俺と重要任務に来てもらうんだからな」

 むすっとした顔から一遍、ぱー! っと明るく顔が輝く。何かを勘違いしているようだが、別にいいや溜飲下げてくれたし。人間の国のガイドとしてこれから十分活躍してもらおう。

「それと魔王、お前そろそろ体力回復して復活してもいい頃だろ? なんでいつまでもちっこいまんまなんだ?」

 肉をむっしゃむしゃと貪る(多分クスノの分も食ってやがる)魔王は「んあ?」と呑気な顔で振り返る。もぐもぐと食べ終えると、斜めに首を傾けた。

「そりゃそうじゃろ、飯食ったくらいで体力を完全に回復なんてできんよ」

 と、さも当然のように語る。おいおい、こういう時はモリモリに食えば元気100倍になるはずだろう。そう言ってやったのだが、恐ろしく当然のことを言ってくれた。それに気づかなかったのは、その内容が不足していることも起因しているのだが、今の今までそれを聞くまで一切思い出しもできなかった。


「お前が来て以来、わしら一睡もしてないじゃろ」


* * *

「結構やりくり上手じゃのぉお前」

 と、気持ちよく睡眠をとっているところに無粋な声がかかる。睡眠こそ人間の脳のメインステージだというのに、それに介入してこようとは。精神世界であろうとも許されることではないな。気を失うとここに来るシステムなのか?
 仰向け状態で目を開くと、いつぞやの黒髪ロング角付き女がいた。ふぁさっと視界を髪が遮り、世界に俺とこいつの顔しか感知できない。

「魔力ってのがそもそもよく分かっていないんだ、無暗に使えるわけねぇだろ」

「無暗に、のぉ、それにしては、あの女の元に行くときは即断即決だったように見えたが」

「あー、あれな。見捨てても良かったんだが、そうすると指揮が下がるだろう。クスノが敵に回ると厄介だったからな」

「ほほほ、鈍感系主人公というより、ただのツンデレじゃったか」

 快活に笑う黒髪ロング。しかしその言葉に、何かの違和感というか、ひっかかりを覚えた。そういえば、おかしいよな。知らない言葉ではなく、知っているからこそ、引っかかった。

「なぁ前にも言ってたよな、その鈍感系主人公って、どこで聞いたんだ? それにツンデレって」

「ああ、まさか知らんのか」と呆れ気味に顔を上げる。白い空が広がりそれ以外は何もみえない。少し遠くなった声が響く。遠くを見ているようだった。

「この世界にはそういう物語があっての。娯楽のない世界じゃったのに、今ではそれなしではいられん世界になってしもうた」

「物語? 伝承とかではなく?」

「伝承も物語も同じようなもんじゃろ、それに伝承とかと違って、その物語は読んでて飽きんかったからの。その物語に登場する主人公がヒロインの気持ちに鈍感なのが多くてな。まぁそのヒロインも主人公が好きな癖にぷんすかするもんじゃから、ツンツンしたりするのにデレっとしたりすると言われての。じゃから鈍感系主人公とか、ツンデレという言葉が『流行った』んじゃ」

 物語、流行った。何か分からない、根拠はない、しかしこんな現実離れした世界に、あたかも俺の世界でしかなさそうな言葉が出されると、勘ぐりたくもなる。

「その物語の作者って、誰なんだ?」

「さぁなぁ、作者とかよう分からん。じゃが物語に出てくる描写的に、作者がいたであろう場所は研究されておってな、既に特定もされておる。聖地巡礼もしたことがあるからの」

 その名は『トースター』。
 物語では、始まりの町と呼ばれておる。




<第四章:人間の国を調査せよ>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ

夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー   八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。     田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。     でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?     どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。     だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。     そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...