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<三章:大切なモノを奪還せよ>
おもてなしの精神を
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あれなら当分は立ち上がらないだろうということで、気を取り直して正面の三人に向かう。
一人は銀色に煌めく鎧を纏った戦士、一人は美しき漆黒のマントをはためかせる魔法使い、その後ろで白杖を地面に突き刺す神官。彼らもまた気を取り直していた。それもそうだろう、目の前に倒し損ねた魔王が、飛んで火にいる夏の虫が如くやってきたのだから。
今度こそ、息の根を止めるために動くだろう。
「ふ、2人とも、頼む!」
後ろの神官の男子が、慣れない口調でそう言い白杖を振る。すると、杖先からなにやら薄い靄のようなものが出ており、それが二人の体に纏わりついていた。瞬間、目から光が消える。二人の目にはただ一人の者しか見えていない。視野が狭まり、恨みの対象しか。
しかし、俺は一応魔王代理だ。真っ先に出張るというのも何だか部下に示しがつかない。上司が有給を取らなければ部下が有給を取りづらくなるように、上司が無駄に出張れば、自ら特攻しなければならないという風潮を作ってしまう。それはよくないよな。うん。それに相手も二人召喚したのだ。手を前に出し、駒に指示する。
「こっちも二人召喚しないとな、出番だぜ! 魔王! クスノ!」
「いや、その理屈じゃとわしが出張るのが一番おかしいじゃろ。それにまだ戦闘できるほど回復しておらんでの」
「私も本体を離れての激しい運動は控えるようにと健康診断で申し付けられております故、お力にはなれそうにございません」
魔王はまぁ良いだろう、しかしクスノについては完全に上司から嫌われるような性格の答えだった。……いや、そうでなくとも確かジメット湿原近くじゃないと強くないとか言っていたな。その情報を敵に開示されたくないから言った出まかせなのかもしれない。こいつのコミュニケーションは無駄に行間を読まないといけないから面倒だ。
仕方がないので、二人は最低限邪魔にならないところで隠れてもらうことにし、俺が前に出ることになった。王が前線の将棋って何なんでしょうね。
しかし、魔法使いと戦士君は俺など眼中にないかのように回り込み、後ろにへたり込む神官の女子へと敵意を向ける。狙いはこいつってか? トッププリーストッカーはモテモテで大変結構だ。
が。
戦士君が神官の女子に振るった剣が、止まる。「きゃあっ」っと顔を背けて叫ぶ神官の女子だったが、彼女にその切っ先が食い込まれることはなかった。その情景を見て、神官の男子が震える。
「片手で、いや指で剣を摘まんだのか!?」
「ただの真剣白刃取り片手バージョンだ」
正気を失っているのか、何事も言葉を発さず、ただ恨みがましく歯噛みして剣を引っ張る戦士君。しかし、その剣は微動だにしない。鍛えてるもんでね。
しかしその背後、神官の女子を挟んでの背後に、魔法使いが杖を構えていた。彼女も同じく表情はにがにがしくしており、親の仇を見るような目で神官の女子を見据えている。
そしてその杖先からは、大きな丸い炎の塊が放たれようとしていた。
「やば! 伏せろ!」
神官の女子は「ひぃ~~!!」と頭を押さえて下げる。俺は即座に戦士君を蹴りで飛ばし、フリーの手も剣をチョコンと持ち両手持ち状態でぐるりと回転、その放たれた炎をメジャーリーガーの如く剣の刀身に受けて吹っ飛ばした。天井のステンドグラスがぐしゃりと溶ける。
「ちっ」
と舌打ちすると、魔法使いは一歩下がって杖を構える。流石は勇者パーティーの一人だ。戦闘経験の勘が一歩を引かせたのだろう。しかし。
「いや、まだ射程圏内だぜ!」
ホームランボールをバッティングしたならばバットは捨ててベースを踏むところだが、俺は二の足を踏み、さらに一回転。その勢いのまま剣を振り回し、魔法使いに向かって、さながらハンマー投げのように剣を投げた。ステップを踏んだばかりの魔法使いはその剣を見て驚くがもう遅い。剣の柄が魔法使いの腹に命中し、仰向けに倒れた。
「安心しろ、みねうちだ」
まぁあの剣は両刃なので、みねなんて当然ないのだが。血でまみれるのは目に毒だ。
軽傷だった戦士君は体を起こすと、今度は背負っていた盾を持って突進してきた。剣を取られた時のことを想定しての戦闘スタイルには感服するが、その程度では俺に押し相撲ではかなわない。
「ふん!」
踏ん張った。受け流すこともできたのだが、受け流さず正面から受け止める。そして、鎧も込みの体重を持ち上げて、持ち上げて、持ち上げて、腕を伸ばした。なんて重労働な高い高いだろう。
「ぐぬぬぬぬ……」
戦士君は体を揺らすが、それを落とさずにバランスを保ち。
「おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
鉄の塊のような男を、うずくまる魔法使いに向かって投げ飛ばした。
「え、あれ? ってぎゃぁぁぁぁ!!」
眼の前に飛んできていた重い巨体を視界に捉え、両手両足をワシャワシャとさせ急いでその場を離れようとするが、間に合わずぶつかる。二人とも目をクルクルと回して気絶してしまった。取り敢えずこいつらもこれで解決だな。
「ふぅ、疲れた」
「あんた……マジか!?」
「ん?」
目をギョロリと丸くした神官の女子は、アワアワとこちらを見ていた。こいつは何を驚いてるんだ?
「あんた、どんな事したか分からないの!? あの二人結構凄いんだからね!?」
抽象的すぎる。何がどう凄いのか全然伝わってこない。「何が?」と聞くと、細かに説明してくれた。
「サナって一応魔法使いとしては五本の指に入る程の実力者だし、ナイツは……ええと、何でもすぐに買ってきてくれるのよ!?」
「お前マジで一回あの戦士君に謝ってこい! その頭地面にこすりつけて!」
失礼すぎる、人権をまるで無視したような事を言う神官の女子ではあったのだが。まぁ、彼女の言葉では表現できない何かを捉えるならば、色々とすごいのだろう。それは◯◯学校首席とか、✕✕大会優勝とか、△△栄誉賞とではなく。
かつて旅してきた友として、幾度となく窮地を乗り越え、苦楽を共にしてきた二人だからこそ、そういう評価ができるのだろう。
まぁ、パシったり、存在無視して三角関係こじらせたり、戦闘中に攻撃を誤射したりといったことがなければそのままエモい雰囲気になるんだろうけれど。
「さてと、後はお前だけだな神官野郎。いや洗脳術者」
睨む。それもそうだろう、ネタが分かれば余裕もなくなる。彼はどういった方法かは知らないが、あの戦士君と魔法使いを操った。だから正常な感じじゃなかったのだ。でなければ迷いなく神官の女子に攻撃は……いやしようとしてたな、初対面の時。竜が空から来なければ普通に攻撃していたような。あれ、んじゃあ、どうなんだ?
小首を傾げていると。「ふ、バレちゃあしょうがない」と、神官の男子は言ってくれた。良かった、ちゃんと洗脳できるやつだった。でないとこいつを残した意味がない。
彼はそのまま独白を続ける。不敵な笑みを浮かべて。
「だがそんな余裕も今のうちだよ、君のお陰で良いコマが出来たんだから」
「良い、コマ?」
本当に意味が分からず首を横に傾げていなかったならば、そのまま一瞬で決着がついていたのかもしれない。俺が真っ二つになるという形で。
傾げた首が視界を動かし、横の男を捉える。
そいつはパンツ一丁なのにも関わらず、そんなことはいざしらず、手に持つ豪勢な剣を構えていた。物語の世界では、殺気とか気配とか、妖気とか魔力とかを感じたりするのだろうけれど、生憎俺はそういうのは無理だった。
ただ、勇者が俺に向かって剣を振り払おうとしていることは、何となく理解した。
飛び出す!
「やばい! また伏せろ!」
と言いつつ、神官の女子に覆いかぶさる。
その光から、命を引き裂く光から、命を守るために。
一閃――――――――――――――――――――。
一人は銀色に煌めく鎧を纏った戦士、一人は美しき漆黒のマントをはためかせる魔法使い、その後ろで白杖を地面に突き刺す神官。彼らもまた気を取り直していた。それもそうだろう、目の前に倒し損ねた魔王が、飛んで火にいる夏の虫が如くやってきたのだから。
今度こそ、息の根を止めるために動くだろう。
「ふ、2人とも、頼む!」
後ろの神官の男子が、慣れない口調でそう言い白杖を振る。すると、杖先からなにやら薄い靄のようなものが出ており、それが二人の体に纏わりついていた。瞬間、目から光が消える。二人の目にはただ一人の者しか見えていない。視野が狭まり、恨みの対象しか。
しかし、俺は一応魔王代理だ。真っ先に出張るというのも何だか部下に示しがつかない。上司が有給を取らなければ部下が有給を取りづらくなるように、上司が無駄に出張れば、自ら特攻しなければならないという風潮を作ってしまう。それはよくないよな。うん。それに相手も二人召喚したのだ。手を前に出し、駒に指示する。
「こっちも二人召喚しないとな、出番だぜ! 魔王! クスノ!」
「いや、その理屈じゃとわしが出張るのが一番おかしいじゃろ。それにまだ戦闘できるほど回復しておらんでの」
「私も本体を離れての激しい運動は控えるようにと健康診断で申し付けられております故、お力にはなれそうにございません」
魔王はまぁ良いだろう、しかしクスノについては完全に上司から嫌われるような性格の答えだった。……いや、そうでなくとも確かジメット湿原近くじゃないと強くないとか言っていたな。その情報を敵に開示されたくないから言った出まかせなのかもしれない。こいつのコミュニケーションは無駄に行間を読まないといけないから面倒だ。
仕方がないので、二人は最低限邪魔にならないところで隠れてもらうことにし、俺が前に出ることになった。王が前線の将棋って何なんでしょうね。
しかし、魔法使いと戦士君は俺など眼中にないかのように回り込み、後ろにへたり込む神官の女子へと敵意を向ける。狙いはこいつってか? トッププリーストッカーはモテモテで大変結構だ。
が。
戦士君が神官の女子に振るった剣が、止まる。「きゃあっ」っと顔を背けて叫ぶ神官の女子だったが、彼女にその切っ先が食い込まれることはなかった。その情景を見て、神官の男子が震える。
「片手で、いや指で剣を摘まんだのか!?」
「ただの真剣白刃取り片手バージョンだ」
正気を失っているのか、何事も言葉を発さず、ただ恨みがましく歯噛みして剣を引っ張る戦士君。しかし、その剣は微動だにしない。鍛えてるもんでね。
しかしその背後、神官の女子を挟んでの背後に、魔法使いが杖を構えていた。彼女も同じく表情はにがにがしくしており、親の仇を見るような目で神官の女子を見据えている。
そしてその杖先からは、大きな丸い炎の塊が放たれようとしていた。
「やば! 伏せろ!」
神官の女子は「ひぃ~~!!」と頭を押さえて下げる。俺は即座に戦士君を蹴りで飛ばし、フリーの手も剣をチョコンと持ち両手持ち状態でぐるりと回転、その放たれた炎をメジャーリーガーの如く剣の刀身に受けて吹っ飛ばした。天井のステンドグラスがぐしゃりと溶ける。
「ちっ」
と舌打ちすると、魔法使いは一歩下がって杖を構える。流石は勇者パーティーの一人だ。戦闘経験の勘が一歩を引かせたのだろう。しかし。
「いや、まだ射程圏内だぜ!」
ホームランボールをバッティングしたならばバットは捨ててベースを踏むところだが、俺は二の足を踏み、さらに一回転。その勢いのまま剣を振り回し、魔法使いに向かって、さながらハンマー投げのように剣を投げた。ステップを踏んだばかりの魔法使いはその剣を見て驚くがもう遅い。剣の柄が魔法使いの腹に命中し、仰向けに倒れた。
「安心しろ、みねうちだ」
まぁあの剣は両刃なので、みねなんて当然ないのだが。血でまみれるのは目に毒だ。
軽傷だった戦士君は体を起こすと、今度は背負っていた盾を持って突進してきた。剣を取られた時のことを想定しての戦闘スタイルには感服するが、その程度では俺に押し相撲ではかなわない。
「ふん!」
踏ん張った。受け流すこともできたのだが、受け流さず正面から受け止める。そして、鎧も込みの体重を持ち上げて、持ち上げて、持ち上げて、腕を伸ばした。なんて重労働な高い高いだろう。
「ぐぬぬぬぬ……」
戦士君は体を揺らすが、それを落とさずにバランスを保ち。
「おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
鉄の塊のような男を、うずくまる魔法使いに向かって投げ飛ばした。
「え、あれ? ってぎゃぁぁぁぁ!!」
眼の前に飛んできていた重い巨体を視界に捉え、両手両足をワシャワシャとさせ急いでその場を離れようとするが、間に合わずぶつかる。二人とも目をクルクルと回して気絶してしまった。取り敢えずこいつらもこれで解決だな。
「ふぅ、疲れた」
「あんた……マジか!?」
「ん?」
目をギョロリと丸くした神官の女子は、アワアワとこちらを見ていた。こいつは何を驚いてるんだ?
「あんた、どんな事したか分からないの!? あの二人結構凄いんだからね!?」
抽象的すぎる。何がどう凄いのか全然伝わってこない。「何が?」と聞くと、細かに説明してくれた。
「サナって一応魔法使いとしては五本の指に入る程の実力者だし、ナイツは……ええと、何でもすぐに買ってきてくれるのよ!?」
「お前マジで一回あの戦士君に謝ってこい! その頭地面にこすりつけて!」
失礼すぎる、人権をまるで無視したような事を言う神官の女子ではあったのだが。まぁ、彼女の言葉では表現できない何かを捉えるならば、色々とすごいのだろう。それは◯◯学校首席とか、✕✕大会優勝とか、△△栄誉賞とではなく。
かつて旅してきた友として、幾度となく窮地を乗り越え、苦楽を共にしてきた二人だからこそ、そういう評価ができるのだろう。
まぁ、パシったり、存在無視して三角関係こじらせたり、戦闘中に攻撃を誤射したりといったことがなければそのままエモい雰囲気になるんだろうけれど。
「さてと、後はお前だけだな神官野郎。いや洗脳術者」
睨む。それもそうだろう、ネタが分かれば余裕もなくなる。彼はどういった方法かは知らないが、あの戦士君と魔法使いを操った。だから正常な感じじゃなかったのだ。でなければ迷いなく神官の女子に攻撃は……いやしようとしてたな、初対面の時。竜が空から来なければ普通に攻撃していたような。あれ、んじゃあ、どうなんだ?
小首を傾げていると。「ふ、バレちゃあしょうがない」と、神官の男子は言ってくれた。良かった、ちゃんと洗脳できるやつだった。でないとこいつを残した意味がない。
彼はそのまま独白を続ける。不敵な笑みを浮かべて。
「だがそんな余裕も今のうちだよ、君のお陰で良いコマが出来たんだから」
「良い、コマ?」
本当に意味が分からず首を横に傾げていなかったならば、そのまま一瞬で決着がついていたのかもしれない。俺が真っ二つになるという形で。
傾げた首が視界を動かし、横の男を捉える。
そいつはパンツ一丁なのにも関わらず、そんなことはいざしらず、手に持つ豪勢な剣を構えていた。物語の世界では、殺気とか気配とか、妖気とか魔力とかを感じたりするのだろうけれど、生憎俺はそういうのは無理だった。
ただ、勇者が俺に向かって剣を振り払おうとしていることは、何となく理解した。
飛び出す!
「やばい! また伏せろ!」
と言いつつ、神官の女子に覆いかぶさる。
その光から、命を引き裂く光から、命を守るために。
一閃――――――――――――――――――――。
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