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<一章:勇者を撃退せよ>

打倒勇者作戦会議

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「つっても勇者以前に、あんなでっかい剣持ってる奴に突っ込むのはなかなかリスキーだよな。何か作戦を練りたいところだ」

 うーむ、と腕組みして呟いた言葉尻を引っ掴み、魔王はケラケラと笑ってみせた。

「ケラケラ! 何を言っておる! あの状況で普通に突っ込んで勇者を撃退し、一晩の猶予を勝ち取り、あまつさえ捕虜をもふんだくることに成功したではないか! 流石はわしの心血を注いで召喚しただけはあるわい!」

「そうね、私達の連携をあーも簡単にかわして私を殴ったんだから、あれ結構痛かったんだからね? しかもお腹に二度もって……」

 やけに俺の評価が高かった。一部評価と称して恨みがましいことを言われたが。いや恨まれても仕方がない、人質なんてほめられた行いじゃないことは自明の理だ。人間関係のいざこざがあったからそれを利用するためとはいえ、酷い手段だっただろう。反省はしてないけど。
 それにあの時は、リスクをとっても良かった場面だったのだ。死ぬかもしれない状況ってのは、意外と人間何でもできるんでね。生きればめっけものなので。

「まぁ大丈夫だって手加減はしたろ? あれ、もしかして、中にいる?」

「中には誰もいませんよ! ちゃんとポーション服用してるもん! ……この戦いが終わったらポーションなしでしようと思ってたんだもん」

 グスンと鼻を鳴らす神官の女子。全然清くねぇなこいつ、そこまで聞いてないっての。

「まずは何ができるかを考えるかね。魔王ってんだから兵隊とか動かせるんだろうが、どれくらい残っているんだ?」

「竜から見下ろしたあの惨状を見たじゃろ? ほぼ全滅で、残っておるのはこの城に避難した奴等だけじゃよ」

 地下に潜っている腐った死体とか骸骨とかを期待しての質問だったのだが、魔王は諦観滲ませる声音で言った。

「よし、取りあえず皆整列!」

 どれくらいの数なのか見てみたかったので命じたものの、きょとんとする魔族たち。魔王が「あ、皆整列~」と言って初めて種族ごとに並び始めた。ちょっとショックだな。ひーふーみーよーと数える。

「なるほど、スライム20に骸骨5のゾンビ7、なんかでっかい骸骨兵士2とさっきの大きなドラゴン1と、絞りカス魔王に堕落神官と人間か」

「ちょっと! 誰が堕落神官よ! ちゃんと祈れます~!」とか「誰が絞りカスじゃ! カスでも粕汁とか作れてポカポカになるじゃろが! 貴様からエネルギー絞り返してやろうか!」とか騒いでいるが一旦無視する。そういえば、と騒ぐ魔王に聞いてみる。

「あのドラゴンって結構強そうだったじゃん? あいつ1頭でどうにかならねーの? 勇者撃退した時も、あいつが来てくれたからってのが大きいし」

「ありゃ勇者の体力をそこまで削ったからこそ張れた虚勢みたいなもんじゃよ。お互い元気満タンだったら絶対に勝てんよ。普段引きこもりだし」

 竜が引きこもって何するんだよ。羽生えてるんだから飛んでなんぼのドラゴンだろうに。それを許している魔王も魔王だが。
 ってか、本当にこれだけなのか? 魔王なら四天王とか侍らせてるもんだろ? そう疑問を呈そうとした時。

「あのドラゴン結構序盤の敵だからね、まぁ魔王城近くだったからそこそこの強さはありそうだったけど。今まで倒した四天王にも及ばないわ」

 と神官の女子。そっか、ここまで来てるなら四天王やられちゃったんだ。復活できたらいいのに。いや、できるのでは? 四天王とまではいかないが。人間尺度で兵隊を考えていたけれど、こんな多種多様な種族ならば。

「ゾンビとか骸骨って増やせないのか? 地面からボコボコと」

「できなくはないんじゃが、それでもかなりの時間を要するじゃろう、その間に勇者にボコされるのが落ちじゃ」

 なら援軍はこれ以上望めないか。だがそれ以上に、そういえばの疑問がある。なんとなくゲームっぽいこの世界観のせいで見落としていたが、こうして現実として立ち会っているならば。

「その勇者なんだけどさ、俺達の魔族軍が復活まで時間がかかるように、あいつらも回復するとは言っても、全回復するわけじゃないだろ? そう考えたらいけるんじゃないか?」

 回復の量は同じだ。1日やそこらで軍は回復しなくても、相手もまたその範疇だろう。であるならば、ここで立てる作戦が明日の勝敗を左右すると言っても過言ではない。

「いや? 回復するけど」

 神官の女子は当然のようにそうつぶやいた。むかつくからはだけたその無駄にでかい胸をもっと縛り上げてやろうという意思を込めて睨む。すると頬を赤らめて「ちょ、そんなに見ないでよ! ……もう」とそっぽを向いた。拳を上げる。

「いやそういうのいいから詳しく、腹に3発目を食らわれたくなければ」

「わ、わかったから! 勇者とそのパーティーって宿で一泊夜を明かすと、疲弊した体力とか精神力が全部回復するの。宿ってそういう加護のある石があって、その影響なのよ」

 「だから今頃あの魔法使いとイチャコラと……ぐぬぬぬ」と顔を歪めて呟く。こいつは余計なことを言わないと口が開けないのか? お陰で無駄なことに頭が働いてしまった。

「でもあの戦士もいるだろ? そういう空気になんてならないだろ気まずいし」

「いや? 私の時は特に気にしてなかったから。あいつ空気みたいなところあるから。良いやつではあるんだけどね」

 良いやつ止まりなんだよなぁ。こいつらよくここまで辿り着いたな、宿で寝首をかかれてもおかしくなかっただろうに。それかうすうす感づいているものの、現実を直視したくなくて見て見ぬふりをしているとか。戦士君の心労が心配でならない。

「ならもう、あれだな。逃げるしかないな」

「そりゃ駄目じゃよ、せっかくここまで来てくれたんじゃから」

 ……ん? なんか引っかかる言い方だな。眉を潜めて尋ねた。

「来てくれたって何だよ、来やがった、じゃないのか? まるで兵隊薙ぎ倒してここまで来るのが分かったような言い草じゃねーか」

「あれ、確かにそうじゃな?」と首を傾げる。聞いてるのはこっちだ。が、魔王が無意識に勇者を来るように差し向けたというのか?

 いや、今は後回しだ。多分恐ろしく重要なことな気がするのだが、喫緊の課題である、勇者打倒に向けて頭を働かせなければ。しかし宿で今頃精気を養って、じゃなかった英気を養っている奴等を思うと、どうにも後頭部に両手を当てて天井を仰がずにはいられなかった。この城の天井、ステンドグラスなんだな。

「あーあ、いいよなぁ宿。俺も布団で眠りてぇよ」

 となんとなく呟いたのだが、ある事が気になった。またまたそういえば、である。

「宿からここまでどれくらいかかるんだ? 確かあいつら徒歩で帰ってたよな? まさか宿って近くにあったりすんのかな? なーんて、こんな荒廃したところに宿があって寝泊まりしてるんだったら寝込み襲ってるっつーの! あははは!」

 高らかに、エントランス中に響き渡るスッカラカンな笑いが静かに止んだあと。神官の女子が苦笑いで呟いた。

「あるけど? 近くに小さいところだけど」


「全軍出撃じゃあーーーーー!!!!」

 
 城中に叫び声がこだました。
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