321 / 1,273
第5章
321話 それぞれの役割
しおりを挟む
エルカ迷宮の中ボス部屋で、骸骨を発見した。
おそらくは俺たちの前に強制転移のトラップに掛かった犠牲者だろう。
俺たちも気を抜けばああなってしまう可能性がある。
気を引き締め直して探索を進め、その日の夜になった。
迷宮に籠もっている今、昼夜の判断はつかないのだが、おおよその体内時計である程度は分かる。
「さて……。今日の探索も、誰一人欠けることなく終えることができたな」
「はい。みなさんご無事で何よりですわ」
「本当によかったのです」
ローズとミナがそう同意する。
「今後もみんな元気なままで帰還したいね」
「へへっ。そのためにも、あたいがうまい料理をつくってやるよ!」
ユヅキの言葉を受け、リンが張り切る。
俺たち『悠久の風』の料理当番は、もちろんリンが務めている。
彼女のファーストジョブは『料理名人』。
ちゃんとした厨房で調理した彼女の料理は絶品だが、今回のように迷宮の攻略中という限られた環境でも、その腕を振るってくれる。
「……えっと。あたしも手伝いますね」
「もちろん俺もだぜ! リンの姉御にばかり負担は掛けさせられねえからな!」
エメラダとグレイスが手伝いを申し出てくれた。
迷宮の深部に強制転移させられてから早くも二週間ほどが経過しているが、みんなまだまだ元気だ。
体力的にも精神的にも余裕がある。
これは、『悠久の風』のみんながそれぞれ高レベルのジョブを持っているからだ。
夜は『結界魔法使い』のティータのおかげでぐっすり眠れるし、食事は『料理名人』のリンのおかげでおいしいものが用意されている。
『英雄』の俺、『氷魔導師』のシルヴィ、『聖獣剣士』のユヅキあたりを筆頭に戦力は万全であり、魔物相手に苦戦することはほぼない。
多少のケガくらいは負うことがあるが、『治療魔法使い』のローズや『調合士』のエメラダの活躍によりすぐに回復できる。
武器のメンテナンスは『聖鍛冶師』のミナに任せればバッチリだ。
『盗賊』のジョブを持つグレイスのおかげで、トラップへの対処もそれなりにできている。
みんなそれぞれ自分にできることをしっかりとやっているのだ。
このまま探索を続けていれば、何も問題はない。
……と言いたいところだが。
「へへっ。コウタっち、料理のための水を出してくれよ」
「……ここで残念な知らせだ。実は、水のストックに余裕がなくなってきている」
俺はリンにそう答えた。
ストレージには各種の必要物資を大量に入れていた。
飲料水もその一つなのだが、すでに底が見え始めている。
「……それってマズイんじゃ? 飲水がなくなれば、あっという間に動けなくなっちゃうよ……?」
ティータが心配の声を上げる。
人体の活動において、休息や食事は大切だ。
しかし、飲料水はそれ以上に重要だと言えるかもしれない。
「うむ。飲むための水としては、まだ一週間分以上はある。だが、調理のために気軽に使うことは難しくなる。それに、あと一週間で地上に戻れるかも不透明だ」
俺はそう説明した。
「なるほど……。ひょっとして、その状況を打破するための策が、今日の探索中にご主人様が仰っていた『とあるジョブ』の習得ということでしょうか?」
「その通りだよ」
俺はシルヴィの問いに首肯してみせた。
さて、無事に取得できるかどうか……。
ここが頑張りどころだ。
おそらくは俺たちの前に強制転移のトラップに掛かった犠牲者だろう。
俺たちも気を抜けばああなってしまう可能性がある。
気を引き締め直して探索を進め、その日の夜になった。
迷宮に籠もっている今、昼夜の判断はつかないのだが、おおよその体内時計である程度は分かる。
「さて……。今日の探索も、誰一人欠けることなく終えることができたな」
「はい。みなさんご無事で何よりですわ」
「本当によかったのです」
ローズとミナがそう同意する。
「今後もみんな元気なままで帰還したいね」
「へへっ。そのためにも、あたいがうまい料理をつくってやるよ!」
ユヅキの言葉を受け、リンが張り切る。
俺たち『悠久の風』の料理当番は、もちろんリンが務めている。
彼女のファーストジョブは『料理名人』。
ちゃんとした厨房で調理した彼女の料理は絶品だが、今回のように迷宮の攻略中という限られた環境でも、その腕を振るってくれる。
「……えっと。あたしも手伝いますね」
「もちろん俺もだぜ! リンの姉御にばかり負担は掛けさせられねえからな!」
エメラダとグレイスが手伝いを申し出てくれた。
迷宮の深部に強制転移させられてから早くも二週間ほどが経過しているが、みんなまだまだ元気だ。
体力的にも精神的にも余裕がある。
これは、『悠久の風』のみんながそれぞれ高レベルのジョブを持っているからだ。
夜は『結界魔法使い』のティータのおかげでぐっすり眠れるし、食事は『料理名人』のリンのおかげでおいしいものが用意されている。
『英雄』の俺、『氷魔導師』のシルヴィ、『聖獣剣士』のユヅキあたりを筆頭に戦力は万全であり、魔物相手に苦戦することはほぼない。
多少のケガくらいは負うことがあるが、『治療魔法使い』のローズや『調合士』のエメラダの活躍によりすぐに回復できる。
武器のメンテナンスは『聖鍛冶師』のミナに任せればバッチリだ。
『盗賊』のジョブを持つグレイスのおかげで、トラップへの対処もそれなりにできている。
みんなそれぞれ自分にできることをしっかりとやっているのだ。
このまま探索を続けていれば、何も問題はない。
……と言いたいところだが。
「へへっ。コウタっち、料理のための水を出してくれよ」
「……ここで残念な知らせだ。実は、水のストックに余裕がなくなってきている」
俺はリンにそう答えた。
ストレージには各種の必要物資を大量に入れていた。
飲料水もその一つなのだが、すでに底が見え始めている。
「……それってマズイんじゃ? 飲水がなくなれば、あっという間に動けなくなっちゃうよ……?」
ティータが心配の声を上げる。
人体の活動において、休息や食事は大切だ。
しかし、飲料水はそれ以上に重要だと言えるかもしれない。
「うむ。飲むための水としては、まだ一週間分以上はある。だが、調理のために気軽に使うことは難しくなる。それに、あと一週間で地上に戻れるかも不透明だ」
俺はそう説明した。
「なるほど……。ひょっとして、その状況を打破するための策が、今日の探索中にご主人様が仰っていた『とあるジョブ』の習得ということでしょうか?」
「その通りだよ」
俺はシルヴィの問いに首肯してみせた。
さて、無事に取得できるかどうか……。
ここが頑張りどころだ。
17
お気に入りに追加
1,089
あなたにおすすめの小説
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる