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第5章
275話 いいか? 俺はお前を脅しているわけではない
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エメラダが処女であることを確認した。
それ自体は結構なことであるが、それを理由とした値下げ交渉は不可能となった。
こうなれば最後の手段だ。
「最後に1つ、言っておきたいことがある」
俺はそう切り出す。
「はい。なんでしょうか?」
「俺の名を知っているか? コウタという」
「コウタ様ですか。確か、Cランク冒険者の……」
「情報が古いな。今の俺はBランク冒険者だ」
Cランク冒険者だったのは、この町からテツザンへ出発する前の時の話である。
商人にとって情報は命だと思うのだが、この男はその点でやや二流だな。
「Bランクですか!? いや、しかしコウタ様は冒険者登録をしてまだ1年ほどだったはずですが……。まさかそんな……」
確かに、1年足らずでBランクに昇格する者は相当に少数だと聞いたことがある。
男が驚くのもムリはない。
「Bランク程度で驚くな。俺はさらにドラゴンスレイヤーの称号も持っているし、アイゼンシュタイン子爵家の令嬢とも懇意にさせてもらっている。この意味が分かるな?」
「え、ええと……。では、お値段の方を少し勉強させていただき”これほど”で……」
男が値下げをしてくる。
だが、一声足りない。
相場からすると悪くないのだが、俺のポケットマネーではギリギリ届かないのだ。
「ん? 俺の聞き間違いかな? もう一度言ってくれないか?」
バキッ!
俺は手近にあった木製のコップを握力のみで握りつぶす。
「ひぃっ!?」
店長が顔を青ざめさせる。
「おっと。うっかり力を入れ過ぎてしまったか。想定外の値段が聞こえた気がして、ついイライラしてしまった。この素晴らしい奴隷商館の店長殿であれば、俺の望みは分かるだろう?」
「し、しかし……。これ以上はあまりにも……」
「いいか? 俺はお前を脅しているわけではない。俺はただ、自分の欲しいものを買ってやろうとしているだけだ。お前が誠心誠意商売をしてくれれば、お互いに必ず満足できる結果を得られるはずだ」
「……」
「さあ、交渉しようじゃないか。これが最後のチャンスだぞ。適切な値段を言ってみろ」
俺はニヤリと笑みを浮かべる。
自身の闘気と魔力を高め、威圧感を出すのも忘れない。
「わ、分かりました。それなら、”これ”でいかがでしょう?」
店長が震える声でそう答える。
「ふむ。まあいいだろう」
この辺で勘弁してやることにする。
店長はホッとしたような表情を浮かべるが、それと同時に表情が少し暗い。
せっかく仕入れたエメラダを安く買い叩かれては、さすがに悔しかったのかもしれない。
だが、それはこちらも同じことだ。
法外な利息の取り立てにより半ば強引に奴隷とされてしまったであろうエメラダの救出のために、わざわざ金を払ってやったのだ。
問答無用でぶち殺されなかっただけでも、儲けものと思ってもらってもいいくらいだ。
「そう暗い顔をするな。このBランク冒険者のコウタが、この奴隷商館で買い物をしてやったのだ。それだけでも、箔がつくというものではないか」
「は、はい……」
店長がしょんぼりと肩を落とす。
こうして、俺たちの商談は成立したのだった。
それ自体は結構なことであるが、それを理由とした値下げ交渉は不可能となった。
こうなれば最後の手段だ。
「最後に1つ、言っておきたいことがある」
俺はそう切り出す。
「はい。なんでしょうか?」
「俺の名を知っているか? コウタという」
「コウタ様ですか。確か、Cランク冒険者の……」
「情報が古いな。今の俺はBランク冒険者だ」
Cランク冒険者だったのは、この町からテツザンへ出発する前の時の話である。
商人にとって情報は命だと思うのだが、この男はその点でやや二流だな。
「Bランクですか!? いや、しかしコウタ様は冒険者登録をしてまだ1年ほどだったはずですが……。まさかそんな……」
確かに、1年足らずでBランクに昇格する者は相当に少数だと聞いたことがある。
男が驚くのもムリはない。
「Bランク程度で驚くな。俺はさらにドラゴンスレイヤーの称号も持っているし、アイゼンシュタイン子爵家の令嬢とも懇意にさせてもらっている。この意味が分かるな?」
「え、ええと……。では、お値段の方を少し勉強させていただき”これほど”で……」
男が値下げをしてくる。
だが、一声足りない。
相場からすると悪くないのだが、俺のポケットマネーではギリギリ届かないのだ。
「ん? 俺の聞き間違いかな? もう一度言ってくれないか?」
バキッ!
俺は手近にあった木製のコップを握力のみで握りつぶす。
「ひぃっ!?」
店長が顔を青ざめさせる。
「おっと。うっかり力を入れ過ぎてしまったか。想定外の値段が聞こえた気がして、ついイライラしてしまった。この素晴らしい奴隷商館の店長殿であれば、俺の望みは分かるだろう?」
「し、しかし……。これ以上はあまりにも……」
「いいか? 俺はお前を脅しているわけではない。俺はただ、自分の欲しいものを買ってやろうとしているだけだ。お前が誠心誠意商売をしてくれれば、お互いに必ず満足できる結果を得られるはずだ」
「……」
「さあ、交渉しようじゃないか。これが最後のチャンスだぞ。適切な値段を言ってみろ」
俺はニヤリと笑みを浮かべる。
自身の闘気と魔力を高め、威圧感を出すのも忘れない。
「わ、分かりました。それなら、”これ”でいかがでしょう?」
店長が震える声でそう答える。
「ふむ。まあいいだろう」
この辺で勘弁してやることにする。
店長はホッとしたような表情を浮かべるが、それと同時に表情が少し暗い。
せっかく仕入れたエメラダを安く買い叩かれては、さすがに悔しかったのかもしれない。
だが、それはこちらも同じことだ。
法外な利息の取り立てにより半ば強引に奴隷とされてしまったであろうエメラダの救出のために、わざわざ金を払ってやったのだ。
問答無用でぶち殺されなかっただけでも、儲けものと思ってもらってもいいくらいだ。
「そう暗い顔をするな。このBランク冒険者のコウタが、この奴隷商館で買い物をしてやったのだ。それだけでも、箔がつくというものではないか」
「は、はい……」
店長がしょんぼりと肩を落とす。
こうして、俺たちの商談は成立したのだった。
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