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第4章 エルフの里アルフヘイム

207話 カイゼル親分なんて人は知らない!

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 森の中で行き倒れていたグレイを介抱した。
 そして、彼を連れてアルフヘイムに戻ってきた。

「おお……。ここが親分の言っていた……」

 グレイが感嘆の声を上げる。

「この場所さえ分かれば、後は……」

「どうした?」

「いや、何でもない」

 彼は首を横に振る。

「そうか」

 気になる反応ではあるが、今は置いておくことにしよう。
 まずは、彼を里の者に紹介するのが先だ。

 俺たちは里の入り口へ歩いていく。
 すると、入り口には一人のエルフがいた。
 ヤナハだ。

「……ただいま……」

「お帰りなさいませ、ティータ様。それにコウタ殿も」

 ヤナハは丁寧に頭を下げる。

「そちらの方は?」

「森で倒れていたから助けた。魔力酔いみたいだから、多分里で休ませた方がいいと思って連れてきた」

 俺が事情を説明すると、彼女は少し驚いた顔をする。

「森に? ……それは大変でしたね」

「ああ」

「すぐに中に入れてあげてください。長老たちも許可するでしょう」

「ありがとう。助かるよ」

 これで一安心だな。

「では、私は仕事に戻りますので」

 ヤナハはそう言って去っていく。

「さぁ、行こうか」

 俺はみんなを先導して歩く。
 しばらく歩いたところで、ふと気づく。

「あれ? グレイはどこに行った?」

 先ほどまで後ろにいたはずだが。

「ご主人様。あそこです」

 シルヴィが指をさす。
 見ると、彼は一人でこそこそしている。

「なるほど……。あそこがああなって……。この情報を親分に伝えれば、殴られずに済む……」

 彼がボソボソと何かをつぶやく。
 まるで、里内部の位置関係を探っているかの様子だ。
 俺は彼に近づく。

「おい。何をやってるんだ?」

「い、いや。別に……」

 歯切れが悪い。
 何かを隠しているようにも見える。

「俺たちはあくまで招き入れてもらった身だ。あまり勝手な行動はするな」

「そ、そうだな。すまない」

 素直に謝ってくる。
 まぁ、いいだろう。

「……それより、親分とやらはどこにいる?」

 俺はグレイにそう尋ねる。

「お、親分? 何の話だ?」

 彼がそう答える。
 おかしいな?
 先ほど、確かに『親分』という言葉が聞こえたと思ったのだが。

「いや、さっきお前が言ったじゃないか。ここの地理や内情を探っているようだし。怪しいぞ」

「な、ないない。怪しくなんてないぞ」

「そうなのか?」

「ああ。カイゼル親分なんて人は知らない!」

 グレイがそう断言するが……。

「語るに落ちるとはまさにこのことですね……」

 シルヴィがため息をつく。

「その通りだ。俺たちは『カイゼル』なんて名前を出していないぞ」

「しまった! くっ……。こうなったら……」

 グレイが口をつぐみ、逃亡を図ろうとする。
 しかし、もう遅い。

「逃さないぜ!」

 リンが彼の足を払う。

「捕まえたなのです!」

 ミナがグレイを拘束する。
 ユヅキもそれを手伝っている。

「うわ! 離せぇええ!!」

 グレイは抵抗するが、ミナの怪力に敵うはずもない。
 そのままずるずる引きずられていく。

 「ご主人様。どうします?」

 シルヴィが尋ねてくる。

「そうだな……。何を企んでいるのか吐いてもらおうか」

 森で倒れていたときは、本当に体調が悪そうだったが。
 その後に悪意でも芽生えたのだろうか?
 それとも、そもそも森をうろついていた理由がアルフヘイム関係なのか?

 やはり油断はできない。
 どこに悪人が潜んでいるか分からないものだ。
 俺はグレイの尋問を始めることにしたのだった。
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