上 下
25 / 1,274
第1章 初級冒険者として活躍 シルヴィ、ユヅキ

25話 念話

しおりを挟む
 スメリーモンキーにやられた服や装備を乾かしつつ、スキルの検証などを行っているところだ。
 システム上のパーティをシルヴィと組むことには無事に成功した。
 続いて、他の者をパーティに設定するかだが……。

「(システム上のパーティに勧誘する際には、本人の意思が確認される……。同意してもらえれば問題ない。懸念すべきは、拒否された上で、この力を言いふらされることだ)」

 システム上のパーティ設定のスキルは、一般的には広まっていないようである。
 シルヴィも知らない様子だったし、普段の他の冒険者たちの様子を見ていても明らかにそうだ。

 パーティ設定の画面において、シルヴィとユヅキは黒色、ユーヤは灰色、その他の3人は白色で表示されている。
 MSCにおいて、パーティに勧誘できる対象者は黒色で表記されていた。
 単純に考えて、ユヅキはパーティに勧誘できそうだ。
 しかし、先ほども懸念した通り、断られた上で言いふらされる可能性がなくもない。

 ユヅキはそんなに悪どいやつではなさそうだが……。
 仮にシステム上のパーティに設定したところで、実際の活動は別となる。
 彼女は『大地の轟き』の一員だからだ。

 成功しても結局別行動になるのであれば、リスクを犯すメリットがないことになる。
 ユヅキのパーティ勧誘については、様子見ということでいいだろう。

 俺はシルヴィのステータスを確認する。
 彼女は、最初からセカンドジョブが開放されている。
 要因は不明だが、基本的には朗報だと言っていい。

 俺の『パーティメンバー経験値ブースト』の恩恵に加え、経験値の自動分配なども適用されるはずだ。
 今後シルヴィは急速に成長していくことになるだろう。

 ただ、彼女のセカンドジョブは現在『未設定』となっている。
 設定しようにも、『設定可能なジョブが存在しません』と表記が出る。
 何らかの新たなジョブを習得する必要がある。

 第一候補は、『氷魔法使い』だ。
 彼女は白狼族。
 『氷魔法使い』と『獣剣士』に適正がある。
 氷魔法使いの取得条件はいくつかあるが、その内の1つはエルカの町でも試せるようなものだ。
 近いうちに試すことにしよう。

 システム上のパーティの恩恵は、他にもある。
 『お互いの所在地の把握』と『念話』だ。

 所在地の把握は、『なんとなくこっちにいるかな?』程度のものである。
 とはいえ、広大な世界で離れ離れにならないためには、なかなか有用な恩恵である。

 そして、念話だが……。

「(シルヴィ……。聞こえるか……。今俺は、シルヴィの脳内に直接話しかけている……)」

「ご主人様っ!?」

 シルヴィが突然立ち上がり、大きな声を出す。
 ユヅキやユーヤたちがこちらを見る。

「なに?」

「なんだなんだ?」

 2人がそう言う。
 傍目からはシルヴィが突然立ち上がったようにしか見えない。

「いや、何でもないんだ。……シルヴィ、座れ」

 俺はそう言う。
 ユヅキやユーヤたちはこちらから視線を外し、パーティ内での談笑を再開した。

「(シルヴィ。脳内で、俺に話しかけてみてくれ)」

「(ええっと……。こう、ですか?)」

「(そうだ。いい感じだぞ)」

 念話には、実はちょっとしたコツが必要だ。
 脳内で言葉を思い浮かべるだけではなく、特定の人物に対して話しかけるようなイメージを浮かべる必要がある。

「(これは、何なのでしょうか?)」

「(俺のスキルの1つだ。念話という)」

 正確には、システム上のスキル『パーティメンバー設定』による副次的な恩恵だ。
 まあ、細かいことはいいだろう。
 シルヴィの様子からすると、念話は少なくとも一般的には認知されていない力のようだ。

「(へえ。便利なのですね! なぜ今このタイミングで使われたのですか?)」

「(いや、まあいろいろあってな)」

 つい先ほど使えるようになった、とは言えない。

「(これなら、いつでもご主人様とお話できますね!)」

「(いや、そういうわけにはいかない。これには使用可能な時間が限られているんだ。必要なとき以外は、普通に会話したほうがいい。それに、他にも制約はある。例えば……)」

 俺はシルヴィに念話の制限を説明する。
 使用可能な時間が限られていること。
 遠方から念話を使用すると、使用可能な時間がさらに縮まること。
 その上、伝えられる内容が簡素化し、タイムラグも発生してしまうこと。
 使用可能な時間を使い切ってしまうと、再使用可能になるまで1日以上が必要となることなどだ。

 今この場で、既にそこそこ長い時間念話している。
 普通に会話できるぐらいの精度もあるし、タイムラグも特に発生していない。

 だがそれは、俺とシルヴィが今はすぐ近くにいるからである。
 例えば片方がエルカの町にいるという条件であれば、こうはいかない。

 『もうすぐ帰る』とか『ケガした。ヤバい』くらいの情報なら確実に伝えられるが、それ以上の情報となると双方のコミュニケーション能力や念話への慣れなどが必要となってくる。

「ところで、この件はあまり広めないようにな。俺とシルヴィだけの秘密だ」

「はい、秘密ですね! ご主人様はいろいろとすごいです! 一生付いていきます!」

 シルヴィが力強く宣言する。
 念話はもう切ってある。
 使用可能な時間も限られているので、できるだけ使わない方針である。

「……? なにが秘密なの?」

 ユヅキがそう言って、首をかしげる。
 いつの間に近くにいたんだ?
 念話の件に集中していて、気が付かなかった。

「いや……。なんでもないさ。それより、どうした?」

「ええと。装備や服も乾いたし、ユーヤがそろそろ出発しようって」

 確かに、装備や服は無事に乾いているようだ。
 今この周辺には危険な魔物や魔獣はいないとはいえ、ここは町の外である。
 ゴブリンの群れなどにひょっこり遭遇しないとは限らない。
 さっさと町に戻るほうがいいだろう。

「わかった。シルヴィ、行こう」

「承知しました!」

 俺とシルヴィは、出発の支度を整える。
 ユーヤたちと合流し、エルカの町に戻り始める。

 エルカ樹海は既に出ており、ここはエルカ草原だ。
 遭遇したとしても、せいぜいゴブリンやホーンラビット程度だろう。
 7人パーティである俺たちの敵ではない。

 ゆったりと、しかし油断しすぎないように気を付けつつ、俺たちは町への歩みを進めていく。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...