上 下
56 / 241

56話 実地訓練の朝

しおりを挟む
 今日は実地訓練の日だ。

「ふう……。さすが、八月だけあって暑いわねぇ……」

 この世界の暦や四季は、だいたい日本と同じようなイメージだ。
 『ドララ』が日本人向けに作られたゲームだからだろうか。

「それにしても、今回は随分と早くに集合場所に来たつもりだったのだけれど、もうほとんどの生徒が揃っているのね」

 私は周囲を見渡しながらそんなことを口にした。

「そうですね。やはり、皆さん初めての実地訓練ということで緊張しているんでしょう」

「オスカー様もですか?」

「私はいつも通りですよ。シルフォード伯爵領にいた頃も、採取はしたことがありますから。カキ氷の味付けに使えるものがないかを探していまして」

「まあ、それは心強いですわ」

「いえいえ。むしろ、イザベラ殿の方が余裕があるんじゃありませんか?」

「あら、どうしてです?」

「だって、イザベラ殿は魔法の達人ではありませんか。それに、身のこなしも貴族の令嬢とは思えないほど優れています」

 私は七歳の頃から、魔法の鍛錬に精を出していた。
 畑で栽培した作物を利用して魔力回復のポーションをつくって、効率的に能力を伸ばせたと思う。
 ゲームで得た知識もあったしね。
 身体能力が高いと思われているのは、『覇気』という技術の影響だろう。
 覇気を開放した時の私は、エドワード殿下やカインにも引けを取らない身体能力を発揮できる。
 ただし、普段の私は普通の貴族令嬢だ。
 畑仕事をしていた分、ほんの少しだけ筋力はあるかもしれないけれど、それだけである。

「はわわ。イザベラ様はやっぱりすごいですぅ」

 いつの間にやら、アリシアさんも合流していたようだ。

「おはよう、アリシアさん」

「お、おはようございましゅ、イザベラしゃま」

 …………噛んだ。

「だ、大丈夫?」

「…………はい。ちょっと、朝ごはんを食べ過ぎて、遅刻しそうになって……」

 アリシアさんは恥ずかしそうにはにかむ。

「今日は、イザベラ様の足を引っ張らないように頑張ります!」

「うん、一緒にがんばろうね」

 私達は互いに微笑み合う。

「アリシア殿。私もいますので、安心してください。今日はよろしくお願い致します」

 オスカーが丁寧に挨拶をする。

「…………」

 アリシアさんは無反応だ。
 あれ?
 人の挨拶を無視するような子じゃないんだけど……。
 たまたま聞こえなかったのかな?

「アリシアさん?」

 私が声を掛けると、アリシアさん渋々といった感じで視線をオスカーに向けた。

「……はい。こちらこそよろしくお願いします。オスカー様」

 うーん。
 二人の間に何かあったのかな?
 何だかギスギスしている。
 今までこんなことなかったような……。
 いや、これまではそもそも、男性陣が現れたらアリシアさんはいつの間にか姿を消していたのだ。
 こうして長時間行動を共にするのは初めてかもしれない。

「さあさあ、全員揃ったみたいだし、そろそろ出発しましょう! まずは東の森で薬草採取ですわ!」

 私はパンっと手を叩いて声を上げる。
 そして、オスカーとアリシアさんを先導するように歩き始めたのだった。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

訳ありな家庭教師と公爵の執着

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。 ※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷  ※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)からHOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。 ※断罪回に残酷な描写がある為、苦手な方はご注意下さい。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...