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62話 私、気になります!

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 ギルドマスターの娘である戦鬼アイシアとの模擬試合は終わった。
 俺の勝ちだ。

「まさか、儂の娘にまで勝つとはな。さすがに驚いたぞ」

 試合後、俺はパワードに話しかけられた。

「いや、こっちこそ驚きだよ。あんたの娘、めちゃくちゃ強かったんだな」

「はっはっは! まあ、幼少の頃から儂が鍛えておるからな。今はまだBランクだが、いずれは儂と同じAランクに到達するだろう」

 試合前にも言っていたが、アイシアの冒険者ランクはBだ。
 そして、パワードの引退前の冒険者ランクはAである。
 Aランク冒険者直々に鍛え上げられたBランク冒険者。
 強いのも当然と言えば当然かもしれない。

「カエデさん。あなたの強さには脱帽しました。正直に言って、私はあなたを甘く見ていました」

 アイシアが俺に向かって頭を下げてくる。

「別に気にしてない。俺の方だって、お前がここまでやるなんて思ってもなかったしさ」

「そうですか。ふふ、それを聞いて安心しました」

 微笑みながら俺の顔を見つめるアイシア。

「それで、まだ俺に何かあるのか? まさか、勝つまで再戦するとか言うんじゃないだろうな」

「いえ、そういうわけではありません。ただ、あなたのことが知りたいだけですよ」

「俺のことか……」

「はい。父が言っていた通り、私は幼少の頃から鍛錬を積んできました。そんな私より強いカエデさんの強さの秘訣は何か……。私、気になります!」

「いや、そう言われても困るんだけど」

「え~。教えてくださいよ~」

 頬を膨らませて駄々を捏ねるアイシア。
 可愛い。
 Bランク冒険者として実力は確かなのだが、精神性はまだまだ幼いようだ。

「そうだなぁ……」

 俺は顎に手を当てながら考える。

「俺の場合は……特に意識していることはないかな」

「そうなんですか?」

「ああ。特別な鍛錬もしていない。魔法も体術も、適当に使える感じだ」

 実際には、この猫耳装備が最強なだけだな。
 しかし、それを正直に言うのも憚られる。
 この場には見学者もたくさんいるし、バレたら何かされる可能性がなくもない。

 港町セイレーンでは、グリズリーやガンツに猫耳装備のことがバレて肝を冷やした。
 まあ、奴らは俺に殴られたり蹴られたりするのが好きな変態だったので、ギリギリ助かったのだが。

「ええぇ……。それはちょっとズルくないですかね。才能だけで済む話ではないと思うのですが」

 アイシアがジト目でこちらを見る。

「ははは。そうかもな。でも、仕方ないだろ? 事実なのだから」

 アイシアには嘘を伝えて申し訳ないが、これも俺の身の安全のためだ。

「……なるほど、わかりました。強さの秘訣は簡単には漏らせないということですね」

 彼女がそう言う。
 俺の言葉に疑いを持っているようだな。

「決めました! 今後、カエデさんに同行させてもらいます! 強さの秘密に、きっとたどり着いてみせます! 覚悟してくださいね!!」

 アイシアが目を輝かせて俺に宣言してきた。
 やれやれ。
 厄介そうな子に目を付けられてしまったものだ。
 俺は今後の展開に頭を痛めつつ、嘆息したのだった。
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