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57話 豪腕のパワード

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 Cランク昇格試験は終わったが、突然筋骨隆々なオッサンに呼び止められて戦うことになった。
 他の受験者たちも、足を止めて俺たちの戦いを見ている。

「よし来い!!」

 オッサンが拳を油断なく構えつつ、そう言う。
 今後は俺に攻撃権を譲ろうと言ったところだろう。

「仕方ないな。ちょっとだけ本気を出してやろう」

 俺はそう返事をして、再び戦闘態勢をとる。

「行くぞ! 【ネコダッシュ】」

「なにっ!? 消えただとぉっ!?」

「ここだ!」

 俺は猫耳装備の能力で瞬間移動し、背後をとって手刀で首筋を叩く。

「ぐおおっ!?」

 パワードが怯む。
 やはり普通の攻撃では倒しきれないか。
 なかなかのタフさを持つな。
 だが……。

「【ネコパンチ】」

 俺は無防備な体を猫の手で殴る。

「グフッ……」

 そして、パワードはその場に倒れこんだ。
 やはり、技名にネコの言葉を入れると威力が激増するなあ。
 まあ、ネコパンチの中では威力をかなり低めに意識はしたが。
 俺が全身全霊でネコパンチを繰り出せば、パワードの体は爆発して四散していただろう。

「おおっ! あの大男を倒した!?」

「しかも魔法じゃなくて、パンチでっ!?」

「何者なんだ? あの猫娘は……」

 観戦者たちがそう言う。
 Cランク昇格試験自体は終わっていたのだが、野次馬として残っていた奴らだ。

「流石はカエデさんですわ!」

「しかし、あれだけやって、まだ余裕がありそうだったでござるな……」

 エリスと桜が駆け寄ってくる。

「まあ、この程度の相手なら俺の敵ではないな」

 パンチは手加減したし、魔法はそもそも使っていない。
 相手の攻撃は受けたが、ほぼノーダメージだった。
 これぐらいの相手なら、10人以上に囲まれても余裕で対処できるだろう。

「ま、まさかパワードさんが負けるなんて……」

 女性職員が驚愕に目を丸くしている。
 確かにそこそこ強いオッサンだったが、そこまで驚くほどのことか?

「なあ。いったいだれなんだ? このオッサンは?」

 俺は尋ねる。

「えっと、彼はですね……」

 女性職員がそこまで言ったところで、倒れていたオッサンが立ち上がった。
 おいおい……。
 俺のネコパンチを受けて、まだ立つのかよ。
 いくら加減していたとはいえ……。
 並大抵のタフさじゃないな。

「儂の名はパワードじゃ! ルクセリア冒険者ギルドのギルドマスターにして、現役時代の冒険者ランクはAである!!」

 Aランク。
 それは相当な上級にあたる階級だ。

「その割には弱かったな。寄る年波には勝てなかったのか?」

 俺は素直に感想を述べる。

「ぬうっ……、悔しいが負けたのは儂じゃから言い返せん……。しかし、お前さんの実力もかなりのものだぞ。儂が弱いわけではない!」

 パワードはそう言って、俺の肩に手を置く。

「そりゃどうも」

「ふむ! 合格だ! 文句なしのCランク昇格だよ!」

「は?」

 合否は1週間後に発表じゃなかったのか?

「何っ!?」

「そんなバカな!?」

 他の受験者たちも驚いている。

「聞いたことがあるぞ……。『豪腕』のパワード。肉弾戦において右に出る者なしとまで言われた武闘家の冒険者だ……」

「あの猫娘……。いくら一線を退いているとはいえ、元Aランク冒険者に勝っちまうなんて……」

「しかも、魔法も上級クラスだろ? とんでもない嬢ちゃんだな」

 受験者たちが口々にそう言う。
 パワードは、それなりに有名な人物だったようだ。
 現役は引退しているようだし、知る人ぞ知るといった感じか。

「格好もぶっ飛んでいるしな……」

「俺もあの手で殴られたいぜ……」

「俺は踏まれてみたい」

「わかるぜ、その気持ち」

 変態どもが多いな……。
 変態はグリズリーとガンツだけで十分なのだが。

「まあいい。俺がCランク昇格だって? それはありがた……」

「いえ! ちょっと待ってください!」

 女性職員が慌てて割り込んでくる。

「魔法試験と戦闘試験は高評価ですが、筆記試験は未採点です! それに、冒険者ギルド本部の規則ではいくら支部のギルマスとはいえ、一存で特定の冒険者をCランクに上げる権限はありません!」

「そうじゃったか? 固いのう……」

「規則は規則です!」

 パワードは戦闘能力はなかなかのようだが、規則などについては適当のようだ。
 脳筋だな。
 女性職員の苦労が偲ばれる。

「仕方ないの。カエデ君。Cランク昇格は少し待っておいてくれ」

「はあ」

 まあ、もともとそんなに急いではいないし、いいけど。
 そうして、Cランク昇格試験は幕を閉じたのだった。
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