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第35話 すごい方のやばさ
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そんな彼女が、私に微笑みかけてくる。
「やぁ、初めまして。春奈くん」
「……初めまして」
「自己紹介が必要かな?」
私はふっと笑う。
そんな不遜な物言いが、冗談になってしまう人なのだ。
「日本語がお上手なんですね」
「私は四カ国語が喋れるからね。英語と日本語と中国語と韓国語」
「……ずいぶん偏ってますね」
私はわかりきったことを聞く。
「ギンに私を攫うように言ったのは、あなたですか?」
「うん、そうだね」
まるで悪びれる様子もない。
「こんなことして、許されると思ってるんですか? いくらなんでも横暴すぎます。なんの落ち度もない民間人を攫うだなんて……」
「よくいうね。UDのサーバーをクラッキングしておいて」
私は息を飲む。
(なんで……バレないように細心の注意を払っていたのに……それが、こんな短時間で特定されるなんて、そんなこと……)
「あはは」
彼女が声をあげて笑う。
あまりに突然で、私はビクッと体を硬直させる。
「な、なんですか?」
「可愛いねぇ、君は。ダメだよ、そんな簡単に顔に出しちゃ」
背筋が凍る。
「……鎌をかけたんですか?」
「今の反応で、君が黒だということがわかった。すごいね、君は。ほとんど足跡が残っていなくて、追跡は不可能だった。キャスも褒めていたよ。相当な技術だって」
「証拠もないのに、攫ったっていうんですか? なにを根拠に……」
「勘」
彼女はあっさりと言ってのける。
「そんなめちゃくちゃな……」
そう言ってから、間違っているのは私の方だと思い知る。
彼女はあのアマンダ・D・ホプキンスなのだ。
そういうめちゃくちゃを繰り返し、全てを押し通してきたからこそ、今の彼女があるのだ。
確かに、ギンの言う通りだった。
彼女はただ強いだけじゃない。
強い上にやばいのだ。
それもアンリと違って、やばい方のやばさじゃなく、すごい方のやばさだ。
情報を集めて対策を、だなんて、なにを呑気なことを考えていたんだろう。
(最初から、どうしようもなかったんだ……こんな人に目をつけられた時点で……)
むしろ私がしたことは、ただ相手に口実を与えただけだ。
「さて。君はどんな情報を持ち出したのかな?」
「あの……不正にアクセスしたことは謝ります。ちょっとした興味本位で……でも機密情報なんかは、なにも見てませんから……」
「そんな言葉を信じろと?」
「……」
到底無理な話だろう。
穏便に済ませるつもりなら、最初からこんな強行手段は取っていない。
「ギン」
「はい」
「子供には刺激が強すぎるから、また後でね」
「……」
「キャスはどうする? よかったら一緒——」
「するわけねぇだろ」
キャスパー博士が被せるように言った。
「テメェの悪趣味に付き合ってられるか」
「あの、ボス……」
ギンがおずおずと言う。
「春奈はオレの友達だから……その……」
「彼女の態度次第かな。すぐに口を割ってくれたら、こちらとしても楽なんだけどね」
「……」
「おい、行くぞ。ギン」
キャスパー博士がギンの腕を掴む。
ギンがこちらをチラと見て、それからすぐに顔を伏せた。
キャスパー博士に引きづられるようにして、部屋から出ていく。
扉が閉められると、廊下からの光が遮断され、部屋は暗闇に包まれた。
しばらくして、天井から吊るされた裸電球が灯った。
淡い電球色が、部屋を照らす。
「いいだろう、これ。こだわりなんだ」
「……悪趣味ですね」
「この部屋にはよくマッチしてると思うけどね」
彼女の言葉に、見て見ぬふりをしていたものを、否応なく意識してしまう。
ギンに拠点を案内してもらったから、存在は知っていたけれど……。
まさか私がここに囚われることになるなんて。
拷問部屋。
創作物の中でしか見たことがない、中世の拷問器具の数々。
「じゃあ始めようか」
「待ってください! 本当に私は、機密情報には一切触れてなくて……」
「なら、なおいいじゃないか」
「……え?」
「その分、最後まで楽しめる」
背筋が寒くなる。
噂には聞いたことがあった。
アマンダ・D・ホプキンスは、極度のサディストだと。
「やぁ、初めまして。春奈くん」
「……初めまして」
「自己紹介が必要かな?」
私はふっと笑う。
そんな不遜な物言いが、冗談になってしまう人なのだ。
「日本語がお上手なんですね」
「私は四カ国語が喋れるからね。英語と日本語と中国語と韓国語」
「……ずいぶん偏ってますね」
私はわかりきったことを聞く。
「ギンに私を攫うように言ったのは、あなたですか?」
「うん、そうだね」
まるで悪びれる様子もない。
「こんなことして、許されると思ってるんですか? いくらなんでも横暴すぎます。なんの落ち度もない民間人を攫うだなんて……」
「よくいうね。UDのサーバーをクラッキングしておいて」
私は息を飲む。
(なんで……バレないように細心の注意を払っていたのに……それが、こんな短時間で特定されるなんて、そんなこと……)
「あはは」
彼女が声をあげて笑う。
あまりに突然で、私はビクッと体を硬直させる。
「な、なんですか?」
「可愛いねぇ、君は。ダメだよ、そんな簡単に顔に出しちゃ」
背筋が凍る。
「……鎌をかけたんですか?」
「今の反応で、君が黒だということがわかった。すごいね、君は。ほとんど足跡が残っていなくて、追跡は不可能だった。キャスも褒めていたよ。相当な技術だって」
「証拠もないのに、攫ったっていうんですか? なにを根拠に……」
「勘」
彼女はあっさりと言ってのける。
「そんなめちゃくちゃな……」
そう言ってから、間違っているのは私の方だと思い知る。
彼女はあのアマンダ・D・ホプキンスなのだ。
そういうめちゃくちゃを繰り返し、全てを押し通してきたからこそ、今の彼女があるのだ。
確かに、ギンの言う通りだった。
彼女はただ強いだけじゃない。
強い上にやばいのだ。
それもアンリと違って、やばい方のやばさじゃなく、すごい方のやばさだ。
情報を集めて対策を、だなんて、なにを呑気なことを考えていたんだろう。
(最初から、どうしようもなかったんだ……こんな人に目をつけられた時点で……)
むしろ私がしたことは、ただ相手に口実を与えただけだ。
「さて。君はどんな情報を持ち出したのかな?」
「あの……不正にアクセスしたことは謝ります。ちょっとした興味本位で……でも機密情報なんかは、なにも見てませんから……」
「そんな言葉を信じろと?」
「……」
到底無理な話だろう。
穏便に済ませるつもりなら、最初からこんな強行手段は取っていない。
「ギン」
「はい」
「子供には刺激が強すぎるから、また後でね」
「……」
「キャスはどうする? よかったら一緒——」
「するわけねぇだろ」
キャスパー博士が被せるように言った。
「テメェの悪趣味に付き合ってられるか」
「あの、ボス……」
ギンがおずおずと言う。
「春奈はオレの友達だから……その……」
「彼女の態度次第かな。すぐに口を割ってくれたら、こちらとしても楽なんだけどね」
「……」
「おい、行くぞ。ギン」
キャスパー博士がギンの腕を掴む。
ギンがこちらをチラと見て、それからすぐに顔を伏せた。
キャスパー博士に引きづられるようにして、部屋から出ていく。
扉が閉められると、廊下からの光が遮断され、部屋は暗闇に包まれた。
しばらくして、天井から吊るされた裸電球が灯った。
淡い電球色が、部屋を照らす。
「いいだろう、これ。こだわりなんだ」
「……悪趣味ですね」
「この部屋にはよくマッチしてると思うけどね」
彼女の言葉に、見て見ぬふりをしていたものを、否応なく意識してしまう。
ギンに拠点を案内してもらったから、存在は知っていたけれど……。
まさか私がここに囚われることになるなんて。
拷問部屋。
創作物の中でしか見たことがない、中世の拷問器具の数々。
「じゃあ始めようか」
「待ってください! 本当に私は、機密情報には一切触れてなくて……」
「なら、なおいいじゃないか」
「……え?」
「その分、最後まで楽しめる」
背筋が寒くなる。
噂には聞いたことがあった。
アマンダ・D・ホプキンスは、極度のサディストだと。
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