真珠を噛む竜

るりさん

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第十四章 花椒

開店準備

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 ジャンヌとクロヴィス、そしてセリーヌの三人は、レストランの主役ともいえるテーブルと椅子を調達しに行くことになった。少し大きめの車を曳いて、ナリアが指定した場所へ行くと、使い古された飲食店の道具が捨てられている広場に出た。
 そこに置かれているものはきれいになっていて、まだ使えそうなものばかりだった。広場全体に出された店のように整理されていて、管理をしている老いた女性も優しそうな人だった。
「ここの、全て無料なんですか?」
 ナリアに言われて価格交渉に来たリゼットが、老婆と話をしてびっくりした。老婆は、歯の欠けた口でニコニコ笑いながら、ほかに来ている三人とリゼットを見比べた。
「おや、そちらの赤毛の人と片目のひとは、仲がいいのにケンカしているんだね」
 老婆はそう言って、ジャンヌとクロヴィスを見比べた。
 この女性は、どうしてそんなことが分かるのだろう。
 二人は顔を見合わせたが、同時に恥ずかしくなって赤面したまま俯いてしまった。
「長い間生きていりゃ、わかることもあるってもんさ。さあ、どれにするかい?」
 老婆は、そう言って両手を大きく広げた。四人は、広い広場に置かれたいろいろな家具の中から、北の国から取り寄せたという硬い木でできたテーブルと椅子のセットを幾つか頼んだ。
「ここのものは年代物でね。飲食店がどんどん改装していって忘れられた家具のおき場所なんだよ。処分する金もないし、持って行ってくれるだけでありがたいもんさ」
 荷物を荷車に乗せていると、老婆がそう言って、四人を送り出してくれた。荷車は力のあるクロヴィスとジャンヌが押したり引いたりした。
 コロッセオの広場に着くと、ナリアや厨房のメンバーが、テーブルと椅子以外の設営を終えていた。簡易的なかまどや、ホールと厨房を分けるパントリー、いくつものお盆、ワインやビールの樽に、ジュースや水が入った瓶。色とりどりの食器やグラス。客引きにリゼットが使う、広場に面したステージもあった。
「あんなに目立つところでフルートを吹くの?」
 リゼットの顔が、青ざめた。
 四人が広場に着くと、厨房のメンバーもナリアやセベルも、荷の上げ下ろしや設置を手伝ってくれた。厨房には山ほどの食材が置かれていた。仕込みの終わったものは大きな布がかぶせてあった。
 ジャンヌたちが持ってきたのはテーブルと椅子のセットで、十組あった。ナリアはそれでは少ないと言ったが、それ以上は荷車に乗らなかった。
「待ってくれているお客さんには、外にベンチを作ってそこで対応しましょう。私とリゼットが、セベルさんの飲み物を運んでお客さんに配るわ。それで、待っている時間が苦痛にならないように工夫すればいいと思うの。リゼットには、フルート以外の出し物をお願いするかもしれないけど」
 セリーヌの提案に、リゼットは胸を張った。
「できることなら何でもするわ! 任せておいて!」
「それじゃ、中でも外でも宴会だな」
 三つの免許状を厨房に貼っていたセベルが、楽しそうに笑う。すると、厨房の隅で食材とにらめっこをしながら打ち合わせをしていたエリクとアースが、こちらにやってきた。
「ホール係と打ち合わせをしたいんだ」
 今回のレストランでは、注文を受けたら一品ずつ伝票を切る。伝票はミシン目の入ったもので、二つに分かれるようになっていて、一つはお客さんに、一つは厨房に渡す形になっている。伝票には席数と人数を必ず書いて、会計係のセリーヌにも、厨房にも同じ情報が行くようになっていた。
「今回はすべてコース料理で、単品はほとんど出さないから、こういう伝票にしたんだ」
 エリクが説明すると、セリーヌが意見を出した。
「伝票が風に飛ばされてばらばらになってはいけないわ。お客さんが隠してしまってもいけないし。だったら、私がすべて管理したほうがいいと思うの。お客さんに配る伝票は、席ごとに私が管理して、お会計の時に計算して出すわ。今回の値段設定だとお釣りにコインが出ることはないでしょうから、紙幣を扱うことになるし。それを止めておく石や箱、伝票を刺す針も必要。すべて、印刷屋さんにあるかもしれないから、メニューを受け取って、それも買ってくるわ」
セリーヌは、そう言うとナリアに許可を取って、印刷屋へと急いだ。
「今回の客引きには、フレデリクも付き合ってくれると思うんだ」
エリクが、嬉しそうに皆の中に入ってきた。レストランの設営はだいぶ終わっていた。そこで、リハーサルをすることになった。実際に一つだけコースを出して、お客さんの係になったナリアに料理を出す、本番さながらの練習だ。
 セリーヌが印刷屋から帰ってくると、エリクがその練習の説明をした。セリーヌはそれを快く受けた。
「これは、準備段階での料理の匂いでお客さんを呼び寄せることにもなりますから、ほとんど本番と言っていいでしょう」
 それぞれが、それぞれの持ち場に着くと、ナリアはそう言って外に出た。フレデリクの上に乗った、小さな花小人がフルートを構える。そして、きれいな音色があたりに響き渡ると、ナリアが入ってきた。
 ナリアが席についてメニューを見ると、フロア係であるジャンヌが、ナリアのところに行った。すると、ナリアは何か注意したので、ジャンヌはスタンバイしているクロヴィスのところに帰ってきた。
「こちらから注文を取りに行ったらダメなんだって。お客さんのペースが大事だから、お客さんが来た時に一回接客するでしょ、その時に、コースがお決まりでしたらお呼び下さいっていうんだって。私とクロヴィスで一人五席ずつの担当で、外に出て待っているお客さんにはナリアさんが当たるみたい」
 ジャンヌは緊張していた。そのうち、ナリアが手を挙げてクロヴィスを呼んだ。そして、メニューを開いてコースを伝えた。しかし、その際に今度はクロヴィスが何かを言われた。
「お客さんの目の前で、伝票を切り離したらダメだ。あと、料理を出す際に料理名を必ず言うこと。例えば、チャーハンでございますって。チャーハンになりますってのはダメらしい」
「厳しいなあ。露店なんだからそこまでしなくても」
 二人で話していると、ジャンヌとクロヴィスは、今度は二人とも呼ばれた。
「お客さんのいるところで話をしちゃダメなんだね」 
ジャンヌもクロヴィスもナリアの厳しさに、少し緊張を強くした。ナリアがどうしてここまで厳しいのかは分からなかった、これで、クロヴィスとジャンヌは、互いのことにかまけている暇が無くなってきた。
そして、ナリアの注文が済んでからすぐ、セベルの作る飲み物が出て、料理を作るいい匂いが漂ってきた。店の外には人だかりができて、客引きのリゼットが店の紹介を始めた。
 みんなの戦いが、いま、始まった。
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